女帝 小池百合子 (文春e-book) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 本書は、2020年7月5日の東京都知事選直前に時期を合わせるようにして出版された。しかしながら、なのか、それともそしてなのか、大方の予想通り、小池百合子はその都知事選で勝利した。カイロ大学時代のルームメイトであり、小池氏のことをよく知る早川さんへの直接取材を元にしたエジプト時代の話を含めて一定の説得力を持った本書の批判は、カイロ大学卒業の学歴詐称疑惑の再燃にもつながってそれなりに話題になった。しかしながら、もし彼女が都知事の座を保持して権力を持つことや、その後の国政への復帰を妨げようとする試みであったとすれば、そのためにこの本の出版は役に立ったとは言えないだろう。何となれば著者が本書で繰り返し書いた、はったりと肝の強さのエピソードがまたひとつ増えたということにすらなるかもしれない。

    本書で紹介されている、ワールドビジネスサテライトにキャスターとして出演するようになった小池を評したひとりのスタッフのコメントが印象的である。

    「テレビというのは、本来はこわい世界なんですよ。何十万、何百万という人たちに見られるんですから。そんなところに出る。普通の神経ではやれないことです。画面に出て自分の話し方ひとつ、表情ひとつで、世間を誘導できるわけで、とんでもない万能感を得られてしまう世界。大変な自信と高揚感を出演者は得る。すると、その快感から離れられなくなっていく。俳優は自分の表現方法として演技をするわけですから、見る側も、これは俳優が役を演じているのだとわかる。でも、キャスターは『自分』として出る。虚像と実像が溶け合ってしまう。視聴者も本人も。私はずいぶん、いろんなキャスターやアナウンサーを見てきたけれど、向き不向きははっきりしている。半端な心臓じゃ務まらないですよ。乗れる人と乗れない人がいる。小池さんは何の疑問もなく、乗れてしまう人なんだ。平気ではったりができる。虚業に疑問を抱かない。見識や知識がなくても、それを上回る器用さと度胸があった」

    カイロ大学卒業どころか主席卒業という明らかに盛りすぎな発言や、飛行機事故を偶然二度も回避したというエピソードをマスコミに語るなど、はったりをかますことの有効性の直観的理解と、マスコミに対する見くびり方は恐ろしい。前言撤回(撤回したことは認めない)や、嘘をつくこと、それら自体にためらいがない、また、誰かを傷つけることになってもおよそそのことを気に掛けることもない。政治家の資質としては、カイロ大学の学位認定の問題よりも、その性格的な傾向の方がより本質的な問題である。築地問題にせよ、都政改革にせよ、結果としてはうやむやにしてしまっている。彼女が紡ぎ出すその言葉の軽さに不安を思えるべきなのである。

    お嬢様学校に無理をして通った学生時代、政治家好きでほら吹き気味な父親の存在、政界の中でころころと付く人を変えてのし上がっていく様など、政治批判や小池批判の書という前に、読み物として大変面白かった。

    それにしても、小沢一郎が彼女のことを「ゲッペルスになれる」と人前でほめそやしたというエピソードは感性がどうにかなっているとしか思えないと感じたが、実はそれが決して的を外した評価ではなかったなんてことにならないことを祈ろう。

  • 評判どおり「巻を措く能わず」で、一気読み。
    暴露本のたぐいに思えるかもしれないが、読んでみればそんな安っぽいものではない。

    また、小池百合子の学歴詐称疑惑(「カイロ大学を主席で卒業」と謳ってきたのに、卒業すらしていないという疑惑)の検証が柱になってはいるが、それだけの本でもない。
    小池の幼少期から現在までを丸ごと鷲づかみにし、その核に肉薄した 、第一級の人物ノンフィクションである。

    著者は本書で「サイコパス」という言葉を一度も使っていない。むしろ、その言葉を注意深く避けているように思える。
    だが、本書を通読して私が受けた印象は、「この人、どう見てもサイコパスじゃん」というものだった。

    誤解されがちだが、サイコパスには平気で人を殺すような粗暴型ばかりがいるわけではない。社会的に成功した人物――大企業経営者や政治家などにもサイコパスは少なくないといわれる。

    その手のエリート・サイコパスは弁舌巧みで人を惹きつける魅力にも富むが、平気でウソをつき、平気で人を裏切る。そして、人並みの感情に左右されることなく冷徹に目的に向かって突き進むがゆえに、人心掌握術にも長け、時に大きな成功を得るのだ。

