すばる 2019年5月号

  • 集英社
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レビュー : 4
  • Amazon.co.jp ・雑誌
  • / ISBN・EAN: 4910054590593

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  • 「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」
    話の筋というものが一貫してあるわけではない。幼い頃に同居していたおばあちゃんの話と、後半の社会人になった現在での、渋谷での話。くしゃくしゃで綺麗とは言えないおばあちゃんの顔。でもその背中はとても美しかった。誰もそのことを(本人すら)知らないかもしれない。私だけが気づいていた。目のよく見えていないおばあちゃんと、小さな羽虫を見過ごしておけない母との同居。語り手は、おばあちゃんが亡くなった際、遺体をひっくり返してでも背中を見たかった、そして見なかったことを少し後悔している。なぜなら、おばあちゃんのそれほど綺麗でエロかった背中は、私以外の誰にも知られないことになるから。
    この、知られていない、見えていない側面というのが、作品の主要なテーマの一つであるように思う。
    もう一方の主題としてあるのが、「性」の問題ではないかと思う。おばあちゃんの挿話の次には、工事現場の作業員や「半分子どものような」大学生に体を触られた経験が語られる。いずれも小・中学生の時の経験なのだが、それが現在に至るトラウマのように扱われているようではない。しかし、その体験はいずれも誰も目撃者のいないところで起き、また語り手の女性はその体験を誰にも共有していない。それは、恐怖のあまりそれができなかったという理由ではなく、そのことに対しあまり感じるところがないようにも受け取れた。そのように、「私」は人生や自分自身に対して、やや醒めたような姿勢であるようだ。幼少期の頃から描き出しているが、成長の過程で何か他にトラウマや挫折などがあった描写もない。
    しかし、ラストの渋谷の場面で明らかになるのは、さらに「ニシダ」との間でレイプまがいの何かがあった、ということである。そしてニシダの罪の告白と懺悔は、イズミによって撮影されようとしている。撮影されることによって、それまで見えていなかったおばあちゃんの背中は記録されることになる。「私」は、ニシダにヘルメットをかぶせてあげたいと言っている。だが、本当は自分がかぶりたくはないのだろうか?性的な被害の対象になったということは、「私」が「かわいい方の女子」であることを示している。「私」は、そのことから逃げてきたとも言えないだろうか。
    総じて、今回の候補作はいずれも高い技量の作品ばかりで面白かった。
    古市氏の作品は、あえて言ってしまうとやや優等生の答案のように感じた。李氏の作品も完成度は高いと思ったが、それでも既視感がなくはない。古川氏の作品は個人的には応援したいと思う。けれど、やはり過去の他の受賞作とイメージが重なって見えてきてしまう。
    今村氏の作品は、かなりの独自の世界観に簡単に読者を引き込んでいく文章だが、筋書きの抜群の面白さを抜きにしてなお訴えかけてくるものとしては、強く何か印象に残るものはなかった。
    本作は、それぞれの挿話を効果的に配置したり表現したりすることに成功していると思ったし、表そうとしているものもよく伝わってきたと思った。ただ、ちょっと短いだろうか。何れにせよ、前回よりも読みやすく、面白く読んだ。

  • 高山羽根子「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」を読む。芥川賞候補作。
    背中がきれいで、死ぬまでに雪虫が見てみたいと言っていたおばあちゃん。おばあちゃんの家で、そこらじゅう飛びまわる小さい虫を潰して殺すお母さん。おばあちゃんは目が悪くて見えてない。電車が止まって帰れなくなった主人公が、ふらりと立ち寄った喫茶店かバーのような店で出会った、記録映像を撮る女性。その人の映像に映っていた同級生のニシダ。ニシダは高校の頃は男子高校生だったけど、いまは女の人の着る服をきて、チャイカと名乗っている。変質者になめられたお腹。かわいい子から順になめられてる、という噂に、自分もなめられたと言い出せなかった主人公と、それをなぐさめるように「なめられなかったこの中ではかわいいほうだもん」と言った同級生。あのセリフが一番こわかった。なにか、体現してるな、と思った。
    主人公の思考はよめない。疲れたとか、残念とか、そういう日常の気持ちは書かれているけど、その人の底にある考え方、みたいなところは、直接的には書かれないで、まわりの人たちや物事を書いて、つなげていく。タイトルのとおりに、集めていく。
    主人公は、ヘルメットを改良の速度が遅いものだと思っている。見た目が昔から変わってないって。それを、かわいそうな人たちに頭の中でかぶせてあげる。この人が、自分にかぶせてあげる分のヘルメットも持っていたらいいな、と思う。なんとなく、自分の頭には、なにも付けてないような気がするから。

  • 高山羽根子著「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」読了。芥川賞候補作。主人公の過去の出来事と今とが静かに語られる。これ読んだ人と語り合いたいやつ。

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