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感想・レビュー・書評
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自国の大衆とはまったく異なる思想をもった、大量の人が流入してくることの意味がよくわかる本だ。
本書は西洋における移民の現状、背景、歴史についてわかりやすくまとめている。本書を読んで、ヨーロッパに2500万人ものイスラム系の人が居住していること、その大部分が若年層の男性であること、彼らのほとんどは移住先の国に同化せずに自分たちの宗教、思想を強力に保持し続けていることを初めて認識した。たしかに、自国から逃亡することは非常に危険な行為であり、十分な力と体力が必要であることを考えると、移民に女性や子どもは少なく、大部分が若い男性であることは理解できる。そしてそこから、過激な思想をもつものが現れ、テロを起こすことも。これまでの、女性、子ども、年長の男性がテロを起こした回数と、若年男性が起こした回数を比較すると、圧倒的に後者の方が多いだろう。
ヨーロッパにおいて、移民による強姦や盗難などの犯罪が相次いだ際に、それを隠蔽する動きがあったようで、とても印象に残った。あらゆる人には普遍的に人権があり、生存権が守られねばならない、そのような思想のもと、移民の受け入れは始まった。それ自体は悪くない。だが、その相手がまったく別の思想、宗教を持ち、異なる論理体系で行動する場合、どうするべきなのか?たとえば、女性が自由に生きる権利などなく、性的に攻撃する場合は?このような問題は現実に起こった。2015年の大晦日にケルンで起きた、約1000名のアラブ・北アフリカ系男性による女性に対する516件の性的暴行、強盗事件などだ。正しいという前提で始められたことが巨大な問題を孕んでいた場合、人はそれをなかったことにする、もしくは別の問題とすり替えるらしい。この事件を含んだ多くの移民による犯罪は隠蔽された。
移民が来てからよく問題になったのは、移民による犯罪ではなく、公共の場で女性が顔を隠すなどのイスラム系の人の服装を認めるべきか、といった問題だったらしい。どう考えてもより大きな問題は犯罪の方なのに、服装などという瑣末なことに注目している。人は、大きな問題を解決するのが難しいとき、より小さな、些細な問題にこだわるのだ。
移民に女性がいた場合、往々にしてその途中でレイプされるらしいが、これは北朝鮮から中国、モンゴルをへて韓国まで逃亡した女性の自伝に書かれていたこととまったく同じで驚いた。無法地帯で真っ先に犠牲になるのは、女性なのだ。
宗教や神の不正確さが暴かれ、大きな物語を失った私たちと、イスラム教を信じる移民たちとの対比も面白かった。神を失い、一般的な意味での生きる意味を見失った我々は実存的な不安を抱えており、どこに向かえばいいのかわからない。その一方で、明確に信じるべき思想、宗教をもつイスラムの人々は、それに従い判断、行動できる。たとえそれが過激な、死を伴うようなテロ攻撃であったとしても。
本書は単なる移民の問題にとどまらず、そこの背景にある私たちの思想や生き方の変遷についてもわかりやすく解説している。世界の状況を理解し、自分のポジショニングを決めるのに重要な役割を果たす素晴らしい本だ。本書の著者、ダグラス・マレー氏の本は今後もすべて読もうと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
同書p230。アルジェリアの元大統領ウアリ・ブーメディアンが1974年の国連総会で、「いつか何百万人という人々がこの南半球を離れ、北半球に流入するだろう。だが友人としてではない。なぜなら彼らは征服するために流入するからだ。彼らは自らの子供たちを底に住まわせることによって征服するだろう。勝利は女性たちの子宮から我々にもたらせるのだ」今起こっている移民は、ただの移民ではないことを示唆していますね。
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イギリスの左右両派の政権が、移民問題の議論を先延ばしにし、反対勢力を「差別主義者」と攻撃し続けたのは、国民の賛同が得られない(差別主義者のレッテルを張られるわけにはいかない)だけでなく、もはや事態は制御不可能になっている、と疑っていたからだ
移民は経済発展をもたらすということへの反論
・福祉国家においては、福祉サービスを食いつくす(彼らが税を納める以上のペースで)
・低賃金労働者が雇用を奪う
・住宅不足を招く
一国のGDPは移民によって当然上昇するが、大切なのは一人当たりGDPであり、移民がこれを改善する証拠はない。
移民は高齢化を解決するということへの反論
・人口を維持しようとする限りは、移民を一度受け入れたら、その後は倍々ゲーム方式に増やしていかねばならない。なぜなら、移民もまた老いて、白人と同じ福祉サービスを要求するから。
・そもそも、自国民の出生率が悪いのであれば、子供を産むのを妨げる要因(養う金がない)のを取り除くのが先であり、取り除かなければ移民も子供を産みたいと思わない。
