ゲームの王国 下 (ハヤカワ文庫JA) [Kindle]

著者 :
  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • ラストが「あっ、そういう終わり方なんだ……」みたいな。

    カンボジアが舞台の小説って初めて読んだかも知れない。

    カンボジアを舞台にした作品で記憶にあるとすると、小説ではないが、戦場カメラマン一ノ瀬泰造氏を扱った映画『地雷を踏んだらサヨウナラ』(浅野忠信氏主演)は見たことがあったようななかったような……。
    あとはやっぱり映画で『キリング・フィールド』くらいですかね。

    読んでる最中にちょびっとポルポトについて検索をかけたら、ポルポトはバカスカ地雷設置しまくったらしい。
    地雷、安上がりらしいですもんね。

    ちなみにポルポトは大して出て来ません。

    なんか小説読んでるとよく出てくるガルシア=マルケス『百年の孤独』的な、マジックリアリズム的なあれらしいです。

    面白い小説ですけど、拷問シーンとかもあるので、そういうの嫌っ!って人は注意かもです。

  • カンボジアを舞台にした本作、時代は21世紀に飛ぶ。
    クメール・ルージュ下野後、それでも腐敗と貧困が消えないカンボジア。
    ソリヤはNPOを経て、政治の世界に飛び込む、”正しいルール”をカンボジアにもたらすため、権力を手にするべく邁進する。
    脳波測定に興味を持つ若者アルン、そしてソリヤの養子のリアス名が学生として大学教授となったムイタックの指導を受ける。
    そして脳波を一定程度コントロールするアルンの能力をヒントに、まったく新しいゲームを生み出す。

    下巻では土ではなくチャーハンを食いその声を聞くようになった泥、ヘモグロビンに拘り急にキレる精神科医ダラ、不正の暴露に勃起するTVディレクター・カン、など尖ったキャラが登場。
    ソリヤの政治を権力への道と、ムイタックの遠回りな思想を植え付ける手法の戦いは、ゲームの世界で邂逅する。

    歴史と愚かな政治に翻弄された人々の長い人生の物語。
    下巻では脳波と記憶のコントロールというSF的テーマが出てくる、そしてこのストーリーのために、思想の徹底を図ったカンボジアを舞台にしたのか、という納得感はある。
    ラストもあまり良いエンドには思えない。あそこまで生に執着した人たちが、、と思ってしまう。
    上巻で期待させられたクメール・ルージュ打倒が描かれるわけでもなく、その過激な思想の裏返しに関する50年後のどんでん返し、でもなく、歴史ものとしてもSFとしても消化不良感があると思う。
    それでも一気に読み進められるのは、作者の文章力の魅力でしょうか。

  • なんかもう、歴史小説、大河小説、SF、ファンタジーとさまざまな要素が詰め込まれている感じで、すごく読みごたえがあっておもしろかった。翻弄され、のみこまれて、えーなんなのこれ?っていうところもあるんだけど、どんどん読める感じで。ところどころ、文章とか会話とかユーモアがあって、深刻だけじゃなくてファニーな感じがするところも好き。

    大雑把にいうと、カンボジアが舞台で、前半は、ポル・ポト政権による大虐殺とかが起きた時代の田舎の村の話で、このあたりは歴史小説とか大河小説みたいなおもしろさ。それに、いわゆるマジック・リアリズム(わたしの理解では、非現実的なファンタジー的なことが、現実のなかでごく普通のことみたいに起きるっていう)が入ってる。私はこの手の奇妙な話が苦手なんだけど、この小説の流れで語られると説得力があるというか、あんまりイヤとは思わずに読めた。

    ポル・ポト政権についても、たいして知らずに読みはじめたんだけど、これからは貧富の差をなくしていこう!みたいな、一見希望に満ちた革命が起きたのに、一般の人々にとってはその革命後の生活がもう最悪最低だったっていうのがものすごく恐ろしかった……。

    後半は、一転して現代で、脳波を使ったゲームの話にもなっていくんだけど、意外と、SFっぽいこの後半のほうが好きだったかも。記憶とか脳波とか難しい話だけど、わかったような気にさせてくれて興味深かった。
    あと、カンボジアの現代の問題、貧困などへの支援があってもさまざまな社会状況が絡み合って、そううまくは支援にならなくて、みたいな話に考えさせられたりもした。

