FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 1. レトリックがうまい。「チンパンジー=33%正答率」や「10億人=人間コマ1個分」など、事実を伝えるための整理の仕方がうまい。この人がファクトフルネスの重要性を伝える使命に燃えているからたまたま悪用されていない説得術がふんだんに使われている。「正確なデータをいかに上手に示すか」について、巷のコンサル本より学びが多い。

    2. 「ドラマチック」が無知の代名詞のように使われていること、善を為そうとする人が統計的前提を把握してから動かないとロクなことにならないことを伝えていること(dramatic <-> factful ) 。大抵の社会運動の出発点をどこに置き直すべきかを整理するために重要な本になっている。

    3. 「国内格差」についての視点の不在。ロスリングは「地球全体の問題解決の程度」を常に争点としているが、たとえばこの議論はピケティなどが論じる「各国内の富裕層と貧困層の格差」という問題については無視している。ではロスリングの視点が最も客観的で、ピケティの問題は地球全体にとって些末時で「ドラマチック」な運動なのか? どうもそうではないように思える。貧富差の固定化が問題となるのはもしかするとロスリングの言うLv3-4の国の中での問題に過ぎないかもしれないが、他方でその格差の放置が、ロスリングが褒め称えている寿命の上昇を妨げる要因にもなったりする(国民皆保険のないアメリカの平均寿命が先進国の中でもっとも伸び悩むことをロスリングが指摘した通りに)。

    総合的感想: 1,2,3を組み合わせると、「ロスリングの言うことはまったくその通りであり、この議論によって“前提のおかしい社会運動"の大半は一度出直さなければならなくなると思われるが、その上で何か巨大な一塊りの問題が、このハキハキとしたレトリックの近傍で黒々と塗り込められたまま残っている」と感じてしまう。

    そういう違和感をこの本に対して初めて持ったのは、福島原発事故にまつわる死亡者について語る下りだった。ロスリングは「福島原発事故で死んだのは約1000人だが、避難後の疲労で死んだのであり被曝で死んだのではない」と言う。しかし、避難しなかったらどうなるかわからないし、なにしろノンフィクション漫画『フクイチ』のような、強烈な被曝リスクを抱えて原発事故の対処に追われる人々の死亡リスクについて軽視し過ぎているように思われる。ロスリングはこの点において、ドラマチックな見方はしていないが、かといって福島原発事故に対してファクトフルでもないように思われる。

    ロスリングの議論の弱点というか恐怖するところは、地球規模の正確な知識を重視するあまり、各地域の局所的な不幸に対して「いやそれはまだデータとして見えないし、ファクトフルな議論の俎上に登らない、優先度の低い話だよ」という帰結を誘発させかねないところだ。そんなある種の誤断はまるで、宇宙規模の人口問題を解決しようとして宇宙の人型生物の半分を抹消しようとしたサノスのように邪悪に感じられる。『アヴェンジャーズ』シリーズにおけるサノスの行動原理はドラマチックではなく、ファクトフルだったかもしれないが、だからといって正しく善行をしたのか?(ロスリングに言わせれば「いや彼はそもそも人口爆発に関してドラマチックに過ぎたね」と言うかもしれないが……。)

    たしかにロスリングの議論が歓迎されればされるほど、その視点を褒める人間の中には「ドラマチックな無知の善」は減るかもしれない。しかし、「自分の見解をファクトフルだと信じる邪悪」を生み出しかねないような議論にも見える。杞憂で愚かな感想なのかもしれないが、なにかがひっかかる。

    書いてある物事の範囲ではほぼ100%正しく、見事に説得されるにも関わらず、その視点の巨大さから霞んでいる何かについてそこはかとない恐怖を覚える、そんな本だった。とはいえ、ベストセラーになることがおおむね公共善につながることは間違いのない優れた啓蒙書であることは認めたい。明晰なデータだけでなく卓抜したレトリックによっても興奮させられるような、説得術という概念が書籍の形に具現化したような本だ。

  • 事実に基づいて物事を判断する。
    出来るようでなかなか出来ない。
    経験を積めば積むほど成功体験や失敗談で判断しがちになっていく。感情論に走らずに今考えていることは正しいかを常に疑ってかからなければならない。この本の内容でさえ。
    ピストル曰く
    「俺を含め誰の言う事も聞くなよ」と。

