シベリア鉄道紀行史 ──アジアとヨーロッパを結ぶ旅 (筑摩選書) [Kindle]

  • 筑摩書房 (2013年1月15日発売)
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本 ・電子書籍 (327ページ)

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    シベリア鉄道に興味があり、図書館で手に取った本。
    時代順にそのハードとソフトの変遷を描いていく。
    著名な文化人や政治家たちの移動の記録も興味深く読んだ。
    随分昔から、政治家や事務官やその家族など、けっこうな数の日本人が、モスクワやベルリン、パリ、ロンドンなどのヨーロッパ都市に住んでいたんだな、というのが率直な驚きだった。
    日本の《革命家》が、ソビエト共産党大会みたいなイベントに呼ばれていくのも時代の空気を感じた。

    旅行記も面白かった。
    とくに、山田耕筰、林芙美子あたりのバイタリティはやはり凄い。三等車はみんな字が読めないのだ。その代わり、演奏は喝采を浴びるし、地元の人との繋がりは心強い。うん、なるほど。楽しむもの勝ちなのは間違いない。

    あまり言葉の通じない、かつ時間的に長い長い列車の旅にひたすら荒涼とした車窓風景に接したときのひとの行動はみんな似たようなもので、俳人政治家の旅も味わい深いし、俳人ではないのに俳句を突然詠むようになったひとのエピソードにも感心した。
    海外旅行で緊張していたのは日本人が少数派だから。団体旅行がまかり通る時代には、日本語でも渡れるようになり、日本食も手に入るからか、だんだん旅行者が横柄になるさまも面白い。いつでも数の論理こそ(表面では)強いのだ。満州でのあり方にも同じく。

    対照的に、与謝野晶子の旅にはこちらもハラハラさせられた。ラストで在仏中の鉄幹が迎えに来たのは、《モスクワでもベルリンでもなく、終着パリ駅のプラットフォームだった》、で思わず声が出そうだった。あのやろー。

    時代は下って、独ソ戦が始まり、あわてて関係者が引き揚げる列車も緊張が強い。飛行機も船もあるなか、鉄道の弱み強みもまた、時代に翻弄される。
    第二次大戦後のシベリア抑留者たちの電車移動エピソードも重苦しく、印象深い。どこに輸送されるかを、捕虜みんなで息を詰めて列車の音や振動で分岐点でどこに曲がるかを測るエピソードには恐れ入った。

    ラストに、著者もシベリア鉄道の旅を体験する。
    やはり日本人には入浴は欠かせないよなあと思った。

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著者プロフィール

和田 博文(わだ・ひろふみ):1954年、横浜市生まれ。東京女子大学現代教養学部特任教授・東洋大学名誉教授。ロンドン大学SOAS、パリ第7大学、復旦大学大学院の客員研究員や客員教授を務めた。著書に『日本人美術館のパリ 1878-1942』(平凡社)、『三越 誕生!――帝国のデパートと近代化の夢』(筑摩選書)、『海の上の世界地図――欧州航路紀行史』(岩波書店)、『シベリア鉄道紀行史――アジアとヨーロッパを結ぶ旅』(筑摩選書、交通図書賞)、『資生堂という文化装置 1872-1945』(岩波書店)、『飛行の夢 1783-1945』(藤原書店)など、編著に『モダン東京 地図さんぽ』(風媒社)、『猫の文学館』Ⅰ・Ⅱ、『月の文学館』『星の文学館』『森の文学館』『石の文学館』(ちくま文庫)などがある。

「2024年 『漫画家が見た 百年前の西洋』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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