息吹 [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 全9作品からなるSF短編集。
    ・不思議なタイムマシンの門と、イスラム世界の価値観を描く「商人と錬金術師の門」(全40頁)
    ・ある宇宙でのロボットのよう知的生命体が、自らの体の謎と宇宙の謎を、自らの解剖によって迫る「息吹」(全18頁)
    ・予言機の発見により問われた”自由意志”の正体を警告する「予期される未来」(全6頁)
    ・人間に近い高度な知能を持つAIの”ディジエント”。彼らと彼らを育ててきたオーナーたちが、長い年月の中でプラットフォームサービスの終了に伴う彼らの世界の存続、かなり生育したディジエント自身の”主権”について葛藤する「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」(全126頁)
    ・人間でなく、全自動ロボットによって幼少期を育てられたことによる発育の違いをテーマとした「デイシー式全自動ナニー」(全24頁)
    ・全ての生活を記録する機械が発達し、かつその検索も容易にできるようになったときの世界、とある文字を持たない社会へヨーロッパからの文字文化が入ってきたときの、ふたつの世界線から、記録されたことと事実とされることを題材とする「偽りのない事実、偽りのない気持ち」(全52頁)
    ・宇宙の知的生命体への交信を試みる人類を、人類への交信を試みるオウムの立場から描く「大いなる沈黙」(全10頁)
    創造論が広く受け入れられ、かつそれを証明すると思われる化石資料も存在する世界において、天文学から出た”地球中心説”への疑問による価値観の揺らぎをテーマにした「オムファロス」(全40頁)
    ・パラレルワールドの存在が広く受け入れられるばかりか、その世界を知り、交信ができるようになった世界。自分が違う決断をしていたときの”if”がもし覗ける時、自らの決断や現在地をどう受け入れていくのか?「不安は自由のめまい」(全82頁)

    長いものから短いものもあり、必ずしも統一されたテーマがあるわけではない。
    高度にロボットやAIが発達し、より多くのことができるようになった世界が舞台になっているけれど、うまい具合に”もう少し先”を描いていると思う。技術は少しずつ世界を変え、価値観を変えていき、”自らの意思とは、自らの決断とは?”というところを問うてくる。
    個人的にはパラレルワールドとそれに翻弄された時の決断の意義を描いた「不安は自由のめまい」がとてもよかった。
    AIのペットとも言えるディジエントと、彼らとオーナーとの繋がりのあり方、ディジエントの主権や判断による責任をテーマにした「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」はかなり近い世界に問われる疑問を描いているように思える。
    少し未来を覗いたときの思考実験をしているような気分になって、面白かった。また時々読み返します。