  • 読んで良かった1冊。人間が陥りやすい心理的な癖を指摘しながら世界を正しく読み解いていく。
    何よりもこの著者の生き様が見えてくる内容で医師として、人類に、世界に真摯な姿勢で向き合ってきたんだろうなーと感じさせる。
    とても謙虚で過去の自分が犯した間違いも正直に書いてある。そこから何かを学ぼうとする姿勢もまた良い。

    エボラを食い止めるために封鎖という拙速な判断をしたがために何人も人が亡くなってしまい、それを30年以上誰にも言えなかった…って告白してるシーンが印象的だった。僕からしたら責められない状況だと思ったんだけど自分が許せなかったんだろうな…。

    ついつい人間の本能的な部分で判断してしまいがちなので、この本に書かれてることを実践していくのは難しいと思う…でも都合の良い結論や一見魅力的に見える結論にパッと飛びつかないように気をつけようと思った…。

  • 読みやすい。スラスラ読めた。翻訳が良いからか?著者が上手だからか?物事を数字で捉えて考えて発言する事の重要性は仕事柄分かっているつもりだったが、改めて知らない事の多さを感じた。色々なバイアスが掛かって世界を正確に捉えられていない事を。子供達と世界をどう理解すべきか話し合ってみたいと思った。著者の1人が完成前にお亡くなりになった事を最後に知る。うるっと来た。自分は世界が良くなるために何かしている事はあるだろうか。

  • 事実とは違う思い込みをしてしまうことについて、改める方法を提示している。飢えや飛行機事故は改善されているが、そのような良い報道はされないため、自分の認識がアップデートできていない。人々は自分と同じはずであるとか、パターンで一括りにできない。日々よく「なんでこんなに話が伝わらないんだろう。」と感じるが、そもそも相手と前提が違うことが多く、そこに早めに気付けるかが重要と思ってる。
    この本は各所で大絶賛されていたので、「絶対にめちゃくちゃおもしろいんだろう。」という思い込みを持って読んだが、事実とは違ったな!

  • 人間の思い込みがいかに思考力に影響を及ぼすか、豊富なたとえや数値で世界を読み解いていく本です。正確なデータをいかに提示し、判断していくかの指針を示してくれます。
    一方で作者自身の血の通ったエピソードもあり、正しいことと信じながら過ちをおかしてしまった苦悩に心が揺さぶられました。

    刊行されて数年、ディスインフォメーションとディープフェイクがますますはびこっていく世の中ですが、この本は灯台の役目を果たしてくれているような気がします。

  • 2019年に世界中で最も話題になった本の一冊と言ってもいいような本。あのビルゲイツが大卒の希望者全員ににこの本を配ったらしい。

    世界の現実をデータを基に記していくのだが、その中で僕たちがいかに感覚的な勘違いをして生きているのかが描かれている。
    人間の心理について書かれた本といっていいだろう。

    世界中で反響を呼んだ要因の一つが、冒頭で記された13の三択クイズだ。

    例えばこんなものがある。

    ---

    ☆現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう?

    A 20%
    B 40%
    C 60%

    ---

    私たちはいかに感覚を頼りに間違った知識を世界の常識だと思い込んでいるのかが書かれている。30年前と今のデータが同じなはずはなく、発展途上国と言われた国がいつまでも貧しい暮らしをしているわけではない。

    世界は発展途上国と先進国の二極化が進んでいるわけではなく、途上国と言われた国がどんどん裕福になっていて、世界は豊かになっているそうだ。

    東南アジア諸国の急速な発展を目にする機会が多い我々アジア人には納得できる部分もあるだろう。

    この本の素晴らしいところは、知識がないことを知識がないと指摘するのでなく、人間の本能として様々な思い込みが存在(例えば、世界はどんどん悪くなっていっているとか)するので、それらを知ったうえで対応策が必要であるということが描かれているところだ。

    読めば必ず引き込まれる一冊。

  • グラフを、平均から分布に変えただけで、印象がまるで違うのに驚かされた。
    世界がどんどん悪くなっているとは思っていなかったが、こんなにも改善されているとは思ってなかった。
    著者も言うように、良くなっていると思うことは、未だ残る様々な問題を放置しようとしているようで罪悪感がある。
    けど、世界は良くなっていない、という考えが蔓延すると、悲観的で投げやりな人ばかりになって、良くないのはわかる。
    「今までの進歩を喜び、同時にさらなる進歩を求めたい。」
    「悪い」と「良くなっている」は両立する、の保育器に入った赤ちゃんの例えはわかりやすい。
    「良い変化はあなたの耳に入ってこない。あなたが探すしかない。」という著者の言葉は忘れないようにしよう。
    恐怖本能は根強い。自然災害は恐ろしいし、飛行機の事故率や死亡者数の少なさを知っても、乗る気にはなれない。35年前の日航機事故の映像が脳裏に焼き付いてる。
    2011年の地震では、原発の放射能によって亡くなった人は一人もいないが、避難によるストレスや体調不良で亡くなった人は1600人もいたらしい。避難せずに自宅で暮らしていたら、亡くならずにすんだんやろうか。それでも私は見えないものに対する恐怖心から避難してしまうと思う。
    所得レベルごとの写真はとても興味深い。
    著者自身の、人の命に関わる間違いについても、赤裸々に語られている。

