未必のマクベス (ハヤカワ文庫JA) [Kindle]

著者 :
  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • 少し前、丸善に行った時にワゴンに山積みで売られていたので気になって手に取ってみた。その場では買わなかったが、先日、いつも行く本屋でも、山積みになっていた。奥付をみると、各刷の寄せ集めという感じだったのでなんだか在庫一掃セールのような恣意的なものを感じたけれど、いっちょ読んでみるかということで購入。
    いわゆる未必の故意とシェイクスピアのマクベスを併せたタイトルだけでおよそのストーリーはわかりそうな雰囲気ではあった。
    読後、まあストーリーは面白いし、海外赴任経験者にとっては、ノスタルジックな気持ちにもなれるし、読んでて心地よい時間が続いたので、この点はすごく評価したい。一方で、上場会社のくせにこれだけ悪い会社を設定すること自体、虚構性ありすぎかなとも思うし、分量が長いわりに展開は平坦で、ラストにかけてのハードボイルド的展開の唐突さが際立ち、読後感はそれほど強い印象を及ぼさなかった。とにかく、読んでる時の心地よさは半端なく、この赴任状態をだらだらいつまでもやっていてほしいという気持ちのまま、やや陳腐な結末で遮断されたという趣が強い。
    まあ、未読が解消できてよかったということです。

  • 読了後、1週間かかっても適切な感想の言葉が決まらない。切ない、ムカつく、超面白い。
    知人に読んでもらって、感想を伝えて貰いたくなる。

    そうだ、最後まで残ったのは、「切ない」だ。

    • aiaitaro8さん
      「最後まで残ったのは。『切ない』」、同感です。
      「最後まで残ったのは。『切ない』」、同感です。
      2023/10/13
  • 一気読み。面白かった。
    まず香港の描き方が良い。2000年前後の日本でよくフィクションで描かれていたような、エキゾチックで、危なくて、羽振りが良く、どこか懐かしい、そんな香港の描写がずっと続く。登場人物も魅力的でありながら不穏で、敵か味方かわからないハラハラ感でページがどんどん進む。
    一方で設定がちょっと甘いところもあり、話の展開の都合が良すぎる点などツッコミだすとキリがない。タイトルの「マクベス」ももう少し効果的に料理できたのではないかな、と思わないこともない。ミステリ的な要素をきちんと具えたハードボイルド小説を読みたいならチャンドラーなどを読んだほうが良いかもしれない。
    でも香港の描写と魅惑的な登場人物たち(特に伴、森川、蓮花)、最後まで疾走感を失わないプロット、そしてわかっていても心揺さぶられるエンディング、それだけで十分すぎる良作だと思う。

  • サスペンス小説なんだけど、話の芯は置き忘れた青春の話。
    社会人としての、そこそこの成功。そこからの落とし穴。なにを傷つけ誰を守るか。
    出会った頃からの、変わらないパスワード。そこに込めたものが通じて、物語と心が進み始める。
    主人公が持つ秘密を教えてからの、ラストシーンがナイフのように心に刺さりました。
    #2023年の読了本
    #読書

  • 初、早瀬耕
    書店のPOPがやたら気になるが、600ページの大作になかなか手が出ずも、今日に至る。
    ハードボイルド、スパイ小説、ミステリー、恋愛小説・・・様々な要素が入り混じりながら圧巻の600ページ。
    途中訳がわからなくなるところもありながらも、ほぼ一気に読めた。文体のクールさが、いまいち臨場感やスリル感を増幅させない原因か?
    キューバ・リブレが飲みたくなること必然

  • 本屋さんのポップが熱くて、買わずにいられなかった。小難しい、堅苦しいかなと思ったが、読みやすく、引き込まれ、最後まで飽きさせず面白かった。
    こんな状況には陥りたくないが、海外のバーで
    キューバリブレを飲みたくなった。
    伴に感情移入してつらかった。中井に対する感情は人は誰しも持っているんじゃないか…とても切なかった。