    • goya626さん
      テッド・チャンは、気にはなるんですがね。「SFが読みたい」の海外第一位でしたから。でも、むずかしそうですねえ、私で歯が立つかなあ。山田宗樹ぐ...
      テッド・チャンは、気にはなるんですがね。「SFが読みたい」の海外第一位でしたから。でも、むずかしそうですねえ、私で歯が立つかなあ。山田宗樹ぐらいだと分かりやすいのですが。
      2021/04/26
    • raulreaderさん
      >goya626さん コメントありがとうございます、私も「SFが読みたい」で気になって、手に取りました笑
      私は全然詳しくないですが、すこし...
      >goya626さん コメントありがとうございます、私も「SFが読みたい」で気になって、手に取りました笑
      私は全然詳しくないですが、すこし先の未来を描いている感があって、意外と世界観をイメージしやすい作品が多いです。(巻頭2作品はちょっと難しかったかも)
      3年後に読んだら、また現実との距離感が大きく変わっていて、感想が違いそうです。
      個人的には、気になったタイミングで、是非おすすめしたいです。
      2021/04/27
    • goya626さん
      ほお、イメージしやすいですか。トライしてみようかな。非常に寡作の作家だというのも、怖気を振るっていたんですよ。
      ほお、イメージしやすいですか。トライしてみようかな。非常に寡作の作家だというのも、怖気を振るっていたんですよ。
      2021/04/27
  • ああ、もっと頭が良くて物理とか得意だったらよかったなあ…!!とつくづく思ったけど、よくわからないなりに楽しめた。同じ著者が原作の映画『メッセージ』終盤で、壮大で圧倒的な何かに突如包まれ、謎の啓示を得たようでなぜだか涙があふれだす(…まあ、あそこまではいかないけどそれに近い)感覚が再現される瞬間が幾度があった。好きなのは後半の「偽りのない事実、偽りのない気持ち」、「不安は自由のめまい」あたり。尻上がりにチューニングできてきた感じか。コニーウィリスの時も思ったけど、大森望さんの訳は賢くて凛々しく、でもダメなところもあってキュートな女性の描写が巧いなと思う。以下、備忘録。
    「商人と錬金術師の門」:アラビアンナイト風寓話。
    「息吹」:私はなんでか人間が機械の肺を持つようになった未来の物語かと思い込んで読んでしまった。静寂の空間で金属の薄片がそよいでいる不思議なイメージは印象的だが、いまいちよくわからず、あんまりはまれなかった。無念。
    「予期される未来」:他の短篇にも出てくる自由意思のお話。オチがショートショートっぽくてほっとした。
    「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」:設定や世界観もろもろは好きなのだが、ちょっと長すぎ?SFは長編より短編、という自分の好みを再確認。ここ1,2年で、平野啓一郎の『本心』、パワーズ『オーバーストーリー』など、VRやゲーム、アバターが小説の中で重要な役割を果たすものを続けて読み「これからはそういう時代か!」とか神妙に思ってたけど、単に自分が無知だっただけで、2010年時点ですでにそういう世界が鮮やかに描かれていたのだった。あと、『クララとお日さま』などのAI物を読んでもどこか「機械は機械じゃん」と身もふたもない感想を持ってしまいがちだったのだが、これ読んでちょっと考え変わったかも。
    「デイシー式全自動ナニー」:カタログ記載の紹介文、というていの堅い文体。こういうの混ざってると楽しい。実は父と息子の物語だが、キモとなるはずの台詞が何度読んでも意味がわからず、とあるブログの解釈に助けられた。
    「偽りのない事実…」:個人のライフログを検索して過去の出来事を視界の片隅に表示できる「リメン」という新しいツールの導入と、アフリカのティヴ族における口承→記録という、新旧ふたつの技術革新の過渡期が並行して語られる構造が巧い。断絶した父と娘の物語でもあるのだが、たしかに子どもが小さい頃の記憶って、何度も見返したお気に入りの写真とかによって上書きされて、何が真実だったかもはやわからないようなところあるよな。デジタルの力を借りてすべきことは「正しかった」と証明するのではななく、「まちがっていた」と認めること。追及より寛容。正しい「ミミ」と正確な「ヴォウ」。
    「大いなる沈黙」:オウムのやつ。
    「オムファロス」:「若い地球説」とか全然知らなかったけど、この短篇集のなかでは比較的わかりやすかったかも?これも自由意思の話。
    「不安は自由のめまい」:プリズムのしくみ、いまいち理解できてない気がするけど(自分もパラセルフのひとつなのか、起点だから別格なのか)、犯罪?ミステリー?要素もあるし、主人公ナットの造形もよくて、面白く読めた。分岐されていく並行世界のどこか(いくつか)で、結局自分が悪しき選択をしていたとしたら、今ここの自分が善き選択をしても無意味ではないか?などさまざまな問いを投げかけられる。これと「オムファロス」を続けて読むことで、日頃空しさの沼に浸かって生きてるような自分でも、ひとりの人間としてこの世界に存在する意味に手を伸ばせたような、うっすら前向きになれる不思議な力があった。

  • 「息吹」(テッド・チャン:大森望 訳)を読んだ。
    うーん、(まったく別ジャンルの「遺伝子」や「ライフスパン」あるいは「ホモデウス」なんかを読んだ時に感じたんだけれど)この先人類が向かう先にはある意味においてヤバイ世界が待っていて、この短編集はそれへの警鐘ではないのかと私には思える。

  • 話の仕組みが高度で、読むのが難しかった。「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」がとても面白かった。人間がAIのことを動物と同じようにペットして認識し、それがだんだんと対等的な立場になっていくのが良い。アナのティジェントのプラットフォームが終わる時、潰れる動物園と同じ気持ちになったいうのが印象に残った。
    恋愛、ビジネス、SF. 、人間関係が縦断的に盛り込められていて、傑作。
    ティジェントの選択という話も心に残った。彼らは経験を積んでことで成長していくが、いつ彼らの選択権を認めるのか、そしてそれは倫理的に危ういけど、いいのか。重要な問題点だと思う。
    最後にアナはティジェント達を選び、デレクはアナのことを選んだというのはこの話の面白いところだと思う。機械といくら仲良くなっても、最後には人間を選んでしまう人も多いだろう。

  • 一つ目の短編読んだだけだけどやられた。訳がすごい。日本語としての肌触りが昔読んでいた福音館のハードカバーのようで、ペルシャを思い浮かべてた。まあしかし世の中妻がなくなる物語ばかりだよね。
    最高でした。読み終わっちゃった。じゃあ今度はメッセージだ!