    小池がそのような人物であることを示す衝撃的エピソードが、本書には矢継ぎ早に登場する。

    一つ引いてみよう。
    以下は、阪神・淡路大震災の翌年(1996年)、彼女が生まれ育った芦屋の女性たちが被災者支援を訴えて議員会館を訪れたときの出来事だ。

    《窮状を必死に訴える彼女たちに対して、小池は指にマニキュアを塗りながら応じた。一度として顔を上げることがなかった。女性たちは、小池のこの態度に驚きながらも、何とか味方になってもらおうと言葉を重ねた。ところが、小池はすべての指にマニキュアを塗り終えると指先に息を吹きかけ、こう告げたという。
    「もうマニキュア、塗り終わったから帰ってくれます? 私、選挙区変わったし」
     女性たちは、あまりのことに驚き、大きなショックを受けた。
     テレビや選挙時に街頭で見る小池と、目の前にいる小池とのギャップ。小池の部屋を出た彼女たちは別の国会議員の部屋になだれ込むと、その場で号泣した》

    だが、本書を読み終えて小池百合子に強い嫌悪感を覚えるかといえば、意外にそうでもない。
    むしろ、事の良し悪しを超越して「スゲー女だな!」と驚嘆してしまった(総理とかになられては困るが)。

  • 著者の本は初めて読んだが丁寧に取材されており非常に良質な人物ノンフィクションだと思う。
    そういえばあの話どうなったんだろう?という疑問にも色々と答えてくれた。おすすめ。

  • 都知事選の直前のタイミングで発売された本書は、都民全員に読んでほしい本である。
    小池百合子の「芦屋令嬢」という出身の誤魔化しから、カイロ大学首席卒業の学歴詐称、ニュースキャスター時代、その後の政治家としての活動について、淡々とその欺瞞を記述していく。本当に嘘・デタラメばかりのやばいエピソードが恐ろしく、400頁超であるものの、読み始めたら止まらなくなる。ちょっと調べればわかりそうな嘘についてすら、マスコミは裏付けを取っていないことに驚く。そして、小池百合子を持て囃した男性たちがいた。
    希望の党の惨敗からしばらく大人しくしていたかと思えば、オリンピック延期が決まってから、連日のように小池百合子がテレビに出ている。コロナ対策のため、都民のためと言いながら、妙に活き活きしているように見える。
    自民党のある女性議員は、小池の仕事をこう評したそうだ。
    「実効性を無視し人が手をつけていないことをやりたい、というお気持ちが強い。自分が一番で自分が先駆者だと言えることをやろうとする。あるいは、人が先鞭をつけたことでも自分の手柄のようにしてしまう。いつも肝心なことではなくて、どうでもいいことに、熱心でいらっしゃるように見える」
    たぶんオリンピック中止になるけど、小池百合子の「物語」はまだ続くのか?見ものである。

  • これは渾身のノンフィクション。
    物語として読ませる力量もある。
    どこまで真実に迫っているかは分からないけれど、小池さんの笑顔でも笑ってないような目の訳は少し分かった気がする。認めたくはないが憎めないのも本音。
    この本を読んで小池さんを批判して投票しないのは簡単だが、それで済むほど簡単でもないのが民主政治。直接選挙で首長を選ぶ知事選は難しい。自分達に直接選んだ責任が降りかかるという意味で。

  • 前回の知事選の折小池百合子を「緑のタヌキ」と評した人がいたが、まさに人を化かすような胡散臭さをプンプンと漂わせながらもどこか愛嬌があり、何より機を見るに敏で大胆に行動するクソ度胸には組織に縛られた優等生的政治家にはない魅力を感じていた。当時自分も小池劇場に魅せられた一人だった。

    この本は丹念な取材に基づいて、いわばその化けの皮を剥いで小池百合子という人物のヴェールの裏側に光を当てた渾身のドキュメンタリーである。幼少期の生い立ちから現在に至るまでの彼女のまさに綱渡りのような人生の道程が俯瞰できるとともに、それぞれのステージで彼女に直接関わった人たちの証言によって様々な衝撃的なエピソードを知らされることになる。

    「え”ー」「うっそー」「どんだけー」。。空いた口が塞がらない、自分の中の常識の尺度が壊されてしまう、そんなエピソードの数々をジグゾーパズルのピースのように額縁にはめ込むと、小池百合子というタヌキならぬ一人の人間(?)としての実像が闇の中から浮かび上がる。