  • データを用いて世界の状況について、真実を伝えるとともに、人が陥りやすい思い込みや思考傾向について述べ、その改善策を書いている。主として世界の富裕層と貧困層について述べているのだが、世界は日々良くなっており、思っているほど貧困層は多くないし、悪くもないことがわかった。古い知識やメディアの影響で、誤った認識を持っている人が多く、なぜそうなるかの理由の一端も理解できた。論述が正確で適切。説得力がある。

    「(マレーシアの低い乳幼児死亡率)この14(出生児1000人当たりの5年生存者数)という数字を見るだけでも、マレーシアのほとんどの家庭には十分な食料があり、水道水に下水が混ざることもなく、誰もが基本的な医療を受けることができ、母親も読み書きができることがわかる。乳幼児死亡率からは、子供の健康状態だけでなく、社会全体の健康状態がわかる」p29
    「人は誰しも、さまざまな物事や人々を2つのグループに分けないと気が済まないものだ。そして、その2つのグループのあいだには、決して埋まることのない溝があるはずだと思い込む。世界の国々や人々が「金持ちグループ」と「貧乏グループ」に分断されているという思い込みも、分断本能のなせるわざだ」p30
    「多くの人が、低所得国の暮らしは実際よりひどいものだと勘違いしていることはもうわかった。では、そんな哀れな暮らしをしている人たちはどれくらいいると思っているのだろう? というわけで、スウェーデンとアメリカの人たちに聞いてみた。「世界の人口の何%が、低所得国に住んでいると思いますか?」この質問で最も多かった答えは「50%以上」で、平均回答は59%だった。正しい答えは「9%」だ。低所得国に住んでいるのは、世界の人口の9%しかいない」p40
    「世界についての暗い話はニュースになりやすいが、明るい話はニュースになりにくい。本当の意味で明るい話とは、数えきれないほどの「小さな進歩」が世界中で起きているということだ。そんな「小さな進歩」の繰り返しが世界を変え、数々の奇跡を起こしてきた。私が世界中のカンファレンスで引っ張りだこになるのは、こういった「小さな進歩」の数々があまりにも知られていないからだ」p64
    「1800年頃は、人類の約85%が極度の貧困層、すなわちレベル1($2/日以下)の暮らしをしていた。世界中で食料が不足しており、ほとんどの人が、年に何度もお腹を空かせて眠りについた。イギリス国内や植民地では児童労働があたりまえで、子供たちが働き始める平均年齢は10歳だった」p67
    「人類は全員レベル1からスタートし、1966年まで、大半の人はレベル1で暮らしていた。極度の貧困は「例外」ではなく「あたりまえ」だった」p67
    「極度の貧困の中で暮らす人々の割合は、20年前には世界の人口の29%だったが、現在は9%まで下がった。ほとんどの人が地獄から脱出したということだ」p68
    「ネガティブ本能(世界はどんどん悪くなっているという思い込み)を刺激する要因は3つある。①あやふやな過去の記憶。②ジャーナリストや活動家による偏った報道。③状況がまだまだ悪い時に、「以前に比べたら良くなっている」と言いづらい空気。だ」p83
    「人々は過去を美化したり、国家は歴史を美化したがる」p95
    「極度の貧困に暮らす家庭は、たくさんの子供がいないとやっていけない。子供は労働力としても必要だし、病気で命を落としやすいぶん、多めに子供をつくらないといけない。女性ひとりあたりの子供の数が最も多いのは、ソマリア、チャド、マリ、ニジェールなど、乳幼児死亡率が最も高い国々だ。そんな国でも、子供の死亡率が下がり、児童労働が必要なくなり、女性が教育を受け、避妊について学び、避妊具を入手できるようになれば、状況は一変する。国や文化にかかわらず、男性も女性も子供の数を減らし、そのぶん子供に良い教育を受けさせたいと考えるようになる。「貧しい子供を助けると、人口はひたすら増え続ける」という主張は正しいようで正しくない。実際は、貧しい子供を助けないと、人口はひたすら増え続ける」p115
    「めったに起きないことのほうが、頻繁に起きることよりもニュースになりやすい。こうしてわたしたちの頭の中は、めったに起きないことの情報で埋め尽くされていく。注意しないと、実際にはめったに起きないことが、世界ではしょっちゅう起きていると錯覚してしまう」p134