  • どれも面白いし、一捻りふた捻りある。
    短編でも、しっかり読み応えがあって、
    とっても楽しかった。

  • 100点満点のSF。
    なぜテッドチャンのSFがこうまで完璧なのかと考えると、そのオブジェクトが、来るべき世界にとってあまりにも普遍なものであるからだ。
    きっと、iPhoneの説明書を80年代に持って行ったらそれは完璧なSFになるに違いない。
    彼の小説はそういう美しさがある。過不足のない美しい未来予想図としての短編集。

  • ハードカバーの単行本は滅多に買わないけれど(場所をとるので)、買った価値が余りある程の傑作SF短編集。SF好きのみならず勧めたくなる位引き込まれた。

    表題作は、これまでちょっと読んだことの無いタイプのSFで(すでにあるのかもしれないけど)、こうした設定をよく考えつくなと感心させられる。
    他の短編も、タイムマシン、パラレルワールド、すべてが記録される社会といった、よくあるSF仕掛けなんだが、非常に洗練されていて、それぞれの世界の世界観を分かりやすく描かれている。1作目の「あなたの人生の物語」よりも読みやすくなっていると思う。

    表題作「息吹」もそうだが、主人公の独白という形を取った作品が多い。登場人物のキャラ設定と独白が、読者を作品の世界に引き込む役割を果たしている。「抑制の利いた筆致」という表現があるが(カズオ・イシグロがそう)、まさにこの短編集にも当てはまる。

  • * 商人と錬金術師の門
    のっけからこれはSFなのか??みたいな作品。ストーリーはよかった。異国の街の空気が感じられるような文章も素敵。こういうSFガジェットがあっても人間の倫理観とか行動規範は伝統的な宗教に根ざしていて変わらないというところにリアリティを感じる。
    最後、間に合わなかったらまたカイロまで戻ってさらに1年くらい遡る とかできてしまいそうだが、やらないのかな。

    * 息吹
    よかった。永遠に近い寿命を持つ生き物?もエントロピー増大則と宇宙の熱的死には抗えない。しみる。
    あと風圧で思考する機械のアイデアとメカニクスがすばらしい。こんなものを作れるのはどういう文明なんだろう(マシンたちは生殖もしなそうだし数は減る一方なのかな)

    * 予期される未来
    思考実験みたいな作品。個人的には、この程度の発明で人間社会がまるまる変わったりするだろうか、という点が疑問。
    昔から人類は予定説というやつに強い魅力を感じていたわけで、それが科学で証明されたとしてもせいぜい変な新興宗教がぽこぽこ出てくるくらいじゃなかろうか。

    * ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル
    つまらない。ほとんど現実か手垢のついたような話を長々としているだけで、特段真新しさはなかった。ストーリーに山場とかないのでかなり退屈。

    * デイシー式全自動ナニー
    機械に育てられたら機械にしか反応しない子供になる?? ちょっと無理というか現実を無視し過ぎたアイデアで作品に入り込めなかった。あとこのナニー、授乳とオムツと寝かしつけにしか対応してないので生後半年以降は対応できないし、お風呂どうするのとかめっちゃおむつカブレするぞとか、他にも色々気になる。

    * 偽りのない事実、偽りのない気持ち
    個人的にはこれもSFではない。人生の任意の瞬間を動画でリプレイできるようになり、自分の思い違いに直面させられた人類はどうなる? みたいな話。別にワンダーはない。

    * 大いなる沈黙
    フェルミのパラドックスがテーマというだけでSFではない。科学雑誌のコラムとかが雰囲気近い。

    * オムファロス
    レフト・ビハインドっていうひどい映画があったんだけど、あれを思い出した。「神が人類を創造したことに意思はなく、ただの偶然の産物だった」ことがさも重大事のように取りざたされており、さていつになったら小説のテーマに入るのかなと思って待っていたらそのまま終わった。

    * 不安は自由のめまい
    これはSF。なかなかおもしろい思考実験だと思った。ただSFが主軸の話ではなく、変化した状況に相対した人間の倫理観を問うているのは他の作品と同じ。

  • 読了。どの短編もそれぞれに良かったけど、個人的には一番最初のアラビアン・ナイト風のタイムマシンもの(シリーズ化してほしい)と、最後のパラレルワールドものが気に入った。

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