移民は文化の多様性を生むということへの反論
・移民の数が増えれば、文化的な豊かさが倍増するわけではないだろう。
・そもそも文化の多様性は、「ただ移民が定住するだけ」ではなく、「移民と受け入れ先の社会が双方向に信頼し合う」ことでしょ?それは簡単には出来ない
・文化のいい面だけ見てて、悪い面を見てない
多文化主義の時代は、欧州の自己放棄の時代だった。多文化の移民を受け入れる国家は、国家としてのアイデンティティから一歩身を引き、親切な大家として機能した。
また、極めて単一的だった欧州の過去を、多文化的になった現在に合うように書き換えられもした。
多文化主義の時代における過ちは、移民のイデオロギーが議論の対象とされず、議論する際にそれらから目をそらし続けていたことにある。
昔の議論の対象は人種だったが、「他信仰主義」の時代になるにつれ、本当の問題は宗教ではないかと、欧州が疑い始めた。
移民が単に同化しないばかりか様々な宗教観・社会観を持ち込み、反ユダヤ主義と同性愛バッシングにつながっていく。
ホロコースト、植民地主義、帝国主義などの過去の罪に対して、欧州人だけが謝罪を求められ続け、罪悪感は西洋の道徳的麻薬と化している。
難民による、女性へのレイプを、外交政策や人種的ルーツへの影響から、公にできない、事件を報道しないケースが相次いだ。「過激化」が特定のコミュニティに広がっているのだ。イスラム主義や大量移民を批判すれば、たとえそれがテロやレイプに対する批判であっても、人種差別主義、ナチズムの現れと受けとられかねない。
欧州の哲学者たちは真実の精神や偉大な疑問の探索に奮い立つのではなく、いかにして疑問を避けるかに腐心するようになった。「価値判断は誤りである」という価値判断がはびこっていた
東欧は西欧のような歴史的罪悪感を抱えておらず、移民割り当てに拒み続けている。
合法移民と不法移民の区別は更に曖昧になっていく。欧州の政治指導者達は、欠陥と矛盾を抱えた同じ思想のもと、同じ過ちを繰り返す。欧州の善意は食い物にされ続け、欧州の大衆の感情は損なわれ続ける -
中東やアフリカから多くの人々が欧州へ流入している。戦災からの避難者や政治的迫害を受けた人は難民と呼ばれるが、仕事を求めて景気の良い国に行く経済移民も少なくない。これに対して欧州各国の政府や指導者はどのような政策を進め、その結果何が起きたのか。
まず前提として、EU諸国のエリート層はリベラルが支配的であり、困っている人々を受け入れるのは当然の義務だという意見が強い。また、かつて欧州諸国が植民地政策によって世界の人々を苦しめたという後ろめたさと、欧州の中でもナチスによるユダヤ人迫害の記憶から、民族差別的な発言は強く忌避される。その結果、ほぼ無制限とも言える移民の受け入れが積極的に進められてきた。
ところが現代において欧州にやってくる人々の大半がイスラム教徒である。イスラム教の教義はリベラルではない。男女平等という思想を共有しておらず、露出の多い服で外を歩いている女性はレイプされても仕方がないと考えている。イスラム教の宗教指導者は、アラーを冒涜をした者を殺害するのはイスラム教徒の義務だと発言している。そして実際にレイプ事件やテロは起きている。
リベラルの寛容さによって欧州に受け入れられた人々が、リベラルの価値観を受け入れずに欧州で暮らし、自分たちの価値観を広めていけば、リベラルな社会は持続できない。その時、受け入れた人々はどうなるのか。
著者が本書で何度も強調するのは、移民による犯罪は現実に起きているのに、それを指摘すると即座に人種差別主義者のレッテルを貼られ、言論を封じられるという状況が欧州にあることだ。恐らく本書の出版によって著者自身もそういう攻撃の対象になったと思われる。逐一根拠を示して事実を指摘することで多少なりとも回避できたかもしれないが。
欧州文化の基盤がキリスト教にあることは明らかだが、移民の増加により、白人のキリスト教徒が少数派になっている街もあるそうだ。そしてあと一世代か二世代のうちに、欧州全体がそうなるという。その時、今の私達が思っているような欧州は消えるだろう。
さて日本人の立場から本書を読んだ時、参考にすべきことはたくさんある。本書の最初の方で、先進国でありながら移民が押し寄せていない国のひとつとして日本が挙げられているが、その理由はふたつあるだろう。ひとつは日本の地理的な位置、もうひとつは移民政策のあり方だ。後者については今まさに議論が進められている。
当面は積極的な受け入れを進めることはなさそうだが、人口減少と少子高齢化が進む中で、もっと必要という話になる可能性は十分にある。その時どんな移民政策を取るか、欧州の前例をよく研究すべきだろう。 -
移民を止めなきゃ西欧の文化、歴史、人々が死ぬぞ!ということを、論理的に述べた本作。
気持ちも分からなくもないが、既に何百万人と移民が発生している現在、ちょっと手遅れな気もするがいかがだろうか。
著者プロフィール
ダグラス・マレーの作品
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