    ほんとうにさまざまな要素がつまっている感じで、まったく感想がうまく書けないんだけど、ルールとかゲームとかに話から、人生哲学、みたいなことを感じさせられるところが好きだった。
    いやー、小川哲氏の書くもの、おもしろいと思う、これからも読んでいきます。

    • meguyamaさん
      去年最初の方だけ読んでそのままになっていたのですが、ご感想を読んで早く続きを読まねば!という気になりました。小川哲さん、短編をいくつか読んだ...
      去年最初の方だけ読んでそのままになっていたのですが、ご感想を読んで早く続きを読まねば!という気になりました。小川哲さん、短編をいくつか読んだことがあるのですが、どれも面白くて才能ありますよね。
      2023/07/09
    • niwatokoさん
      けっこう長いですがおもしろかったです。壮大な物語を最後まで読ませるパワーがあって文章も上手いと思うし、ほんとに、才能ある!って感じですよね。...
      けっこう長いですがおもしろかったです。壮大な物語を最後まで読ませるパワーがあって文章も上手いと思うし、ほんとに、才能ある!って感じですよね。短編は読んだことないのですが読んでみたいです。でも長編が好き(笑)。
      2023/07/09
  • 上巻は「自然科学=SF」という人にはキツイのだけど、下巻になると状況は変わる。メインの舞台が2033年になって、脳に他人の記憶を再現させるゲームが出現し、俄然面白くなってくると思う。このゲームの狙いは何なのか?
    錯綜する物語もきれいに収まり、面白いこと最上級。
    ただ、この物語を本当に普通の読者や、中学生くらいが読めるかというと結構厳しい。高校生でも厳しいかもしれん。
    その意味では読者をかなり選ぶような感じはあるのです。

  • 全てがヘモグロビンに帰結する医師
    「見ろよ!これがヘモグロビンだ!お前のヘモグロビンが流出しているぞ!」

    「お前は誰だ」と全員が考えていた(自称)泥の娘

    不正を見逃さない勃起

    さらにクレイジーな人間の見本市が展開されたと思いきや、まさかの歴史物から現代SFにジャンル変更と、カオス具合はさらに極まって、すごいことに!
    唐突にシュタゲになるな!

    色んな感想をみていて、確かに言われてみれば、と思ったのが、ソリヤがポル•ポトの娘(かもしれない)という伏線があまり生かされていなかったのかもしれません。話したのも一回だけだったようですし。カンによって暴かれるウィークポイントとして使う予定だったのかもしれませんが、捨てられたのかな?

    だけど、終着点は、リアスメイの言った通り、抱いた感情に題名をなかなかつけられない、とても複雑な読後感です。遠い眺めを見やって、思わず長大な人生や世界のことを考えて、気が遠くなるような、でもなんだかふわふわと悪くない気持ちになる……そんな感じです。
    「これが災厄というのなら、受け入れるしかないでしょう。ですが、それでも私は祈ります。運命に翻弄されてそちらへ向かった二人が、どうかいつまでも楽しく遊べますように」

  • いやあ素晴らしかったです。実は昨年上巻を少しだけ読んであまりハマれずリタイヤしていたのだが(←この後ろめたさを著者あとがきでまるっと肯定してもらえたことに驚いた)今回は下巻まで一気に貪るように読み耽った。たぶん間にラシュディ『真夜中の子供たち』をはさんだのが良かったのだろう。『真夜中』ではあまり具体的に描かれずちょっと物足りなかった異能の子どもたちの活躍が本作上巻でフルに堪能できて、輪ゴムのクワンや泥といったお気に入りのキャラもできたりして。歴史小説としての苛烈な描写の合間にすっとぼけたセリフが笑いを誘うのも『真夜中』と重なる。そして下巻は脳波やら記憶やら、そうだよね、これはSFなんだよねっていう話になってきて、それがソリヤとムイタックが追い求めたゲーム=人生観と絡めて語られるのがめっぽう面白く、覚えきれない登場人物ひとりひとりが魅力的で…そして、ある章で、緊迫する会話に、バックで流れる通販番組のナレーションが重なる、実験的な語りに幻惑されながら、私いま龍さん以外に感じたことがないスリルを感じてるってことに気づいたときにはドキドキがMAXに。ラストの着地も好みのエモさ加減でしみじみ良かった。『オーバーストーリー』で感動的だったゲーム上での交歓、小川哲さんはパワーズより先にやっていたんだね。とりとめなくなってきたけども、とにかくこんなに「好きだ!」と思えた小説はそのパワーズの『われらが歌う時』以来、つまり15年ぶり。15年生きのびて良かった。小川哲さん、短編幾つかと『君のクイズ』しか読んでなかったけど、他の作品も読まなくては。とりあえず今ゲームの王国ロスです…