  • 内容はよく分かんなかったけど、物語の展開は面白かった。やろうとしていることも伝わってくる。興味深い小説だった。

  • シェイクスピアの「マクベス」になぞらえながら主人公達が企業の陰謀に巻き込まれていく…。陰謀に巻き込まれる系の作品は大体主人公はそれらに果敢に立ち向かう姿がよく描かれてると思うのだけど、今作の主人公は王の資質を持っており自分が巻き込まれてるのに超然としててまるで他人事。読んでる僕の方が読み方を間違ったんじゃないか?場違いな印象を持たせてくる。僕的には村上春樹に似てる?って思った。村上春樹はストーリそのものが不思議な世界に行ってしまうけど、この作品は読んでる僕の方が不思議な世界に行ってしまった感じ。上手く言えないけど。他にも色んな要素が入ってるので読み応えもあるし、めっちゃ面白かったわ。

  • 早川耕と出会った最初の1冊目。
    分厚さに最初読み終わるか…と思っていたが、壮大な世界観に圧倒され、香港からマカオまで、本当に旅をしているような気持ちとともにとともにあっという間に読了していた。
    ミステリに分類するほどのあっと驚く仕掛けはない。けれど古典のマクベスになぞらえながら、数学やミステリや恋愛が全てぎゅっと濃縮された展開は次から次にページをめくってしまう面白さがあった。
    この本をまだ読んでいない人がいるのが羨ましいぐらい。おすすめの一冊です。

  • 完全に、肌に合わなかった。

    物語自体はよく考えられているし、文章も読ませるし、うまいと思う。
    ただ、私にはまったく合わなかった。というか、ダサいと思ってしまった。
    長くなるが、なにがダサいのか、何が肌に合わないのかを以下に書く。


    まず物語の概要を。
    本書は、恋愛小説で、サラリーマン小説で、ハードボイルド小説だ。
    主人公の中井優一は40歳くらい?の課長。出張で月に2回は海外に行くような生活をしている。同期の中では2番目の出世頭である。会社は通信システムを専門にしている、けっこうな大企業だ。
    あるとき、高校の同級生で同僚である伴とバンコクへ仕事に行く。そこで大きな仕事を成功させた直後、急な辞令によって、今度は香港の子会社の社長に任命される。
    しかし実はその子会社はダミー企業のようなもので、関連企業に対して毎年莫大な額の金を横流しにするため存在しているものだった。中井は、香港で本社の傀儡となるよう仕組まれていた。そして、会社の暗部が明らかになるにつれ、自分が命を狙われていることを知る。自分や周りの人間が無事であるためには、前任である副社長を殺すしかない……。みたいな話。

    ほかにこの物語を構成するアイテムを列挙すると、社内政治、出世競争、カクテル、外国の料理、高級ホテル、トランジット、女性秘書、娼婦、会社の役職における振る舞い方の違い、カジノ、某国の王子、暗殺者、偽造パスポート、暗号化技術、そしてシェイクスピアのマクベス。とくにお酒およびお酒の場はよく登場する。主人公はダイエットコークでつくるキューバリブレにこだわりがある。
    主要登場人物である中井と伴は、それぞれ自分の人生がマクベスになぞらえれて進みつつあることを意識する。

    でだ。私がダサいと思ったもの。
    それは、著者がかっこいいと思っている(であろう)ものすべてだ。
    簡単にいうと、キザすぎるのだ。
    もう少し言うと、「大人」の社会、アダルトな振る舞いやコミュニケーション、社会というものに小慣れたスマートな感じ。そういうものがアイテムとしてたくさん登場するし、文章の至る所に散りばめられているし、登場人物たちの思考もそういうもので染まっている。著者は確実に、こういうアダルトさがかっこいいんだよ、と思っているはずだ。
    しかし私は、この本で書かれるようなアダルトさやスマートさはまったくカッコよくなんかない、むしろウザい大人だ、と感じてしまう。
    だからどれだけ文章がうまくてもダメで、というかむしろそれが「嫌な大人のスマートさ」を強調し、より鼻持ちならない印象にさせてしまう。
    ちなみに主人公である中井は、恋人はいるが独身で、とにかくモテる男だ。女性と飲んだり、それとなく口説くシーンが多い。

