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感想・レビュー・書評
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2009年9月、吉祥寺に「夏葉社」というひとり出版社を立ち上げた島田潤一郎さんの話。
スローガンは「何度でも、読み返される本を」。
廃刊となった文芸書の復刊が主な仕事だ。
つくるのは昔からある四六判(しろくばん)で、文庫でも新書でもない。
従業員はひとり。編集も、営業も、事務も、発送作業も、経理も、全部ひとり。アルバイトもいない。その仕事を選んだわけは。。
穏やかでてらいのない文章は、自己卑下も尊大さもない等身大の言葉だ。
辛いときに寄り添ってくれるだろう言葉たちが、次々に胸の中に落ちてくる。
温かみのある語りに、読みながら何度も泣いてしまった。
迷いも悩みも苦しみも、何もかも身につまされるからだ。
27歳まで無職。その後会社勤めを経験したがどれも長続きしない。
31歳で転職活動をはじめたものの、50社連続で不採用。
そんな折、子どもの頃から兄弟のように親しかった従兄が急逝する。
あまりの喪失感に、自分も死にたくなったという。
社会にはもうぼくの居場所はないと、そう思ったからだと。
32歳になって気持ちに変化が生じる。
ぼくを必要としてくれるひとのために仕事をしたい。
それは、息子(従兄)を亡くした叔父夫婦のためでもあった。
辛いときはいつも、本を読んできたぼくはこう考える。
このふたりのために、一篇の詩を本にして捧げよう。
そうして立ち上げたのが夏葉社だった。
嘘をつかない、裏切らない。誰かに喜んでもらうために本をつくる。
ちょうど手紙のような本をつくる。
手紙と言えば、コネを一切持たなかった島田さんは、依頼したい相手に手紙を書くという。
夏葉社最初の本は「レンブラントの帽子」だが、この時和田誠さん宛に長い手紙を書いた。
ギャランティが分からないから、自分に払えるだけの目いっぱいの金額を記したという。
やがて面会が叶い、交流が始まっていく。気さくな人柄の和田さんが目に見えるようだ。
ここで「装丁物語」の中の文章が、何度も登場してくる。
「本は読めさえすればいい」とは思わないひとたち。高い美意識のひとたち。
後半は、そんな人たちとの出会いで埋まっていく。
本書の最後は「忘れられない人」という章で、81歳になられた和田誠さんと、個展で握手を交わして別れている。
和田さんが亡くなられたのは2019年の10月7日。
本のあとがきの日付は2019年の7月11日だ。
決して語られない部分に島田さんの胸の内を思い、また涙にかきくれた。
「ぼくは、自分が作った本がその定義に見合ったものだと信じているが、それでも数多くある本のなかから、彼らが『わざわざ』『売ってくれた』『買ってくれた』と感じる。それは、決してわすれられるものではない」
「大きな声は要らない。感じのいい、流通しやすい言葉も要らない。それよりも、個人的な声を聴きたい。だれも『いいね!』を押さないような小さな声を起点に、ぼくは自分の仕事をはじめたい」
ビジネスでもなく、自己実現などという幻を追いかけるでもなく、ましてお金のためでもなく、目の前の誰かに喜んでもらうために仕事をする。
その時、古くからある本をつくるという仕事は、新しい仕事になっていくのだ。
人生は、嘆いたり悲しんだりして過ごすにはあまりにも短い。よくやったと、そう思えるように生きたい。仕事で、生き方で悩む人に、この本はそんなメッセージをくれる。
島田さん、ずっと話したかったんだね。
私は一生懸命聞いて、あなたの言葉で考えました。
もし本が読みたいのであれば、夏葉社から買います。
自分のための一冊が、きっとあると思うから。
そして私も、もう少し頑張ります。ありがとう。 -
島田潤一郎さんが1人で出版社を始めるまでの話と始めてからの仕事との向き合い方を綴っている。
最初はサクセスストーリーなんやろうなぁ…と期待せず読み始めたら初っ端から泣けるし頷けるし、この人の考え方に惹かれた。
子供を亡くした叔父と叔母に一遍の詩を送りたいという思いで会社を始めた経緯に泣き
会社を始めるまでのこの人の人生に共感すると同時に
「私でも生きててええんや…」と思わせてくれた。
早すぎて便利重視の世の中の裏側にも、そう思ってたんは私だけ違うんや…と安堵した。
何より今までの本との向き合い方がガラッと変わり、とにかくたくさんの本を読まな!って今まで焦ってたのが恥ずかしくなり、これからは人との出会いくらい大切に本と出会いたいと思えた。
人生どん底で、生きてる意味が今ひとつわからず彷徨ってた人が居たならぜひ読んでほしい1冊です。
島田潤一郎さんも書かれてましたが、本を読んだとてすぐに人生の役に立つものでもない。
でも読書という行為には価値がある!
個人的に私はこの本を読んですごく良かったし、すぐに劇的に変われなくても目の前の事を丁寧にこなして自分と向き合おうと思えました。
本当に素晴らしい本と出会えた事に感謝です。 -
一人出版社の意地と気概と苦労とほこりを感じる本だ。この出版社の本を買おう
気づけば夏葉社さんの本は、心にも手元にもずっと残っています。
気づけば夏葉社さんの本は、心にも手元にもずっと残っています。
この本のレビューにコメントをいただいて、とても嬉しいです!
そうですね、かの「昔日の客」ですものね。
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この本のレビューにコメントをいただいて、とても嬉しいです!
そうですね、かの「昔日の客」ですものね。
誰もが憧れるような本をつくりたいというのが、島田さんの願いだそうです。
夏葉社さんの本を置いてある本屋さんは、きっと本好きさんなのでしょう。
今日、もう一度読んでいます。
やっぱり泣いてしまいます。
猛暑の毎日、どうぞご自愛ください。