みんなにお金を配ったら――ベーシックインカムは世界でどう議論されているか? [Kindle]

  • みすず書房
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感想・レビュー・書評

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  • 何かをしなくても、誰もが、毎月、お金をもらえる。近年、多くの国で検討が進む貧困対策、「ユニバーサル・ベーシックインカム」(UBI)の可能性を探った書籍。

    UBIは、国民全員に、最低限の生活ができる所得という位置づけのお金を、毎月支給するもの。
    近年、様々な領域から、UBIを推す声があがっている。
    ・UBI推進の理由として、技術進歩に伴う失業問題がある。
    遠からず、人間の仕事はすべてロボットが奪う。そうした世界で人が暮らすには、UBIが欠かせない、と推進派は言う。

    ・富の格差拡大、深刻な賃金低迷も、UBI推進の理由の1つである。UBIは、それを改善する仕組みになるという。

    ・自由至上主義(リバタリアン)寄りの推進派は、UBIは効率的だという。現在の社会福祉制度をUBIに置き換えれば、役所仕事が大幅に減り、国民の生活に対する国家の干渉も減るからだ。

    UBIの導入を懸念する声もある。例えば、UBIの給付で国民の多くが働かなくなり、生産性や創意工夫への意欲が失われかねない。そして莫大な費用がかかる。無条件で人にお金を
    与えることへの疑問など、哲学的な面からの反対意見もある。

    UBIの財源確保の方法として、例えば、金融取引税、付加価値税、炭素税、あるいは人の仕事を奪うロボットへの課税などが考えられる。こうした税金を財源として活用すれば、UBIを回せるだけでなく、UBIがすべての人に対する投資であり、権利であるという位置づけを強めることになる。

    ヨーロッパではUBI運動が進んでいる。フィンランドは全国的な試験運用を開始、オランダでも実験が進む。UBIを公約とする政党も増えており、遠からず国家の政策となるだろう。

  • ユニバーサルベーシックインカム(UBI)については近年話題になっているが、漠然としか知識がなく、正確な知識と現状を把握したいと思い、政治的思想に偏りのなさそうな立場の人が執筆した、なるべく出版年が新しく、本テーマについて広く浅く書かれた本を探していてたどり着いた。
    著者はNew York Timesのジャーナリスト。
    基本的には推進派に属するのかと思うが、最後の章末を読むとわかるように、本人としてはUBIの議論のさらなる活性化を目指して本書を執筆されたのだと理解した。
    貧困、AI、福祉、ジェンダーなどの問題に大してどのようにUBIが現状打開策となるのかを先行研究や、事例、取材を通じてディスカッションしている。
    参考文献も充実している。

  • 「想像してみてほしい。あなたの家の郵便受けに配達される小切手という形で、もしくは銀行口座への入金という形で、毎月お金が届けられる。」(Location: 88)

    「シンプルで、ラディカルで、そしてエレガントなこの提案には、名前がある。ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI) だ。ユニバーサル(普遍的、全員一律) と呼ぶのは、コミュニティまたは国家の住民全員が皆同じように受け取ることを指している。ベーシック(基礎的) と呼ぶのは、最低限の生活が実現する金額であることを指している。そしてこのお金はインカム(所得) という位置づけであることを指している。」(Location: 100)

    「UBIについて知れば知るほど、わたしは夢中になる気持ちを抑えられなくなった。UBIは現代の経済と政治について実に興味深い問いを投げかけてくるからだ。アメリカのリバタリアンと、インドの経済学者と、ブラック・ライブズ・マター運動の活動家たちと、シリコンバレーのテクノロジー企業を牛耳る君臨者たちが同じことを望むなど、本当にありえるのだろうか。」(Location: 218)

    「本書は、新しく世界で広がりつつある政策のムーブメントについて解説し賛否を主張したいという狙いではなく、今掲げたような問いにわたし自身答えを出したいという思いで執筆を決意したものだ。」(Location: 227)

