- Amazon.co.jp ・電子書籍 (420ページ)
感想・レビュー・書評
-
ちょうど半分くらいまで読んだところで、もうやめようと思いました。
正直、あまりにありえなく苦痛でした。
(読まれた方でしたら、お察しいただけるかとおもいます)
でも、最後まで読んでよかったです。
陽に照らされたセントラルパークのベンチ。目に浮かんできます。
よかった。
あり得ない出来事以降、ふたりの心の葛藤は見事で、その判断も対応も大人です。
極めた人は美しいですね。
石田ゆり子さんのエッセイも、ドラマも好きなので、映画を観てみようと思いました。
+++
取材・報道、サブプライムローンに関するお仕事がでてきます。
これらに関する本を立て続けに読んでいましたので、彼らの取り組みと考え方も気にしつつ読みました。
いくらお仕事とはいっても、良心の呵責はないのか。本当に真実を伝えることができているのか。その仕事によってどれだけの人を不幸にするのか。
そのような仕事で、そのような対価を得て、人として恥ずかしいとは思わないのか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
私このような類の話苦手なんです。
恋愛小説全般が苦手なのではなく、この類なんです。
映画化もされた有名なお話なので気になり読み始めましたが、3分の1程で後悔しました。
読み進めるのがすごく辛くて、何度も何度も「もう無理」って投げ出しそうになりました。
印象が離れなくて、余韻がものすごくて、打ちのめされました。
作者の狙いでしょうね。
これは苦手故の評価です。
洋子は私と年齢が近いのですが、あまりに倫理的で道徳的な考え方を持っていて、自分本位には生きられない性質なのだろうと思いました。
私の頭の中が子供なのかもしれません。
蒔野の洋子に惹かれる純粋な気持ちに心を打たれ、それがとても苦しかったのです。
マネージャーの早苗の行動に苛立ちが絶えませんでしたが、彼女には女というものの本質が垣間見えました。
完全に悪役ですが、完全な「悪」ではない、彼女にもまた同情の気持ちが沸き、複雑でした。
「ニセモノの人生を歩んでいる」感覚が、彼女の頭から離れず、罪悪感に囚われているのです。
蒔野の洋子の中にも「お互い一緒にいない人生」への違和感と葛藤が何度も何度も常に付き纏います。
最後まで読み終えて、2人の関係性は、小説的ではなく、とても「現実に近い」ものであるという結論に達しました。
これからも続くであろうこんな出会いと関係性は、たった一回の人生の中であっても良いのではないかと思いました。
辛いけどね。 -
かつての輝きを失いかけた天才クラシックギタリスト。有名な映画監督の娘でジャーナリストの洋子。
深い愛で結ばれるているのに、実際は三度しか二人は会っていない。途中、恋敵に引き裂かれた二人。人生を失ったような二人に影響を及ぼす周りの人々。
話の展開がゆっくりで、しかもよくあるすれ違いネタ。読んでいる途中で退屈してしまった。しかし、東日本大震災を経て、ニューヨークで行われたリサイタルでの再会に至る最後の場面までの積み重ねに心を揺さぶられた。ストーリーテーリングで読者を引っ張っていくわけではなく、美しい言葉を積み重ねて読者を虜にする作品もあるのだと知った。
初めて読んだ平野啓一郎の作品だったが、よかった。 -
本には出会いというものがある。
読みたくても手に取らなかった本に、些細なきっかけで出会えることがある。
大田区民ホールアプリコで行われる「本と音楽の素敵な出会い」のポスターを図書館で見た。
「マチネの終わりに」をテーマに、作者の平野啓一郎とギタリストの大萩康司のイベントが開かれるという。
早速チケットを申し込み、少し早い夏季休暇を取得。
そしてその予習として、AmazonAudibleで聞く読書。
YouTubeで楽曲を聞いた。
ギタリストの蒔野聡史は、通信社のジャーナリストの小峰洋子と恋に落ちる。
だが、洋子には婚約者がいた。
子どもの頃から天才の名をほしいままにしてきた蒔野。
映画監督イェルコ・ソリッチと長崎出身の母の間に生まれた洋子。
洋子は、バグダッドでの取材中に爆弾テロに巻き込まれる。
この事故をきっかけに、二人の関係は、友情を越えたものになっていく。
文化と芸術。
戦争と平和。
資本主義とヒューマニズム。
多彩な登場人物を、ナレーターの声優 羽飼まりが語り分けて、物語を彩っていく。
文化を創るのも人間。
戦争を起こすのも人間。
人生の目的とは。
人間の幸福とは。
聡史と洋子と、二人の大切な人々が、運命に翻弄されながらも、それに抗いながら生きていく。
幾重にも壮大なテーマが綴られる大作。 -
ギター奏者の主人公は2006年で38歳ということで奇しくも同い年。2歳上の女性との恋愛物語だが、ある人の裏切りにより引き裂かれる。その真相を知った時、どう動いたか。音楽や映画の話と共にすすむ美しい物語で、イラクや震災などの社会問題にも考えさせられた。ラストは感動。
-