    たとえば、p402。
    "社交辞令のひとつとして、船から降りる彼女の手を取ると、その掌が冷たい。"
    この一節などは、まさにこの小説の性格を体現していると思う。別に、クルーザーから降りるときに女性の手を取るのは、まぁいいですよ、そういうもんかもしれない。だけど、とにかく一貫してこうなのだ、この本は。そういう場面を書きたいのだ。船から降りる女性の手を取るスマートさ、暗黙の大人のやり方、そういうものを書きたいし、同時にそれを"社交辞令として"やっているんですよ、というエクスキューズを入れることで、よりスマートさを強調しようとする。これは下心じゃなくて大人の社交ですからね?みたいな。
    もう、読めば読むほど、ウゼェ!!っていう気持ちが強くなってくるんです。

    もちろんこれは、程度問題だとも思う。
    そりゃこういうのがカッコよく感じられる場面もある。だけど、おれにとっては明らかにやりすぎだ。演出がくさすぎるとも言える。

    そういう不快感をいったん感じてしまうと、もう「12月の澳門(マカオ)以来かな」みたいな普通の会話も、うざったくなってくる。本当は別に悪くないはずのマカオという固有名詞、その舞台設定を選んだこと自体に、腹が立ってくる。というかウザいなと思ってしまう。

    とか、p410〜413あたりの中井と伴の会話。ふたりともマクベスに取り憑かれているという。伴は、マクベスの戯曲のとおり自分は会議に出席しないという。中井は、おれはお前を殺す動機などないというが、伴は「中井に動機なんて必要ない。ただ、台本にそう書かれているだけだ」とかなんとか言う。
    これも、何をいっとんねんお前らは、という気分になる。まぁ、伴はガンで余命半年、中井は人を1人殺してしまっている、情緒不安定でもおかしくない、が……。いくらなんでもセンチメンタルというかヒロイックというか、演技にのめり込み過ぎというか、大層なことを言うなと思ってしまう。お前らはマクベスとなんの関係もないただのサラリーマンや!と。
    ほんでまた、伴は、マクベスでどうしても腑に落ちないシーンがあるといって、自説を宣う。たぶん他の魔女がいて別の予言をバンクォーは聞いていたんじゃないか、とかいう。いやいやマクベス気取りがマクベス超えにまでいってもうとるやないか。そんな自己解釈を挟む余地があるならほかにいくらでも現実的なこと考えられるやろ。
    その直後、陳がクロスボウを持って後ろに立ってるシーンとか、もうなんか笑ってまうわ。矢は眉間に突き刺さるし。砂浜(砂州?)で殺すかね普通。いや普通どこでも殺さんけど。
    いやもう読めば読むほど突っ込みたくなる。伴が殺された後、中井の秘書のレンファから電話がきて、つぎおれが電話したときはtake me homeを聞かせてくれとか吐かす。電話の保留音がフィル・コリンズのその曲なんだが、もうなんやねんこいつら全員と思う。お前らの思うかっこいいが、おれには一個も分からへん。

    こういうのが立て続けにくるから、陳を見て「身体のラインを強調しないスーツを着ていても、彼女のスタイルが良いことは誰でも想像できる」とか言われると、もうほんまこのジジイは、ってなる。で実際その人に向かって「君ほどの美人なら」とか言う。そういうふうに、ビジネスの関係性の中で、女性の容姿をスマートに言及するのがクールだろっていうのが透けて見える。クールちゃうわ。
    そう、なんか、昭和感があるというか、書き手の眼差しがとにかくジジイやねんな。こういう文章、こういう視線、こういう描写がアダルトで素敵でしょってな感じが、もう、やりすぎ。

    目の前の特殊な状況に対して「動じずにちょっと気の利いたことを言う」のがカッコいいと思っとる。まぁそういうのはあると思うよ、ドラマとして。しかし度が過ぎてる。登場人物たちみんなが、語るに落ちてる。
    ほんで伴を殺した女性が自分の部下になるとか言われて、「同様にしてくれ。君のクライアントは、伴の亡霊ということだ」と中井は言う。もう、お前ら狂ってるよ。カッコつけることに執心しすぎやて。

