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感想・レビュー・書評
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テーマは大きく二つあり、まずひとつは「『資本論』の偉大さがストレートに読者に伝わる入門書」を目指して、『資本論』を参照しつつ資本主義の成り立ちや定義、性質を解説するものであり、かつてのイギリスの囲い込み運動に代表される、人を土地から引きはがす過程を経て資本が労働力を得たときに資本主義が始まり、その本性があくまでも価値を量的に増大することそのものを目的としており、資本にとって人間はあくまで奉仕する道具でしかないこと、人間の生活向上は資本主義にとって副産物でしかないことが、繰り返しさまざまな例を交えながら説かれます。
もうひとつは書名にある、現状に抵抗するための「武器としての「資本論」」としての側面です。その前提として、資本主義の歴史が当初は徹底した労働者の搾取に始まり、その後の社会主義に対抗する流れやフォーディズムから労働者階級の富裕化と権利確立が相当程度達成された(「下から上」への階級闘争の成功)にも関わらず、その後の先進諸国の成長の行き詰まりを受けて新自由主義による労働者の既得権益のはく奪(非正規化、低賃金化、富裕層に有利な税制など)といった揺り戻し、退行が進み、資本による労働者の(魂をも含めた)「包摂」が深化する現実(「上から下」への階級闘争の成功)を示します。
そして人々が資本主義を深く内面化し、人間性を奪われつつも自身がその貧しさを意識することすら困難になりつつある現状の危機に再三警鐘を鳴らしたうえで、最終講において筆者は、新自由主義に立ち向かうため、私たちが「生活の全領域で」取るべき、とある姿勢を提案します。
また、「男はつらいよ」やロシア文学を引用したり、「仕事が楽にならないのはなぜか」「公立小学校の選択」など、卑近な例を多用することで読者の関心を惹きつつ、資本制の定義や歴史、現状への理解を促してくれることも本書の大きな特長です。
本書を読んでいる最中に私が何度も連想したのは、映画『マトリックス』です。
培養液に浸され身動きの取れない人々は労働者を表したもの、幻想のなかに生かされ極限まで搾取されている事実すら認識できなくなった彼らの姿は、資本主義を内面化した究極の姿、として見ることができます。そして彼らを管理するものが人間ですらないことも象徴的です。
各講タイトルから興味を持つ方もおられるかと思いますので、以下に記載します。
1.本書はどんな『資本論』入門なのか
2.資本主義社会とは?万物の「商品化」
3.後腐れのない共同体外の原理「無縁」――商品の起源
4.新自由主義が変えた人間の「魂・感性・センス」――「包摂」とは何か
5.失わされた「後ろめたさ」「誇り」「階級意識」――魂の「包摂」
6.人生がつまらないのはなぜか
7.すべては資本の増殖のために――「贈与価値」
8.イノベーションはなぜ人を幸せにしないのか――二種類の「剰余価値」
9.現代資本主義はどう変化してきたのか――ポスト・フォーディズムという悪夢
10.資本主義はどのようにして始まったのか――「本源的蓄積」
11.引きはがされる私たち――歴史上の「本源的蓄積」
12.「みんなで豊かに」はなれない時代 階級闘争の理論と現実
13.はじまったものは必ず終わる――マルクスの階級闘争の理論
14.「こんなものが食えるか!」と言えますか?――階級闘争のアリーナ詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
大学生の時に大枚をはたいて購入した「資本論」ですが、いまだに読み切れていません。多くの入門書も買ったけど、基本資本論の流れに従って解説する本が多いので、「商品」の項からなかなか先に進めません。そもそも今の苦境にどう答えてくれるのかがピンとこないんですよね。この本は資本論の議論の流れをあえて無視して現状の格差、貧困問題から「剰余価値」、「本源的蓄積」、「包摂」、「階級闘争」と言った概念を説明してくれています。資本論全体を理解するにはこれだけでは不十分なんでしょうが、新たな切り口の入門書として参考になりました。何度も挫折した立場から推薦します。
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オーソドックスな解説書とは言いかねると自ら認めているように、まさか美食の重要性が語られ、スーパーに生鮮食料品が少なくなったら大変という結論で終わるとは思わなかった。
平川克美のイベントでの講義がベースだったようだが、この人は『「消費」をやめる』で金を使わなくても豊かに生きられるっていう主張をしていたような。
日本は生産性が低すぎると言われているが、そもそも生産性の向上は、労働の価値の低下を意味している。
イノベーションによって生まれる剰余価値などたかが知れているんだから、人間の基礎価値=食文化を守ろうとなる。
下からの階級闘争によってしか、格差解消も、資本主義の内部矛盾による自壊を食い止めることもできないと議論していたら、コロナという大いなる悲しみとともに経済的平等が実現されつつあるという、なんとも皮肉な展開。
戦争や革命によってではなく、疾病によって世界経済は収縮し、所得格差も最も効率よく縮められつつある。心配していた高級食材も真っ先に行き場を失い、ファストフード以上に危機的状態に陥っている。 -
なぜ「武器として」なのか分からなかった。資本が増大する運命の資本制がしかれている世界をよくする方法はあるのだろうか。現代の置かれている状況はよくわかったが、Hopelessだと感じる。
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『武器としての「資本論」』おもしろすぎて一気読み。結局、読ませる文章は頑強なストーリーテリングによると再認識。資本論関係の本は何冊も読んできた気がするけど、この本は現代社会の機制を理解するためのエッセンスだけを抽出し、共感度の高い身近なエピソードで噛み砕いてくれるから難解な理論が腹落ちする。
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資本主義が何かがよくわかった。