銀花の蔵 [Kindle]

著者 :
  • 新潮社
4.00
  • (7)
  • (16)
  • (5)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 62
感想 : 18
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (341ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「笑ったかと思うとしゅんとして、またぱっと笑う。辛いことがあっても落ち込んでも、またちゃんと笑う。だから、その顔がすごくかわいいんや」
    父の言葉が追いつめられた銀花を救う。
    父から向けられた言葉が嬉しかったから、いつでも笑っていたい。
    誤解を受けて嘘つき呼ばわりされたり、誰からも信じてもらえなくても、心で泣いて顔では笑う。
    そんな銀花の健気さが伝統ある老舗の醤油蔵を救うことにも繋がっていく。

    泣きたくても上手く泣けず、言いたいことも我慢してそっと飲み込む銀花に読んでいて息苦しくなった。
    どんなに辛い出来事も誤魔化さずにちゃんと受け止め、土鈴のようにころころと転がった先で知恵を絞って懸命にやり遂げる。
    そんな銀花だから、座敷童の神様もきっと微笑む。
    たとえ血は繋がらなくとも、志を一つにすれば立派な「家族」だ。
    銀花のひたむきさと笑顔に救われた。

  • 6月-15。4.0点。
    醤油蔵の一家。主人公の父親は後を継がずに絵描きに。
    祖父が亡くなり、急遽蔵を継ぐことに。

    面白い、一気読みした。主人公の成長物語だが、この作家らしく、人物描写が上手い。母親の頼りなさ、一歳違いの叔母の激しさが的確に描写されている。

    直木賞候補。初の候補だから難しいかもしれないが、とってもおかしくない気がした。

  • 読み始めたら、やめられないお話でした。
    暖かくて、辛いこともそのうち良い方に転がるんじゃないか、という希望がうまれる。
    あ、違う。
    良い音を鳴らしながら土鈴のように転がりながら、食を楽しみながらならば、よい結果が来る。

    読後に胸にポッポと灯りが灯り、勇気が湧きます。

  • 銀花の蔵

    著者:遠田潤子
    発行:2020年4月25日
    新潮社

    直木賞候補作となった話題作、めっちゃ図書館予約で待たされ、やっと読めた。奈良県橿原(かしはら)市の醤油蔵を舞台にした小説。奈良県内の醤油蔵に取材に行ったそうだけど、初稿のままだとどこの醤油蔵かバレバレなので手を入れたと新聞記事で読んだ記憶がある。殺人とか出てくる話なので、分からないようにしたらしい。

    何年か前、橿原市の今井町にある恒岡醤油というところに取材に行ったことがある。今井町は重要伝統的建造物保存地区で、恒岡醤油も昔ながらの建物が保存されたすばらしい醤油蔵だった。この小説はずっとそこが頭に浮かびながら読んでしまった。

    前半は、かなり面白い。抜群だった。浮世離れしていて、絵を描いて生きることを目指しているお父さん、軽い知的障害か心の病があることを臭わせるお母さん、そして幼い銀花(主人公)。優しいお父さん、お土産を選ぶ天才だと思うお父さん。料理が上手で作り出すと食べる人のことしか考えないお母さん、でも、なぜか万引きをしてしまうお母さん(お金は持っているのに知らない間に手が動いてしまう)。娘は幼いながらも苦労をする。お母さんの万引きをかばうために自分が手癖が悪いと誤解されたことも。父親のことは大好き、でも、母親にはちょっと恨みを持っている。

    そんな3人が、橿原市の醤油蔵に移ることに。父親の実家で、祖父が死んだために蔵を継がなければならない。しかし、絵描きになりたいばかりの父親は、醤油造りに身が入らない。蔵を続けることしか頭にない祖母(父親の母親)は、嫁のことを認めていない。年の離れた父親の妹は、銀花のわずか1歳違いで、やはり銀花や銀花の母親のことを受け入れていない。母親は相変わらずマイペースで姑をいらだたせるし、万引きもしてしまう。それを誰にも言わず一人で解決しようとする幼い銀花・・・

    著者は1966年生まれだが、この主人公は1958年度生まれの設定。なんと僕と同じ。万博前の1968年から50代までの人生を描いている。一代記かと思いきや、前半はとてもいいが、後半になると急に連ドラっぽい展開になってくる。誰それは不倫相手の子だの、なんだのって、少しずつ秘密がばらされたりして、なんだか安っぽいエンターテイメント小説に。最後はミステリーともいえるような展開。それでもテーマは家族で、家族小説となっている。