    こういうカッコつけとか、演出過剰を、よりダメなものにしているのは、女性に対する眼差しである。
    主人公はまぁ大企業のグループ会社の社長なわけで、まわりには女性の秘書がいろいろたくさんいる。自分の秘書もいるし、別の偉いさんからなにかのときにつけられる側近的な人もいる。日本人だったり中国人だったり、暗殺者だったりする。で、なぜかみんな美人の女性なのだ。で、そういう多種多様でよりどりみどりな美人たちが、みーんな揃いも揃って、役職ゆえに主人公に対してかしずくような、慇懃な態度で接するわけだ。中井はマクベスだしね、王様だ。
    で、中井は彼女たちのそういう振る舞いを否定しない。そりゃあ、お互いの立場を考えたらそうなるんでしょう。なんだが自分が大人物になったかのような会話が横行することになる。彼はまんざらでもないどころか、気持ちいいわけだ、その間柄が。自分にとって優位な関係性を保ちながら、同時にやたらと食事に行って口説いたりもできる。自分は偉い立場だからこそ、それを崩すのも自分の胸三寸だから、ちょっと距離感を詰めてセクハラまがいなことも簡単に言えるわけだ。そして当然相手も嫌な気はしない。仮にも、中井には恋人がいるにも関わらず。
    そういうふうに、主人公の周りには、なんでも言うことを聞いてくれる、仕事のできる美女たちが溢れているわけだ。アダルトで、言い過ぎなくても伝わる、ウィットに富んだ大人の関係がたくさんある。マカオの高級ホテルで、ナカイ様、とか言われて。中華料理とかポルトガル料理とか食べて、レストランでワインのテイスティングを断って、とかいちいち書いて、またバーで飲んでホテルに仮住まいして。仕事では英語も広東語もある程度自在に使い分けて。会社の出世レースに興味ないとかいいつつそういう社内政治をしっかり書いて、その複雑さこそがアダルトなんですってな具合でひけらかして。
    ほんとバカじゃないのと思う。異世界転生ものでハーレム作ってるやつと何が違うんだ。
    そんで自分はいろいろ大変な目に遭ってるから、その、王にだけ分かる悲哀と孤独を、読者に対し、言うわけでもなく言うのだ。
    もう、やかあっしゃボケと思うね。気取るのも大概にせえよと。お前らのはユーモアと違う、気障や。

    あとp539。
    落ち着いたレストランでベイ・シューが流れてるところに、中井は、ベイ・シューによるジェームス・ブラントのyou're beautifulのカバーを店員にリクエストしよる。おれはベイ・シューという人は知らなかったが、さすがにジェームス・ブラントはわかるぞ。ほんでまた、ゆあびゅりふぉーお、かい。うぐぐ、くさすぎる……。
    しかしまぁこれはいいか。120%おれの好みの話なので、別にいいです。女性に対する眼差しの気持ち悪さ、などとはまったく別次元の話でした。単にジジイか、というだけで。

    たぶん、ここまでおれが感じてしまったのは、主人公の行動が理解できなかったことが大きいと思う。読み落としている気がするけど、一介のサラリーマンが、人を殺す決断に至るような十分な理由があっただろうか?中井は、最終的に1人を自らの手で殺し、さらにあと2人くらい、見ず知らずの人間を間接的に殺す。ただ事ではない。人を3人も殺しておいて、それをシェイクスピアのせいにして女性とデートしてウィットに富んだ会話を続けているんだから、なんやこいつと当然思う。

    ひどいことをいろいろ書きましたが、どうなんでしょうねこれは。
    これだけ嫌悪感を覚えるということは、作家性というか、何かしら独自の文章を書けているということだと思う。だから、誰かにとっては最高の小説になるんだろう。でもおれのように、なにいうとんねんお前ら、と感じてしまう人もいるだろう。
    村上春樹を読んだときに感じる鼻持ちならなさ、みたいなものを、社外人のアダルトさ方向に50倍くらい強めた作品だ。

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