朗読者(新潮文庫) [Kindle]

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  • 15歳の少年と、倍以上歳の離れた女性との純愛は、ある日突然女性の失踪で終焉を迎える。そして、年月を経て二人が再び顔を合わせたのは裁判所。甘美な前半から転調した後半は、戦争犯罪とその責任という暗い影が視界を覆う。
    戦争はとうに終わったと思っていたのに、自分の愛する人が戦争犯罪者だと断じられたら、人はどう思うのか。無力感に苛まれる青年(当時15歳の少年)の心を覗くのはあまりにも辛すぎる。

  • 映画を観る前に原作から。
    一つの作品で多くのテーマをもちながらも、そのどれもがちゃんと濃縮されている。
    愛、裁判と法、歴史と虐殺、生と死など、ものすごく哲学的で考えさせられる。

  • こういう本に出会うために、何百という本を読む。
    原作はドイツ語なので、この本を原作で読みたいがためにドイツ語の勉強を始めた。
    そのぐらい強烈に印象に残り、定期的に読み返したくなる作品です。
    映画も素敵です。

  • ねたばれなしで読んでください。
    映画は愛を読む人。
    涙と鼻水があふれました。

    戦時のドイツの少年の恋を回想。

  • “この缶だけいただいておきます”
    新しく、明るい造りの刑務所生活ではある程度物に恵まれていたであろうに、ハンナは何故、缶を使っていたのだろう。
    文盲のハンナは字を覚えると直ぐにホロコースト関連の探究を始めたが、その事実を知らない犠牲者の少女も、缶に纏わる思い出を語る中で、ハンナが獄中も心は収容所にあったことを感じ取ったのかもしれない。
    また、ユダヤ人保護活動に関して意図的に避けてきたような無智な少女は、13年以上経ても直視できない心の葛藤に苛まれているのだろう。そんな生活のなかで、ふと思い出した缶の存在は備忘録としての役割も果たすだろうと必要としたのかもしれない。
    (私も福島第1原発のある大熊町で生まれ育ち、現在進行形で故郷を失っているが10年以上経ったいまでも3.11関連を意識的に避けてしまっている。それでも避難した時偶然持っていたメモ帳に記した日記はあの日を鮮明に思い出す為の宝物として大切に保管している)




    “コンピューターで書かれた礼状”
    ハンナ・シュミッツさんの寄付に感謝しますというコンピューターで書かれた手紙。
    小説を通して、長きに渡って目の当たりにしてきたハンナや少年の葛藤が、無味乾燥な事務作業へ最終的に行き着いたことにショックを受けた。
    コンピューターの文字は、ハンナの辿々しくも力強く厳しい美しさが溢れる筆跡とは真逆の印象。
    ハンナが一生をかけて我が物にした字は決して流れるような字にはならなかった。それはきっと1文字1文字を全身全霊で書いていたからだと思う。ハンナが考え抜いたその罪の意識が、当事者から離れる毎に形骸化していく。あの悍ましい歴史を繰り返してしまう兆しなのかと恐ろしくなった。





    “精神分析家のゲジーナは、ぼくと母親との関係を再検討する必要があると言い、僕の話に母親が全然出てこないことに気がつかないのか?と訊いた。"
    青春時代に打ち明けるべきか否か青春時代をずっと悩み抜いた末、ガールフレンドへ打ち明けた際に言われた言葉。
    浅薄な知識で決めつけ、見当違いな指摘をして満足する白々しさ。少年が打ち明けることをやめてしまうきっかけの1つになった。
    一方、ハンナは裁判を振り返りこう語る。
    ”どっちみち誰にも理解されないし、私が何者で、どうしてこうなってしまったのかということも誰も知らないんだという気がしたの。
    誰にも理解されないなら、誰に弁明を求められる事もないのよ。ただ、死者にはそれができるのよ。”

    熱心な法学生である少年は、裁判を”一番単純なグロテスクな行為”と苦言を呈すが、ハンナも彼も、複雑化した物事を第三者が必要以上に単純化して分かった気になり、解決できたと安易に終止符を打つ危うさを認識している。




    “彼は何もかもきちんとやった。正しい時期に、それなりの成果を挙げつつ、必要とされる演習やゼミナールをこなし、最終的に国家試験に合格した。”
    裁判長が誇っている信念。彼はハンナと紙一重である危険性を自覚していない。ハンナも裁判長も与えられた課題に真面目に取り組む人間であり、同じ立場だったら同じ罪を繰り返していたかもしれない。