  • いきなり50年吹っ飛ぶ。え!ティウンは!?と慌てるがかなり後半になってちゃんと明かされる。チャンドゥクがオンラインゲームとして作られる過程とプレイシーンがSFとされる由縁だろうか。
    ジャンルとしてくくりきれないからこそのSFかな?

    冒頭から優れた指摘だなと思う。NGOの活動がうまく機能しない理由。ODAが活かされない理由。押し付けの改革がうまく行かない理由。信用信頼の大切さと役割。ソフトパワーの役割。時間の覚悟。ルール策定と運用のための土台。
    日本の種痘も同じような経緯だったのではないか。保険のような共助システ厶もあったはずだ。
    権力によって改革を断行するのは短気に過ぎる。理解されないものは受け入れられない。浸透に要する時は、或いは人の寿命よりも長いかもしれない。
    ソリヤは性急過ぎたし、基本的な思考方法は父と同じだったのだと思う。放送倫理に引っかかりまくって映像化できないであろうカンは、3度目の魔王誕生を阻止した。だけど手放しで称賛出来ないのは性癖のせいではなくて、ソリヤの人生を読んできたからだろう。ムイタックとソリヤは二人だけが同じルールの上でプレイできた。ゲームは限定的なものだ。ルールを解する者同士でしか成り立たず、実力が拮抗しなければ試合にならない。お互いが運命だったのだろう。
    著者のあとがきもすこぶる良かった。御本人がもう書けないとおっしゃっていたように、唯一無二の空前絶後の作品だと思う。

  • 上巻のクメール・ルージュ時代から大きく飛び、2023年のカンボジア近未来を主な舞台にした下巻。フンセンが「元首相」として扱われているのが意味深。勿論、実際には本書刊行後の2018年の選挙でも、直前に野党を解党して勝利しており、2023年でも本書のような事態にはならなそう。下巻で漸く「ゲームの王国」の意味が明らかになる。個人的には上巻の方が面白い。下巻はだんだんと意味が掴みにくくなるし、カンボジアが舞台であることと結びつき難い。ただ、大作で、秀作で、読み応えがあった。

  • 小川哲天才。前作『ユートロニカのこちら側』を読んだ時、これは伊藤計劃の再来か?と思った記憶があるけど、それが確信に変わった。

    日本のSF史における新たな時代の到来よ、おめでとう。

  • 上巻での流れを無視するかのように、下巻はいきなり2023年のとある場面からスタートする。
    が、ここに至ってようやく、本書の向かう方向が見えてくる。上巻で描かれた数多くの登場人物(そのほとんどは死んでしまったが)と奇想天外な能力、事実に基づいた出来事と巧みに織り込まれた虚構……。なんの意味があるのか、どんな繋がりを持つのかわからず読んできたそのすべてが重なり、うねる。下巻はある意味、耐えに耐えた上巻の鬱屈が解放される読書体験となった。
    そして知るのだ。このタイトルに込められた意味を。

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年『ユートロニカのこちら側』で、「ハヤカワSFコンテスト大賞」を受賞し、デビュー。17年『ゲームの王国』で、「山本周五郎賞」「日本SF大賞」を受賞。22年『君のクイズ』で、「日本推理作家協会賞」長編および連作短編集部門を受賞。23年『地図と拳』で、「直木賞」を受賞する。

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