文藝 2020年夏季号

  • 河出書房新社
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本棚登録 : 46
レビュー : 4
  • Amazon.co.jp ・雑誌 (472ページ)
  • / ISBN・EAN: 4910078210507

感想・レビュー・書評

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  • 163回の芥川賞候補の遠野遥の「破局」。
    哲学的ゾンビという思考実験がある。
    自分について思い悩むゾンビ……ではなく、外面的にはまったく人間のようにふるまうが、内面的な意識とか感情をもたない存在は可能か、という思考実験のこと。

    政治家志望の恋人もいて、新入生の女の子にももてて、出身高校のラグビーのコーチして、身体も鍛えている公務員試験を目指す慶応大学4年生、というまさにリア充!の一人称の物語。であるが、何かところどころにひっかかる。

    たとえば、女の子にやさしくするのは、その女性のことを思って、とか、女性を大切にする気持ち、から、なはずだが、「父親から言われたから守っている。「どうして女性に優しくしないといけないとわからないが、私は父の言いつけを守っていたかった」となる。
    ほかにも「公務員を目指しているのがら」と行動を制限をする。
    内面のない不気味さを徐々に感じてくる。
    別れた恋人の過去の暴力的な体験の告白、お笑い研究会の友人の悩みのメールなどが挟まるのだが、それに対する感情はまったくない。一方、抜け落ちた陰毛に対しては、
    「今日まで私の性器を守っていたこの陰毛は、抜け落ちた今、ただのゴミになりうとしていた。文句も言わずに仕事をしてきたのにあんまりな仕打ちだと思い、なんとかしてやりたくなった。」
    とやさしい。
    変だ。
    内面のない彼にとって、鍛える肉体とセックス(と自慰)だけが非常にリアル。
    「私はもともと、セックスをするのが好きだ。なぜなら、セックスをすると気持ちいいからだ。」
    うん、まあそうね。身も蓋もないけど。

    小説には、強烈な1文を持つことがあり、前回芥川賞候補の千葉雅也の「デッドライン」の人称の移動の部分がそうであった。
    「破局」でも知り合った後輩の灯に服の上から大胸筋をさわらせてあげる場面で、
    「大胸筋を触らせてやると、灯は嬉しそうに笑い、それを見た私も嬉しかったか?」
    という疑問形の一文があり、これでもう、主人公が不気味になる。

    内面をもたない主人公の一人称の自分語りというなんとも不気味な小説。
    今回の芥川賞の本命と予想。

  • 『破局』

    おそらく慶應大学法学部の4年生である男性についての小説。
    公務員試験に臨む、母校の高校のラグビー部への指導、などの要素もあるが、主には女性関係について描いていると言っていいと思う。
    最初に読んでから少し時間が経ってしまった。
    最初に読了した時、ニヒリストであるということなら、もう少し徹底しても良いのかと思ったが、今思い返してみて、非常に上手く構成されていると感じた。
    小説の冒頭では、理性が主導し、その時点の彼女も理性的な人であった。その彼女は性交渉にそれほどこだわりがないように思えて、実は幼少期に異性から襲われそうになった経験があるということが別れた後にわかるが、語り手の男性からすれば、肉体的にはやや満足できない状態。
    次の交際相手は、ゾンビ映画を境に、自らの性的欲求の強さに自身困惑していることを告げる。すなわち次の交際相手は、理性に対する本能的、肉体的要請を表現しているのではないかと思う。
    この主人公もある意味異常者であり、思っていることを実際の言動にしてしまうと、常識的に失礼に当たるというのを常に考えて行動している。「公務員を志望する者なら、そういうことを思ったり、行動してはいけない」というような。
    最終場面で本人が「思った時に眠れる」ようになり、本能に忠実になったことで破局がもたらされた、という風に呼んでいいものか。
    良く構成されていて普遍的なテーマを扱っているし共感できる部分があるだけに恐ろしく、また興味深い内容だった。
    だが、ややインパクトには欠けるのだろうか。
    再読を行いたい。


  • 「破局」前作もやし他の小説もやけど、男女が簡単にできちゃう小説苦手なのよね。いや、もちろんかつてモテなかった今でもモテないおっさんの僻みやねんけど。先が気になって読み進めやすいって意味ではようできてるとは思うけど個人的なもやもやした反発は否定できず。
    「源氏」特集。これまた読んでるこちらに素養がない。「そうそう」とか「それは違くね」とかならない、残念。その中では翻訳十種ではナオコーラが一番好きとか(これも原文に対して忠実なのかとかはよくわからない)トリビュートでは山下紘加が縛りありなのになかなか読ませるよね、とか。
    「石の国の配下たち」薄気味悪いし、不快感あふれてるし、就職したけど上手くいかずのニートこどおじとか流行りど真ん中でちょっと恥ずかしかったりもするけど、それを差っ引いても何か読ませるものがある。
    「浅草迄」たけしの本ってこれまで食わず嫌いやってんけど、文章上手いよね。若者モノとしてオモロいし。そらウケるやろな。まとめて読んだら飽きそうやけど。
    「このパーティー気質がとうとい」前作も文藝で読んだっけ?登場人物が多くて説明が少ないんで、序盤集中しとかないと話を追い切れず誰が誰やらって感じになりそう。そこを何とか乗り切っても大したことは起きへんねんけどまぁ読ませてはくれる。筆力、なのかなぁ。
    「角田の実家へ」中原昌也、読んだことあったっけ?エッセイみたいなのは雑誌で読んだ気がするけど、小説はどうやったか。口数減らした町田康、スラップスティック薄めた木下古栗、いや3人ともそんなによんでるわけやないけど。
    「封じ込め可能という嘘の背後に」台湾ってどこかの国みたく年功序列や政権への貢献度とかで選ばれてない、純粋に仕事のできる内閣が的確な政策をドンピシャのタイミングで打ち続けて感染を抑え込んだ、みたいな報道しか見てなかったし、それはそれで間違いでは無いんやろうけど、そこに至るのに過去の経験があった、ってのは知らなんだ。そういやサーズだマーズだってあんまり覚えてないってことは対岸の火事やったんやろな…
    「剥がれたマスク」政府の迷走っぷり、庶民には手に入らず医療機関すら十分に入手できていないマスク、高価転売する政治家、庶民にはやたらに厳しい規制、軍の関与と対中国のマスク輸出以外は完全に一緒やん、どっかの国と。
    「1995」岸先生ってオイラと同じくらいかと思ってたら7つ上か。当時池田在住で本棚のガラスが割れたり住んでた文化住宅の階段にヒビが入ったりしたけどそんだけで済んで、身内にも被災者いなくて、にもかかわらずあの震災については喋ることあるってのはみんな同じやねんな。

  • 新コロの特集、源氏物語の特集に興味あり!!

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