    ハンナはナチに加担した気持ちは誰にも分からないと嘆いた。
    そうであろうと私も思う。
    “分かる”と”想像できる”は全く別物。ゲジーナの例然り、経験していない事を分かるとは言い難い。
    それでも分からないなりに少年はハンナの思考へ少しでも歩み寄る為、沢山のホロコースト関連の本を読み、実際に現地の収容所に足を運ぶ。
    しかし、当時を想像することすら
    大変困難であると自覚する。
    私も高校生の頃から積極的にホロコーストの本を読み、沢山の写真を見てきたが、痛々しさの消えた現地に赴いてもきっと同じ感想を持つだろう。少年と同じように想像力の欠如を恥じ、経験に乏しい空っぽな自分を惨めに感じるかもしれない。
    作者であるシュリンクは戦争の記憶がないまま、親世代の過ちに対する罪の意識に苛まれた世代だったが、より時間の距離がある私たちが出来ることは何だろうか。





    ”わたしは…わたしが言いたいのは…あなただったら何をしましたか?”

    ハンナの自死の理由について

    (本編には全く描写されていないのであくまで個人的な読み方ですが)もし私自身がハンナのように文盲で、努力の末に書物を読めるようになったら、大好きだった文学の世界が一気に広がり、自殺願望を持たない可能性が高い。
    でもハンナは、そのどんどん湧き湧き出てくる生きる希望にこそ、嫌悪感や罪悪感があったのかもしれない。
    獄中で勉強して改めて自覚した罪の重さと、少年と始まる新生活への期待もハンナを苦しめただろう。
    ”わたしは…わたしが言いたいのは…あなただったら何をしましたか?”
    との問いはどんどん膨らみ複雑に絡み合って出口を見失う。


    *朗読者とは
    少年はハンナとの関係性を模索し続け、”朗読者”という答えにたどり着いた。
    朗読を通して、先人達の声や歴史に触れ、少年達は古典が今と同じように読めることに驚く。
    ハンナ達の物語が私たちの古典になりつつある今、互いに理解し合えない事に敗北感を抱きつつも、歩み寄り、同じ物語を平等の眼差しで見つめたように、我々も朗読者である大切さを伝えてくれている。

  • ネタバレ禁止系の、15歳の少年が36歳の女性と恋に落ちる話。

    第2部から思ってたのと全然違う内容になってちょっと戸惑いましたが、面白かったです☆割とページ数少な目ですし、すらすら読める感じ。最後の結末については、正直、読み終わった直後はちょっとよく分からないところもあったのですが、ネタバレ全開の以下考察サイトを読んだらいろいろと腑に落ちた感じでした☆とりあえず、読書好きなら絶対おススメの本だと思います☆ただ、ベタな恋愛小説を期待して読むとその期待にはそえないかも知れません^^;。
    https://ameblo.jp/finalfreeway/entry-10302318962.html

  • 初めは、どんな本なのか分からなくてスラスラ読み進めれた。
    “文盲”という言葉が出た時に「えっ?!」てなって必死に読んだ。
    僕とハンナとの恋愛やその後がこんな結末だなんて寂しいなと思った。

  • 本作はかなり以前に映画化されたものを鑑賞したものだが、その後内容が気になっていて今回改めて読み直した。ナチス時代に看守として働いた女性ハンナがその事実ゆえ、そしておそらくは恵まれない出自ゆえに文盲であるという事実ゆえに、ひたすら自分を押し殺し、社会の陰で生きつづけるという作品だ。主人公はミヒャエルで、彼のモノローグだが、実際の主人公はむしろハンナであって、彼は添えものかもしれない。感情を理屈で分析しようとし、その齟齬に悩むという面は遠からず自分にも当てはまる気がするというのが、この本が気になっていた理由だろうか。ミヒャエルは中年の域に達しても幼少時に持った葛藤から抜け出すことはなく、ハンナとの距離を適度に保つことで自分のなかの聖と悪との端境で生きつづける。表情を押し隠すハンナもまた、ある点でミヒャエルと似ていたのかもしれない。恩赦を得、ミヒャエルと素で接することになるのを怖れた結果、自らを殺めたのだから。

  • 始めの恋愛関係のところ、絵画的で良かったです。
    しかし、その後、彼女が疾走してからのくだり、なんだか気持ちが入っていけず、ただ読んでるだけになってしまいました。
    これは映画の方がいいのかもしれない。(観てないけど)

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著者プロフィール

ベルンハルト・シュリンク(ドイツ:ベルリン・フンボルト大学教授)

「2019年 『現代ドイツ基本権〔第2版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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