    「コンピューターシステムは、今では医者よりも的確に癌を診断し、トレーダーよりも巧みに投資資金を動かし、法律事務所のインターンよりもしっかりと法務の定型業務をこなす。  契約書の作成でも、サクランボをつるからもぐ作業でも、ウーバーの車の運転でも、退職金の運用でも、とにかく個別のタスクに落とし込むことが可能な作業はすべからく人間の手から奪われる可能性が高い。ロボットの手にゆだねられ、ロボットによってあっというまに業務改善されていく。」(Location: 484)

    「考えてみてほしい、不況や不景気に見舞われるたび、雇用なき景気回復へ、そしてビジネスのスリム化へと進んでいく世界を。あらゆる学位が無意味になり、現在はそれなりの学歴のもと獲得している高賃金が消滅する世界を。何百万、何千万という人々の仕事が永遠に消えてしまった世界を。  生き残る人もいるだろう。その世界で成功していく例もあるのだろう。労働者をロボットに入れ替えたビジネスは、おそらく市場での競争力を強め高い利益率を確保する。株式市場も活況となり、株主、起業家、特許権の保有者などが大儲けをするのだろう。そうなれば富と所得は、ますます数少ない手へと、ますます集中していく。」(Location: 528)

    「結果として産出量を増やす、つまり装置を多く造れる方法が見つかれば、全要素生産性は伸びる。全要素生産性は、人間の創意工夫と人的資本について語る数値だ。経済学者によると、これが現代経済のダイナミズムを把握する最も優れた指標であるという。」(Location: 669)

    「過去 20〜 30 年で経済は大幅に成長してきたにもかかわらず、家計所得中央値はほぼ横ばいだ。別の角度から見てみても同じ傾向が浮かび上がる。中間層は縮小し、総所得に対して占める割合は急落している。同時期に貧困層は増大し、基本的に所得増加がまったく見られない。労働階級と人間が報われる形ではなく、資本家階級と企業が有利になる形へ、バランスが傾いているのである。  所得分布の下4分の3に属する家族の、好転する兆しのない苦境について、わたしは何年も取材と報道を行なってきた。」(Location: 798)

    「UBIはこうした人々にただお金と所得をもたらすだけではないのだ、とわたしは実感するようになった。UBIは、いわば 21 世紀の労働組合のような役割を果たす。労働者の手にパワーを取り戻し、労働者を会社にとってのコストではなく投資対象として抜本的にとらえ直させる後押しになる。ベーシックインカムがあれば、労働者はあまりに賃金の安い仕事を拒否できる。ベーシックインカムがあれば、よりよい福利厚生を要求できる。ベーシックインカムがあれば、企業は人材確保のために他社に負けない待遇を用意せざるをえなくなる。」(Location: 1,080)

    「経済学者の用語で言えば、長期失業状態は「ヒステリシス(履歴効果)」を招く。「あとに引きずる」という意味のギリシャ語に由来する言葉で、失業が長く続くと、その労働者は低収入という路線に永久的にはまりこんでしまうのだ。この傾向が広がると、労働力全体が停滞し、生産性が失われ、正規雇用で働く人数がますます少なくなる。労働者個人を苦しませるだけでなく、国全体の経済を悪化させる。これが不況のあいだだけでなく何年も続く。」(Location: 1,147)

    「この新しいパラダイムにおけるUBIとは、破綻した経済に対する進歩的な修復策ではなく、賃金労働の資本主義体制から抜け出す架け橋なのだ。社会が全員の基礎的ニーズを満たすので、医療保険、住宅、食費にかかわる問題が市場の足を引っ張らない。労働者本人にとっても、これらのニーズが満たされていれば、したいことをしていく自由が生じる。自分がやりたい仕事では食えないからという理由であきらめる必要はない。起業するのも、育児に専念するのも、芸術活動を始めるのも自由だ。」(Location: 1,435)

    「貧困は、精神的余裕に対する重石のような働きをするのだ。健康を含めた 心身の安定 にずっしりとのしかかる。貧困の定着による混乱や疲弊について調べた著名な研究は、「貧しい暮らしでは、散発的な収入、自転車操業のような支払い、妥協や代償の苦しい判断に対処していかなければならない」と考察している。」(Location: 1,710)

