雑誌記者 [Kindle]

  • 土曜社 (2020年1月31日発売)
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本 ・電子書籍 (206ページ)

感想・レビュー・書評

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  • 池島信平が文藝春秋新社の社長の時に書かれた本。昭和33年の作である。
    文藝春秋が、今の時代に「文春砲」なるものを撃つことができるのか?ということに興味があり、
    「週刊文春編集長の仕事術」新谷学を読んでレビューした。ジャーナリストとしての矜持が素晴らしかった。文藝春秋は、1923年に菊池寛によって創業。1946年戦争協力したということで、解散。同年文藝春秋新社が設立された。その中で、中心的な役割を果たした池島信平である。
    この本には、文藝春秋の戦争の中での苦闘が明瞭、簡潔に書かれていて、その時代の中でのジャーナリストのあり方について、深く考察されている。「右傾せず、左傾せず、中正に自由主義をとる」と昭和12年正月号に声明する。軍靴の足音が聞こえる中でも、どうジャーナリストとして対峙するか。自由がどのように奪われていくのかが時系列で語られる。共産党員が拘束され、自由主義を唱えた教授らが拘束された。そして「中央公論」「改造」「日本評論」の編集者、記者らが30余名が神奈川県の特高に拘束された横浜事件、「国体を破壊する目的」という口実をつけられ、拘束され、そして、激しい拷問の上、獄中死する人もいた。池島は赤紙で招集され、軍隊の武器もなく、理不尽な私刑による暴力を見て、軍隊の堕落さゆえに、この戦争は負けたと認識する。
    池島は、北海道の千歳で飛行場建設をしている時に軍の幹部たちと「玉音放送」を聞く。将校たちは、あまりにも難しくて意味がよくわからなかった。池島は敗戦した事を伝える。
    そして、再び自由に記事が書くことができる事を喜ぶ。ただし、GHQの理不尽な検閲に対しても池島信平は戦うのであるが。「神州不滅」「天皇帰一」と言っていた人たちが、民主主義を叫ぶという中で、自分は、日本の伝統をまもった保守派になろうと決意して、文藝春秋新社を立ち上げる。この本の中では、菊池寛に対するリスペクトに満ち溢れている。菊池寛はGHQによって追放される。「石が浮かび、木が沈む」世を批判する。池島は、真珠湾攻撃の数日前の時に「日米妥協の余地あり」という論説を文藝春秋に載せて、発売禁止処分を受けた。それで、満州の文藝春秋社に飛ばされた事で、戦後の追放は免れた。
    文藝春秋は、芥川賞、直木賞を菊池寛が創設した。そのことによって、文学そのものを国民のものにしようとした。そして、池島信平は大宅壮一賞を創設した。日本におけるノンフィクションを確立した。また、源氏鶏太、大江健三郎の才能を評価した。
    この本を読みながら、ジャーナリストは、様々な時代の中で、選択せざるを得ない分岐点があり、どう自分の信念を貫くのかが時代の先端の中で問われていると思った。
    気骨のあるジャーナリストが、なぜ少なくなってしまったのかと日本の状況の持つ現在と未来への危険性を痛感した。ジャーナリストになろうとする人は、この本を読むべきだ。

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