【要約】
本書はファンドマネージャーとして村上ファンドの名で名をはせた著者が、過去に受けた村上バッシング(強欲だ!と叩かれインサイダー取引による有罪判決等)により迷惑をかけた家族や友人に対して、世の中に、自分は何を目指し行動(投資)してきたのかを語ることにより過去を清算し報いることを目的として書かれた本。
投資哲学が満載で、波乱万丈な人生を一つの物語としても楽しめる。そんな一冊。
【重要な点】
・父の教え
父はいつも「上がり始めたら買え。下がり始めたら売れ。一番安いところで買ったり、一番高いところで売れるものだと思うな」と言っていた。まさにその通りだった。
・優れた投資家とは
そもそも投資とは何かという根本に立ち返ると、「将来的にリターンを生むであろうという期待をもとに、資金(資金に限らず、人的資源などもありうる) をある対象に入れること」であり、投資には必ず何らかのリスクが伴う。しかしながら投資案件の中には、リスクとリターンの関係が見合っていないものがある。それを探し、リターン>リスクとなる投資をするのが投資家だ。 私はこのリスクとリターンの関係を、「期待値」と呼んでいる。期待値が大きくないと、金銭的には投資する意味がない。そこを的確に判断できることが、優れた投資家の条件だ。期待値を的確に判断するためには、数字だけではなく、その投資対象の経営者の資質の見極め、世の中の状況の見極め等、実に様々な要素が含まれる。
・村上さんの投資手法
私の投資は徹底したバリュー投資であり、保有している資産に比して時価総額が低い企業に投資する、という極めてシンプルなものだ。
・期待値
投資判断の基本はすべて「期待値」にある。いろいろな投資案件において、きわめて冷静に分析や研究をして、自分独自の「期待値」を割り出している。たとえば、百円を投資する場合の「期待値」の計算方法は、次のようになる。 ・〇円になる可能性が二〇%、二百円になる可能性が八〇%であれば、期待値は一・六(〇×二〇%+二×八〇%=一・六)。 ・〇円になる可能性が五〇%、二百円になる可能性が五〇%であれば、期待値は一・〇。 ・〇円になる可能性が八〇%、二百円になる可能性が二〇%であれば、期待値は〇・四。 期待値一・〇を超えないと、金銭的には投資する意味がない。この「期待値」を的確に判断できることが、投資家に重要な資質だと私は考えている。
⇒この期待値という観点から割り出すと、宝くじは〇・三、公営ギャンブルは〇・七五、カジノは〇・九強となる。これらは期待値一・〇を下回っているので、私は手を出さないことにしている。 「期待値」のほか、私が投資判断を行なうにあたって重要視している指標がIRR(内部収益率、Internal Rate of Return) だ。手堅く見積もっても、IRRの数字が一五%以上であることが基準となる。
・投資家として大事なこと
失敗したと気が付いた時いかに素早く思い切った損切りができるか。下がり始めたら売る決断をいかに速やかにできるか、ということだ。それによって、失敗による損失を最小限に止めることができる。
【その他】
・上場のメリット
企業とその経営者にとって、上場には二つのメリットがある。ひとつは、株式の流動性が上がること。すなわち、株式が換金しやすくなることだ。もうひとつは、資金調達がしやすくなることだ。逆に言えば、この二つが必要ない場合には上場する必要もない、と私は考えている。
・上場のデメリット
コストがかかる点が第一に挙げられる。企業の規模によっても異なるが、IR(投資家向け広報) など必要な部署とその人材の確保、株主総会を招集するための通知を発送するコストや監査のコストなど、少なくとも年間五千万円、多ければ数億円から数十億円レベルの費用がかかる。直接のコスト以外にも、上場していることに伴う業務は多く、見えないコストもかさむ。そして、デメリットの第二には、いつ誰が自社の株主になるかわからない点が挙げられる。
・コーポレートガバナンス
コーポレート・ガバナンスとは、投資先の企業で健全な経営が行なわれているか、企業価値を上げる=株主価値の最大化を目指す経営がなされているか、株主が企業を監視・監督するための制度だ。
・米国の投資家心理
アメリカの投資家のお金を預かってみると、驚きの連続だった。日本の投資家は私の理念に賛同して出資をしてくれたが、アメリカの投資家は違う。まず理念を説明すれば、「日本の資本市場を変えたいという君の理念はわかったが、実際にはどうやっていくら儲けるんだ? どうやってエグジットする(利益を確保する) んだ?」と必ず聞かれ、「日本の資本市場をどう変革するかなんて、私には興味がない。とにかく儲けてこい」とだけ言われた。
・面白い
投資につきものであるリスクを査定する際には、定量的な分析よりも定性的な分析が重要なポイントとなる。数字や指標の判断よりも、経営者やビジネスパートナーの性格や特徴を摑むことだ。だからディスカッションを通じて相互の考え方や経営方針を確認し、どういった点で衝突する可能性があるのか、衝突を話し合いで乗り越えていくことができるのか、もしも案件が上手くいかなかった最終局面で冷静な議論ができる相手かどうか、など数字や契約書には表れない細かい点を深掘りしていくことが重要になる。
・企業買収に対する防衛策
上場企業が買収されることをリスクと考えるのなら、買収防衛策や持ち合いといった保身的な意味での対策を取るのではなく、コーポレート・ガバナンスを徹底し、企業価値の向上に注力することだ。それにより株価を上げることが防衛策。
・企業買収には、極端にいうと大きく二つの種類がある
ひとつは、他社と合併などをすることによって、それぞれの事業へのシナジー効果が大きく、一+一が四になるような、双方の企業にとってプラスになる買収だ。 もうひとつは、その企業が持っている資産と比較して株価が安いときに行なわれる買収だ。こちらの場合、資産やキャッシュを吸い上げておしまいという場合もあり得る。それを防ぐためには、企業が将来の成長性を明確に提示したり、株主への還元を積極的に行なうなどの自助努力によって、自社の株価を上げておくことが大切だ。そうした努力を放棄して買収防衛策に頼ろうというのは、上場企業のあるべき姿ではない。
・面白い
経営陣にとって、会社の業績と自分の給与が連動していない、業績に直結して解雇される事態にならない、したがって株価を上げるインセンティブがない、という日本の企業風土が原因ではないだろうか。その結果、経営陣の立ち位置が、上場企業においてあるべき姿と乖離している。
・コーポレートガバナンスの重要性
改めて、さらに声を大にして言いたい。「コーポレート・ガバナンスと、その浸透による資金循環の促進」こそが経済成長を促す策だ、と。
【読後アクションプラン】
・上がり始めたら買え。下がり始めたら売れ。一番安いところで買ったり、一番高いところで売れるものだと思うな
・今は実態経済に対して株高の貴重があるため、現金比率を高めて暴落を待ち、すかさず投資する。
・時には損切も重要。今後上がる見込みのない株は塩漬けにして持っておく意味はあまりない。