自分の持つ語彙力ではうまく感想が書ける気がしない。
大人の恋愛小説、といえばそうではあるのだがそこから連想されるようなトレンディで華やかな内容ではない。
読んでて絶望してしまうほど結ばれない。誰よりも深い部分で結ばれているのに。
二人が謙虚で高潔な人物であるがゆえに、また年齢の要因も大きいのだろうが、なりふり構わず互いのことを手繰り寄せることができず、別の運命の波にさらわれ、届かない場所に離れてゆく。
蒔野は脳内で完全に中井貴一に、小峰洋子は滝川クリステルないしは宮沢りえで変換されていたが、映画で実際に演じたのは福山雅治と石田ゆり子。未視聴だがこの苦しく深い情愛の様がどのように撮られているか気になる。
「過去は変えられる」という概念が良い。 -
圧倒的な愛の物語だが、この物語をなんとジャンル分けしていいのか僕はわからない。
はじめは恋愛小説だなあ、と思っていた。
次に社会派の物語だなあと思った。
途中でこれは芸術論だし、人生をどう考えるかという哲学だとも思った。
それらすべてがないまぜになり、圧倒的なパワーを持って、クラシックギターという芸術性を介してひとつの男女の半生を描く。
平野啓一郎らしくないな、と思わないでもないのだけど、物事のとらえ直しというか、一辺倒でないものの見方は紛れもなく平野のそれだし、彼の「世界のとらえ方」に、読者としてふれる僕はいつもハッとする。
人生というのは、苦しいものだなあ。
私も、あなたも、きっといくつものしんどい思いを携えて、そして致命的な何かと出会い、後戻りすることができずに、ただ時間の流れとともに前に進んでいくしかない。気づいたら一年がたち、五年がたち、以前とはまったく異なる自分(否、本質的には何も変わらないのに、周囲の環境が変わることでまったく異なったように見える自分)というものになっている。
時間を経た後の自分ができるのは、人生をやり直すことではない。現在を通して過去を変える。そのとらえ方を変えていくということだ。
最期のシーンで、これから二人がどのように過去をとらえ直していくのか、どんな現在によって過去を変えていくのか、それがとても気になるが、さて、作者はそれを用意していない。読者それぞれの解釈があるだろう。
しかしながら平野啓一郎と同じ時代を生きている自分はいかに幸せだろうかと考える。
彼によって私は自分が生きる世界をあらためて認識し、この社会というものの一端を考えることができる。 -
大人の恋の物語、決定版。
一目惚れに近い勢いで恋に落ちたアラフォー男女の人生とすれ違いと結末。
「ある男」が面白かった平野さん、やっぱり図書館で見かけた本書にも手を出してみました。こちらは福山雅治と石田ゆり子で映画化されていて、まあよくあるお気楽大人の恋物語なんだろう、と思って遠巻きにしていたのですが、やあ、実に深くて面白かったです。
大人の恋というのは、若き日の恋と違って勢いで突っ走る清々しさみたいなのがないのですね。それぞれがすでに人生の半ば、いろんなものを経験して背負って、時間は無情にも過ぎ行く、その中で恋心が育まれていく、という描写が実に丁寧で、非常に読み応えがありました。特に、それぞれが生きている上で負っている痛みの過去は、時間を経て違う形になっていきます。それを「過去は変えられる」というポジティブな表現にする、というのはとても素晴らしいな、と思いました。また、話の中にはイラク戦争や難民や金融資本主義の危うさ、3・11など、社会的な側面も深く切り込んでいるところが平野さんらしく、世界観を深めていました。
一方でストーリーは、一目惚れからすれ違いによる破局、すれ違いの修復と出会い、みたいな、それこそきれいに映画にまとまりそうな展開になっていて、読者のカタルシスをしっかり担保したラストなんかは少し肩透かしな感じもしました(でもすごく楽しめた)。「ある男」でも大人の恋愛について描写があり、実はそっちに寄せた結末も予想していたのですが、そこは無難、というか読者の求める方向にオチをつけた、ということなのでしょうか(読んでいてこっちのオチじゃなくてよかった、と思ったし)。
何しろ、おしなべていえば単なる「大人の恋愛もの」なのですが、そこに至るまでの細やかな描写や背景の書き込みが素晴らしかったです。物語のその先も、読者の想像をいっぱいに引っ張っていて、さじ加減も絶妙でした。
恋愛ものの小説はほとんど読まなかったのですが、もっと手を出してもいいのかも。と思わせてくれました。江國香織と辻仁成の「冷静と情熱のあいだ」もお楽しみください。ヨーロッパが舞台になった大人の恋愛ものっていうだけですが。 -
たった数時間、出会っただけだが、互いに惹かれたギタリストの聡史とジャーナリストの洋子。ある理由で、一緒に時を過ごすことはなかったが、離れている期間に相手を想い、離れざるを得なかった現在を顧みる。
過去は変えられないと人は思いがちだが、過去は変えられると語る聡史。
自由意志は未来に対しては希望だが、過去に対しては悔恨になる、運命論の方が慰めになる、という台詞は、自分の考えにも近かった。