- Amazon.co.jp ・電子書籍 (317ページ)
感想・レビュー・書評
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嫌になるくらい懐かしい本である。読んだのはたぶん中学生の時。作品の主人公たちを見上げる年頃であった。ミステリとしての面白さはもちろんあったが、作品の中で描かれる高校生たちの群像が妙にリアルで、心密かに憧れつつ、結果的にいろいろなところで影響を受けていたような気がする。この作品に描かれてるような時代の空気が、中学生から高校生になるころの社会にはまだまだ残っていたのである。
再読してみると、当時魅力的であった高校生たちの姿は、幾分ステロタイプで乱暴にも思えるが、今となっては逆にそれが新鮮で、一種時代劇を読むような快感があった。それに憧れていた自分自身の幼さが懐かしく感じて照れくさかった。(もっとも生命蔑視と女性蔑視の無神経さには今も昔も嫌悪感しか感じないが)
ミステリとしては、それほど手が込んだものではないが、物語の展開は面白いし真相解明につながっていく流れも面白かった。でもまあ純粋に推理小説として読んだら、正直意外性もないし目新しさもないし、それほど高い評価はできないような気がする。
読んでいてなんとなく嫌だったのは、登場人物たちが社会的地位に応じたグループに分かれ、それぞれが他を軽蔑している雰囲気である。そんな時代だった、ということだろうか。確かに、当時自分が大人に感じていた匂いはそんなものだったかもしれない。改めて小説の中でその匂いを嗅ぐと、なかなかに気持ちが悪い。もちろん小説は、その匂いをうんと読者に嗅がせた上で、その上にテーマを構築しているわけで、最後まで読むと、それなりに「明日に架ける橋」みたいなものが見えてこなくもないし、それは共感できる。おそらく、現代でも通用するし、させなければいけない考え方なのだろう。結局、それを読ませる一種の悪漢小説だと思うと、昔自分がすごく魅力を感じて読んだことが納得できる気がする。
今の高校生が読んだら、どう感じるだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
誰が(美雪)に手を掛けた?
ダイイングメッセージはアルキメデス。
セメントだけに練り込まれた話かと思いきや、話があちこち二転三転。美雪の生前の心理描写がもう少しほしかった。 -
かなり昔の本で市立図書館で借りようとしたら無くて、県立図書館で借りることができた。ネットで予約して届いた本はボロボロでいかにも年季がはいって読む古された感じだった。手に取るのも抵抗を感じるぐらい汚れてボロボロだった。読んでいくと確かに昔の推理小説という感じで時代的なものを感じた。同級生の女の子が妊娠して堕胎しようとして子宮外妊娠だったため、死亡しその葬儀から物語ははじまった。相手の男性を探していくストーリーになるのかと思ったが、他の殺人事件と絡んで物語は展開されていく。読んでいて飽きはこなかったし、面白く読めたと思う。話の展開も悪くなかったと思う。良い作品だったと思う。
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「恋人なんかじゃありませんよ。それに殺しちゃいませんよ。病気で死んだだけのことでしょう。僕には関係ない」 「恋人じゃない? じゃ貴様は無理矢理に美雪を……」 「とんでもない。合意のうえですよ。彼女は結構、楽しんでいましたよ。僕がうんざりしたくらいにね。ひょっとしたら僕に惚れてたんですかな。僕は、どうってことなかったけれど」 情容赦ない痛烈な侮辱であった。美雪に対する惜別や追慕の響のひとかけらもなかった。せめて、その色でも見せてくれたら内藤も許せるし美雪も救われる、と思っていた柴本は、その期待を微塵に砕かれて、愕然とし、ついで憤怒が全身に猛り狂った。 「貴様、それでも人間か。美雪に恨みでもあるのか」 顔面に血管を浮き上がらせた柴本を、内藤は冷笑するように眺めながら答えた。 「ないね。恨みも関心も……」 「じゃ、なぜ、なぜ美雪にあんなことを……」 「向こうから、そうしてくれと言ったからさ」 「美雪が? そんな馬鹿な。美雪は、そんな娘じゃない」 「そうさ、美雪君は普通の女の子さ。だが、父親が悪かったね」 「父親? 俺がか? 俺のどこが悪い」 「何度も言ったでしょう。僕の家から太陽を奪って、祖母を殺した、と」 「その逆恨みか。それで美雪を穢したのか」 「そうじゃないさ。美雪君は、そのことで僕に謝ったのさ。父の非道を許してくれ、とね。だから僕は答えたよ。いいよ、君の父親と君とは別個の人格だからね、ひどい父親を持ったからって、君の責任ではない……」 「俺の非道だと!」 「あんたが、どう思おうと勝手だ。しかし美雪君は、僕の答えを聞いて、嬉しいと喜びましたからね。そして仲直りのしるしに抱いてくれと言ったんですよ」