売り渡される食の安全 (角川新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 日本の農業政策を見続けてきた山田正彦さんが、種子法廃止の裏側にある動きについて解説した本。

    農業は国の基本であり、食の安全は国の重要課題のひとつです。種子法廃止や遺伝子組み換え食品推進の裏側で行われている、食の安全を脅かすかもしれない動きについて、長年、食の安全や農業政策を見続けた山田正彦さんがわかりやすく解説しています。

  • モンサントがかなりえげつない企業だというのはこの本にも映画が紹介されている、マリー=モニク・ロバンの書いた「モンサント」に詳しい。EPAやFDAを手玉に取り、モンサントの種子が意図せず紛れ込んでしまった農家相手に訴訟を起こし、古くはダイオキシンの安全性データを捏造した。それでも農家は善で企業は悪だと言うように描くのは一方的に感じた。

    企業は常に悪者なのか?ファクトフルネスでは犯人捜し本能で人は自分の思い込みに合う悪者を探そうとすると指摘してあったが典型的な悪者は「悪どいビジネスマン、嘘つきジャーナリストそしてガイジン」だ。山田氏は国内農業保護の立場にあり、対するはいかにも悪者のモンサント。構図としてはわかりやすい。では企業は悪者なのか。

    日本モンサントのF1品種を育てる契約をした農家は禁止事項や損害賠償について書かれたA41枚の英文?の契約者を「いや、ほとんど読まずにサインした」と山田氏に答えている。また、住化アグロがセブンイレブン向けにJAに米の生産を委託した契約ではJAから栽培を委託された農家について「両者(相手がJAか住化アグロか読み取れない)の間には契約書はなどは存在していないが、農家もまた住化アグロとJAとの間で交わされた契約書内に記された義務や責任を負うことになっていた。」とある。農家が不利な契約を押しつけられたように見えるがこの文章からは判断できない。ついで検査は住化アグロが行い、不合格品は生産者側の負担とすると言う工業製品であればまあ当然の内容について一方的と批判するが企業側の感覚では普通の契約だろう。米の買取価格については収穫終了時に「収穫量、品質、米相場に鑑み、別途協議の上決定する」とあるのだがこれはそもそもJAがもう少しましな契約を結ぶべきなのでは?同じ内容をそのまま農家に押し付けてるのであればJAなどいらないと言う話だ。

    GMOについては十分に安全性を確認したのかと言う指摘はその通りだろう。一般的な品種改良は時間がかかることが安全性の確認にもなっている。消費者が選択できるような表示義務をというのも妥当な意見だと思う。ただほかのリスクについてはどうか。例えばグリホサートについて人に対しておそらく発がん性があるグループ2Aに指定されたことが書かれている。いかにも危ないものと読めるがより危険なグループ1に含まれるものにはタバコ以外に日光やアルコール、加工肉などもある。赤肉は同じく2Aだ。量を無視して発がん性のあるなしを議論しても役には立たない。

    1代限りのF1種子の価格が数倍になったことを問題視しグラフを載せているのだが単位はドル/エーカーで米やトウモロコシであれば過去20年で20ドルが100ドルになっている。1エーカーは約40千平米種子代の上昇より得られるメリットが明らかに大きいとしか読めない。また昭和30年代に1粒2円だったイチゴの種子が今では40ー50円のF1種子になってしまったともあるがこれの何が問題なのだろうか、全く理解できないのだ。

    グリホサートに代わる新たな除草剤として天然の非毒性成分が用いられたファームセイフを輸入したいと書いてあるので調べてみたがその有効成分は酢酸1ー5%と塩酸1%未満、そして水を含む無害な成分80ー95%だった。この除草剤は雑草のクチクラ層を分解し枯れさせると言う事なのだが、効果があるとすれば栽培植物も枯らすのでは。まあ安全性の試験をした上で効果があれば切り替えれば良いだけの話だろうがこんな組成が有効なのだろうか?

    一般の農家は手間もコストもかかる自家採種には積極的ではなく米の場合自家採種は約1割にとどまる。企業がF1品種の自家採種を禁止するのはそれを認めると事業として成立させるのが難しくなるからだろう。モンサントのように意図せず育ってしまったものまで訴えるのはやりすぎだが。コシヒカリの種子は税金が投入され原原種、原種を専門の採種農家が育てた結果500円/kg程度で売られている。1粒の米は収穫後3〜400倍になるのでここでも原材料費としてはたいしたことはない、税金の補助がkgあたりいくらか知りたいところだ。民間の進出を種子法は妨げていないと主張しながら米の品種改良に費やされる膨大な時間と労力、そして予算を税金でまかなっていると誇る、それこそが企業から見た場合の参入障壁なのだ。種子の多様性を守り、安定した量の供給を保障するために税金を使うことは意味のあることだが本来はどの程度が適当かという話になるべきだ。全般に意図したかどうかはともかく印象操作をしているように感じた。

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著者プロフィール

1942年、長崎県生。弁護士。2010年6月、農林水産大臣に就任、12年反TPP・脱原発を掲げ離党。現在は、弁護士の業務に加え、TPPや種子法廃止の問題点を明らかにすべく現地調査や講演を行う。

「2023年 『子どもを壊す食の闇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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