    「(悪者になっているDDT)アメリカ疾病予防管理センターと世界保健機関は、DDTを「人体にとって、やや有害」だと位置づけた。そして多くの場面で、DDTのメリットはデメリットを上回ると指摘した」p151
    「最も貧しい場所では、すべてを完璧にこなすことはできません。何かを完璧にこなそうとすれば、もっと大事なほかのことがおろそかになりますよ」p165
    「メディアは過大視本能につけこむのが得意だ。ジャーナリストたちは、さまざまな事件、事実、数字を、実際よりも重要であるかのように伝えたがる。また、「苦しんでいる人たちから目を背けるのは、なんとなく後ろめたい」と思う気持ちを、メディアは逆手に取ろうとする」p167
    「もしも国連の人口予測が的中し、アジアとアフリカの所得がこのままのペースで伸びていったら? おそらく次の20年間で、世界市場の中心は大西洋周辺からインド洋周辺に移るだろう」p178
    「国は違っても所得の同じ人たちのあいだには驚くほどの共通点があることがわかるし、国は同じでも所得が違えば暮らしぶりがまったく違うこともわかる」p201
    「ナイジェリアと中国のレベル2家庭では調理方法がほとんど同じだったことを思い出してほしい。あの中国の写真だけを見た人は「なるほど、中国ではこうやってお湯を沸かすんだな。鉄瓶を火にくべるのか。それが中国の文化なんだ」と思うだろう。だが違う。世界中のレベル2の人たちはみんな、同じような方法で湯を沸かしている。つまり、所得の問題なのだ。それは文化の違いではなく所得の違いによるものだ」p205
    「集団が特別な宿命を持っていると訴えれば団結しやすいし、ほかの集団に対して優越感も感じられる」p217
    「ヨーロッパ人の多くは、欧州文化はアフリカやアジア文化より優れていると勘違いしているし、アメリカの消費文化を見下して優越感に浸っている」p219
    「投資家の資金がヨーロッパや北米に集まったのは、この地域が速く安定的に成長すると予想されたからだ。低リスク・高リターンのはずの国が、実は高リスク・低リターンだったわけだ。その間、莫大な成長力を秘めたアフリカ諸国に、投資家は見向きもしなかった」p223
    「宗教と女性ひとりあたりの子供の数には、それほど関連がない。むしろ、子供の数と強く関連するのは所得だ」p226
    「自分の意見に合わない新しい情報や、専門以外の情報を進んで仕入れよう。自分に賛成してくれる人ばかりと話したり、自分の考えを裏付ける例を集めたりするより、意見が合わない人や反対してくれる人に会い、自分と違う考えを取り入れよう。それが世界を理解するすばらしいヒントになる」p241
    「西洋の多国籍企業や金融機関で働く人たちはいまだに、ずっと昔に刷り込まれた、時代遅れの歪んだ世界の見方に従ってビジネスを行おうとしている」p318

  • 「時を重ねるごとに少しずつ世界は良くなっている」なんと希望に満ちた言葉だろう。これが正しければ人類もまだまだ捨てたものではないと思えた。
    ひさびさの「眼からウロコ」の本だ。
    だいたいデータ満載の本は退屈なものが多いが本書は読みやすく面白い。著者は有能なアジテーターでもあると思った。
    しかし、ファクト重視やオプティミズムも良いが、この本の論旨は一部の企業家や政治家に利用されはしないかとの危惧をも抱く。
    楽観論に傾斜すれば何もしなくなることも多い。しかし悲観論が席巻する社会学の世界で、本書は実に興味深い提起をしていると高く評価したい。

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著者プロフィール

ハンス・ロスリングは、医師、グローバルヘルスの教授、そして教育者としても著名である。世界保健機構やユニセフのアドバイザーを務め、スウェーデンで国境なき医師団を立ち上げたほか、ギャップマインダー財団を設立した。ハンスのTEDトークは延べ3500万回以上も再生されており、タイム誌が選ぶ世界で最も影響力の大きな100人に選ばれた。2017年に他界したが、人生最後の年は本書の執筆に捧げた。

「2019年 『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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