    人を利用価値のみで測り、その価値がなくなれば平気で裏切る。ときの有力者にすり寄る手練手管は天才的だが、信頼して頼ってくる弱者には極めて冷たい。自分にスポットライトを向けさせる演出力は抜群だが、そのためには平気で嘘をつく。要は野心と利己心の塊り。この手の人間が一時期我が国初の女性総理候補としてもてはやされたことに私自身期待を抱いてしまったことに暗澹たる気持ちになる。

    一方、彼女の半生を俯瞰で見たとき、地盤看板ももたない一人の女性が伏魔殿のような政界でここまでのし上がってきた手腕と風を読む鋭い嗅覚と電光石火の如く実行する度胸の良さを「スゲー女だ」と評価する向きがあることを否定するつもりもない。

    人の価値観は多様だから、この本を読んだとしても結局小池百合子に対する評価は分かれるかも知れない。現にお友達を重用する安倍晋三は彼女を遠ざけたが、一匹狼で世論の風を味方につけた小泉純一郎は彼女を重用して環境大臣のポストを与えた。小泉純一郎は彼女の首にリードをつけることができたのだろうか。

    今後自分は一有権者として政治家小池百合子をどう捉えたらいいのか。
    個人的な結論としては、将来如何なる政局の風が吹いてきても、この人に総理の座を与えてはならない。彼女は超危険な劇薬だ。劇薬もときに使いようだが、必ず危険物取扱主任者の管理下に置かなければならない。必要なときに必要な用量だけ慎重に使用されなければならない。

    自己顕示欲を嘘で塗り固めた人間は、その嘘を守り抜くために平気で何かを売り渡す危険が高い。その何かが国であったとしたら国民にとってその代償はあまりにも大きい。

    小池百合子という人間が女帝の如く大きな存在になり得たのは、彼女の秘密を知りながらこれを護り利用しているさらに大きな力が働いているのかも知れない。彼女を取り巻く闇の深さを感じる。

    何かと批判が憚れるような息苦しさを感じるこの国の空気の中で、長年の取材によりあえてこの本を出された著者と軍事政権下のエジプトで政治家のタブーに触れることのリスクを覚悟の上で学歴詐称について証言された早川玲子さんにおかれましては、素直にその勇気を讃えたいと思う。

  • 私は2016年の都知事選おいてピンとくる候補者がおらず、元防衛大臣としての経歴などを鑑みて小池百合子さんに一票を投じてしまった元都民。
    その後の豊洲移転の騒動を機に彼女の政治姿勢に疑問を持つに至り、評判の良いこちらの作品を読んでみた。
    著者石井妙子さんはこれまで原節子さんや銀座のマダムおそめさんの人生を記録してきた方ということで大いに期待していたが、期待通りだった。

    小池さんのこれまでの歩みに加え、私がまだ政治に関心を持っていなかった頃の政治背景なども描かれており、よく理解できた。
    「本人に直接話も聞かずに一方的だ」というレビューも読みましたが、著者はインタビューの申し込みをしていてそれを断られている。
    それに彼女の言葉はこれまで出版されている数々の書籍、新聞や週刊誌の記事、テレビなどでの取材記録等で拾い集めることは可能でしょう。
    彼女の周りの証言から小池百合子さんという人物を描き出すことでまた違った一面が浮かび上がってくる手法は、それはそれで面白いと思う。

    彼女がこれまで歩んできた道にはたくさんの屍が横たわっているように感じた。
    小泉元首相が郵政解散を行なった後の衆議院選。小池さんは兵庫六区から東京十区へ鞍替えをする。当時、東京十区は郵政造反組の一人であり、自民党員として当選を重ねてきた小林興起さんの地盤だった。そこに対立候補として小池さんは立ち、小林さんは悪役を押し付けられてしまう。
    彼はこのように話す。
    「政治家になることは、子供時代からの私の夢だった。だから必死に勉強したんだ。普通の家だったからね。世襲じゃなければ、官僚になるしかないと思った。だから東大から通産省に。政策通になろうと必死で勉強した。でも、平成になってから、政治家は見た目が重視されるようになった。テレビに出て顔を知られることが大事になった。」
    この言葉は胸に突き刺さった。一票を投じるということはいろんな意味で責任が伴うことだと思う。

