〔少女庭国〕 (ハヤカワ文庫JA) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 単なる思考実験。シミュレーション。単なると言っても本書の価値や面白さを貶めるつもりではなく、ある程度はお勧めしたいと思うのだけれど、シミュレーションに対して、著者によるメッセージ性やサービス的展開という付加価値があるかというと、ほぼない、と言えるのではないか。そのような意味で「単なる思考実験」と表現したい。極限的な状況における人間の反応を描くという意味では、カミュのペストやサラマーゴの白の闇を少し思い出したが、つまりそれらにあったような全体を通したメッセージ性はたぶんない。

    タイトルには「少女」とあり帯には「衝撃の百合SF建国史」とある。それらの言葉やかわいらしい少女のイラストが並ぶ表紙から内容を漠然と想像しながら本書を開くと、「少女庭国」では確かに清らかな少女の空気を吸った気分を味わうことができる。しかし、その後に3倍以上の長さがある「少女庭国補遺」では、あっという間に「少女ってなんだっけ・・」と、「少女」という概念のゲシュタルト崩壊を見ることになる。そして繰り返されるシミュレーションの果てに、きっとまた美しい解決があるのではないか、そのような希望をほのかに抱いて読み進んでいるさなかに、ふと気づいてしまう。そのような美しい部分はすでに「少女庭国」で提供されており、終わってしまっていたのだと。あとは基本的には、ひたすらにバージョンの違う地獄を眺め続けなければいけない。そしてさらに、この地獄は結局のところ規模が違うだけで私たち人間の世界での営みの相似形なのではないか、とも思えてくる。ただ、ドアを開けた先にも、いつも同じ地獄と、いつも他の少女たちの苦闘があるという対称性・公平性、そしてそれが積み重ねられていくさまには、前向きな性質がなにがしか感じられ、人間って尊いなという気にもさせられなくもない。

    「一人でどうにも手詰まりならば自分みたいな誰かをみだり想うのは順当じゃないか。誰かのために宝を埋めれば私も宝を掘り返せる。」

    「ただじぶんだけ喜ぶものを生んでは死滅するだけで世の中がよくなるなてこんな愉快は他にはないよ」

    「ない前提を空に架けられれば目線の外にも歩いて行けるし、過呼吸じみた他の人の決め事にだって、本当は付き合わなくてもよかったとなるじゃないか」

    しかし「こんな愉快は他にはないよ」というが、この地獄が人間世界と相似ならば、この真実も人間世界に成り立つと言える。

  • 人間に対するリスペクトを捨て去り、感情や思考に対する描写をこそぎ落としたちょっと不思議な文体から物語が始まる。登場人物は形骸化し記号化された”女子高生”として描かれる。「女子高生の記号が非合理的な選択をすることによってもたらされるエンターテインメント」それが〔少女庭国〕であり、「百合作品」や「デスゲーム作品」に対するアンチテーゼみたいなものとして読むこともできるだろう。(題名についた括弧は、「少女庭国という王国」を上から(=ページを見下ろして)観覧している読者=デスゲームの主催者というシャレかな?)

  •  「私は何を読ませられているのだ?」
    が読んでいる最中の素直な感想.

    矢部作品を読んでいると、大体これだけど、本作品も同様、かなりエキセントリックな内容に仕上がっている.
    アニメ「ポプテピピック」並に中毒性が高いように思う.

    卒業式に向かっていたはずの15歳の少女たち。目覚めると奇妙な貼り紙が貼ってある石の部屋と前後2つのドア。卒業試験「ドアの開けられた部屋の数をn、死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ」
    隣の部屋には、横たわる1人の卒業生と、また奥の部屋へ続く扉があった…….

    映画「キューブ」や「ソウ」みたいな脱出系殺人ゲームかと思いきや、そこは天才矢部嵩.一筋縄ではいかない物語を紡ぐ.
    少女は卒業試験のルールに抗い、開けられるだけのドアを開け、卒業生を増やし、反発勢力を粛清し、限られた資源を集め、情報をまとめ、共有し、話し合い、協力して、巨大な帝国を築き上げる.

    巨大な帝国の繁栄から衰退まで.どこかの国の壮大な叙事詩を読んでいる気分になる反面、
    限られた資源や制限されたルールの元、先に起きたというだけでヒエラルキーの上位にくるというなんとも理不尽な運命は、今自分が置かれている、一部の人間が地球上の富を独占している社会を投影したものではないかと気づいて戦慄する.

    ここらへんの風刺が矢部嵩作品は非常にクセのある表現で、私はとても好きだと感じる.同作者の「保健室登校」も面白かったけど、こちらもおすすめしたい.

  • 謎に少女庭園だとタイトルを勘違いしていてなかなか出会えなかった。
    完全にタイトルと表紙で買った。
    まだ序盤しか読めていないけど描写がなんとなく雑で、それでいて余計な装飾語が多い気がした。

  • 2019/7/8
    あらすじと表紙でデスゲームもの百合話かと勝手に思って一章読み終わり「ん?」となった。
    補遺が75%もあって「え、これ以上『この』話が進むことあるの?後日談?」と思いながらページを開くと

    一 〔安野都市子〕

    と始まる。

    ここが何で何故こうなったかは一切わからない。ただ、石造りの小部屋と同じ境遇の少女が存在する。そして、幾通りもの行動をする少女達。賢い者、賢くない者。ルールに従う者を賢いとするなら、その彼女の行動記載はきわめて短く、賢くない者ほど長い物語となる。

    庭国(まさしく箱庭か)での少女達を使ったシミュレーションだと私は思った。虫籠を外から眺めるような、ライフゲームを走らせるような、ある種の実験的な話。

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著者プロフィール

武蔵野大学在学中の2006年、本作で第13回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞してデビュー。

「2008年 『紗央里ちゃんの家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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