    「食糧、衣服、学校で使う本、水甕、衛生用品、そして牛など生産性向上に役立つ財を含め、ほぼあらゆる形の現物支給に同じ指摘が当てはまる。学校を建てる、送水ポンプを配備する、作物の種を配るといった慈善活動も同様だ。意図は悪くない──まぎれもない善意にほかならない。しかし実際の効果はどうだろう。「本当は「この品物にかかったお金をそのまま現金として渡すほうがよいのではないか( 17)」という視点から考えるべきなんだ」」(Location: 1,801)

    「子どもが腹を空かせているとか、成人でも死亡率が高いとか、充分な食糧がないとか、病気が蔓延しているとか、学費が払えず学校をやめてしまう子どもが多いといった状況で、効率的かどうかは倫理的な是非の問題だ。非効率な支援は完全な無駄になる。貧困撲滅につながったかもしれない援助をドブに捨てるという意味だ。」(Location: 1,859)

    「UBIの導入は、お金を稼ぐことだけが労働ではない──過去においてもそうではなかったし、現在においてもそうではない──という見解をはっきり打ち出すと同時に、GDPや雇用成長や賃金が最重要の経済指標であるという認識にも、異を唱えることになる。」(Location: 3,065)

    「全員一律の現金プログラムは、分極化と不平等が広がる現代において、すべての人を視野に入れたエンパワメント、インクルージョン、共生を成立させようとする。これはおぼれた者を拾うセーフティネットではない。人が自分の力で立つ、その足元を支える基盤だ。」(Location: 3,394)

    「UBIは人間の尊厳を守る。人が自立しつつ助け合って生きているという証拠になる。」(Location: 3,642)

    「UBIという思想は、UBIという運動になった。この運動はわたしたち全員に、自国の経済政策に対する思い込みのすべてに疑問の目をもつことを求めている。今のわたしたちが住む世界とは大きく異なった世界を想像することを求めている。当たり前だとか変わらないだとか、そんな決めつけをもたないことを。人がどんなふうに頼り合い助け合うのか、わたしたちの経済をわたしたち自身の手でどのように構築し育てていくのか、人はお互いに何を与え何を受け取るのか、真剣に考えていくことを。政策を小手先でいじるだけでなく、ラディカルに書き換える可能性を視野に入れることを。」(Location: 3,952)

    「AIが本を書き、AIが癌を診断し、AIが車を運転し、そしてAIの存在を加味した社会福祉政策が策定される世界について、その可能性を一番わかりやすく教えてくれるのは、ある意味ではSF作品なのかもしれない。たとえば、アニメ『宇宙家族ジェットソン』。」(Location: 4,010)

    「ケインズの論稿と『宇宙家族ジェットソン』には、経済の細かな仕組みに悩む様子は見られない。ただしケインズは、今の資本主義社会が未来にも引き継がれていると想定していた。その未来の世界では大量の技術的失業と恒久的な労働需要低下が発生しており、物質的にはきわめてゆたかで、人々の労働はおそらく週 15 時間ほど。」(Location: 4,070)

    「均等に行き渡るかどうか、そこが境目なのだ。」(Location: 4,099)

    「AIや、その他の関連技術が進歩することにより、生産性が向上し、不平等が拡大し、大量失業が発生するのが間違いないのだとしたら、人類の暮らしをどう支え、経済と社会に対する平等な参加をどう確保するか、世界は選択をしていかなければならない。一方で、本当に生産性向上や不平等拡大や大量失業が発生するのだとすれば、それをUBIだけで解決することはできないという点は、ここまでに紹介したSF作品や古き論文も明らかにしているとおりだ。」(Location: 4,105)

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著者プロフィール

The Atlantic誌の寄稿編集者。New York Times、the New York Times Magazine、Slateなどにも寄稿している。CNN、NPRなどにも出演多数。

「2019年 『みんなにお金を配ったら』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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