    それでもこの本では彼女をただの悪女としては描かない。彼女へのある種の理解のようなものもほんの少しだが垣間見せる。
    今後の彼女がどう動くかは今の段階では分からないが、この本で得たこれまでの言動についての知識を基に、彼女の動向と有権者の判断を見守っていきたいと思う。

  • 怖かった、、、
    どこまでが真実なのだろうか、、、

  • 綿密な取材を元にした素晴らしい本。
    現東京都知事「小池百合子」の実情。

    しかし、すごい話・・読んでて恐ろしくなった。

    もちろん、彼女が生まれもったアザや、父親の振る舞いについては同情する。しかし、その結果として、平気で嘘をつき、人を裏切るようになった人間が、国政や都政など多くの人の生活に影響を与える役職に付いていることは、さすがに看過できない。

    小池氏は本当に多くの人を裏切っている。

    早川さん(仮名)、元総理の細川氏、小沢氏、小泉氏、安倍氏、前原氏、都民ファーストの会、国民民主党(元希望の党)の面々。本音で話せる友人が周りに一人もいないのがよくわかる。これだけ他人を裏切る人など、間違っても友達にしたくない。

    嘘に塗り固められた人生。ゾッとする。。

    さらに読んでて暗くなったのが、この人が政治家になったことは、日本の政治に対して明らかに悪い影響にしか与えていない、ということ。良い面が1つもない。もちろん、今の政治の酷さを小池氏だけに還元する気はないけど、環境大臣や防衛大臣時代、現在の都知事もそうだが、パフォーマンスのみで実問題を何も解決していない。政治家でいることが「手段」ではなく「目的」である典型の人。「〜を達成したいから政治家になる」という思想が何もない。

    そして、さらに暗くなるのが、この小池氏と現総理の安倍氏の類似性だ。
    共通点は「恥を知る精神がない」こと。
    結果として、平気で嘘を付く。責任も認めないし取らない。本当に共通している。しかも、その二人が国政のトップである「総理」と、東京都政のトップである「都知事」なんて・・。悪い冗談にしか思えない。

    小池氏は、このコロナ禍の対応でもパフォーマンスに終始した。オリンピック延期までは何もせず、会見では自分だけをアピールし、東京アラートなど実行性は何もないパフォーマンスにお金を使った。

    この問題には、本書でも語られている通り、マスコミも関係している。共犯者だ。散々この小池氏の嘘を宣伝してきた。そして、小池氏のパフォーマンス選挙に乗っかり、厳しい追求を何もしてこなかった。オリンピックは自分たちの利権でもあるので。マスコミに多少なりとも批判能力があれば、小池氏はここまで権力を握ることはなかっただろう。

    東京都知事選は7月5日に行われる。
    現予想では小池氏の圧勝・・と言われている。
    評論家などがしたり顔で語っている。

    本当にそれでいいのか?
    いい加減、顔立ちの良い人やパフォーマンスが上手い人ではなく、実務的な問題を淡々とこなす知事を選ぶべきじゃないのか?

    それがこのコロナ禍の学びじゃないのか?

    都知事選の結果が「小池氏の再選」だったら、さらに失望が深くなる。ただ、私は一度日本に絶望しているので、許容範囲内ではある。おそらく、東京都民はそういうバカな選択をするとも思っている。

    しかし、どんな立場が高い人だろうが、「浅ましいヤツは浅ましい」「バカはバカ」と見抜けるよう、知性や知恵を身につけていきたい。

    今回その1つのきっかけを与えてくれた、著者の石井さん(と早川さん)には感謝します。

  • それまでの小池氏に抱くイメージは、スタイリッシュでキャリアと実績をコツコツと積んでこられた華々しい成功者。
    けれども、この本の内容が真実ならば、イメージが一転してしまいますね。

    現在は、都知事として日々、尽力しているのだから遠い昔の学歴詐称なんて、別にいいのでは…との思いが、吹き飛んでしまうほどの小池氏の嘘で固められた半生。
    こんなに嘘を上手に思うままに使いこなす人っているんですね。
    嘘を実(まこと)に変えてしまう才能には天晴れです。

    • hei5さん
      本の内容は存じませんが、清水ミチコさんが「胡散臭い小池百合子」のモノマネ上手いです
      本の内容は存じませんが、清水ミチコさんが「胡散臭い小池百合子」のモノマネ上手いです
      2024/01/02
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著者プロフィール

太田・石井法律事務所。昭和61年4月弁護士登録(第一東京弁護士会)。平成30年経営法曹会議事務局長。専門分野は人事・労務管理の法律実務。

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