    前半は純文学としてもこのまま展開できそうな話だったけど、後半は、うーーーん、という感じだった。

    ***(以下、ネタ割れ注意。個人的メモ)****

    ・銀花は父親と血がつながっていなかった。調べると、母親は戦災で焼け出された少女で行く当てもなく大阪の松島新地にたどり着いた。銀花はその客の子と思われるが、追い出されたのか、裸足で赤ちゃんを抱えてうろうろしているところを父親に見つけられて、可哀想だからと結婚することに

    ・銀花は当主だけが見るという座敷童を目撃するが、実は大原杜氏の末っ子の剛が父親の指示で座敷童のふりをして蔵に忍び込んだのだった。理由は、銀花の父親が蔵の仕事に身を入れるように座敷童を見せるため、大原杜氏が仕込んだもの。ミスして銀花に見せてしまった。

    ・父親は大原杜氏と飲みに出かけ、行方不明に。2日後に川で発見。2人とも死んでいた。

    ・杜氏の末っ子の剛は、銀花の母親をかばおうとして暴走族メンバーとケンカになり、過失で殺してしまい、少年院へ

    ・やがて銀花の母親も病気で急逝

    ・蔵は祖母と2人で切り盛り

    ・少年院を出てきた剛を探し出した銀花。少年院にいる間にしんだ彼の母親からの伝言を言う。そして、2人は結婚

    ・父親の妹の桜子は、家を出たきりだったが、やがて幼い双子を連れて戻り、子守を銀花夫妻に押しつけてまた出て行った。二人はなつき、「お父さん、お母さん」と呼ぶようになった

    ・桜子は、母親が若い頃に恋仲だった相手と不倫してできた子だった

    ・姑も銀花はもちろん、認めていなかった少年院帰りの剛の存在を認めた。そして弱った体で、自分の母親が以前、夫が外で作った男の子を跡取りにしようと家に連れてきたが、その子が柿の木から落ちて死にそうな様子を見て首を絞めて殺してしまった

    ・その骨が、改装工事で蔵の床下から出てきた

  • 橿原市にある小さな醤油蔵の当主になる銀花の半生を描いた作品。昭和の臭いがプンプンする、家族とは何かを考えさせてくれる作品。血の繋がりだけが家族ではない。人を殺し少年院送りになった男と結婚し、蔵を継ぐ覚悟をした銀花だが、当主だけが見ることができる座敷童のいる蔵には、隠された忌まわしい歴史があった。

  • 奈良県橿原市で200年以上続く老舗の醤油蔵。その老朽化に伴う蔵の改築の最中、蔵の床下から古い木箱に入った子供の遺骨が発見された。「やっと会えた。こんなところにいたんやね・・・」《雀醤油》の当主・銀花の胸に去来する山尾家の家族にまつわる哀しく辛い過去。座敷童が出るという言い伝えを持つ蔵を舞台に、1968年から現在まで50年に亘る一族の物語が始まる・・・・・・。

    地方の名家、古い蔵、座敷童の言い伝え、家のための縁組、外腹の子、不倫、人殺し、盗癖・・・・・・まさに遠田小説ここにありの設定にワクワク。
    大阪万博に沸く地元、仲雅美の「ポーリュシュカ・ポーレ」、石油ショックのトイレットペーパー買い溜め騒動、内藤やす子の「弟よ」、小椋佳の「シクラメンのかほり」などその時々の風物詩も盛り込み、昭和から平成の終わりまでを描く”大河小説”の様相を呈するも、その割には300頁余りとボリューム感はなく、物語の展開もさらさらと流れるようで、期待したドロドロと重苦しい愛憎劇は鳴りを潜める。
    それでも、次の展開を期待して寝る間も惜しんで読んだ作品は久しぶり。さすがのストーリーテラーです。

    家族のそれぞれが過去の秘密を抱え、大人の事情のしわ寄せが全て子供である主人公の銀花に向けられる展開は歯がゆくてならない。それでも、”ふくら雀”の土鈴のように転がった先で前向きに生きていくという、銀花の生きざまには強さを感じるし、最後には家業をたて直し、愛情に恵まれた人生を手にする銀花の姿には感動し、鼻の奥がツンとした。

    「ドライブインまほろば」「廃墟の白墨」と同じく、”悲惨な境遇を織り込みながらも、常に薄日が差すような展開”にシフトしていくのかな~。その方が多くの読者に受け入れられやすいのかもしれないけど、やっぱり初期の頃のような重くてドロドロで救いのない展開を望んでしまうのよね~

  • 名作だった!
    銀花の壮絶な人生に驚きを覚えた。

    文中では各人が過去を振り返り後悔するシーンが多々あったが、読んでいて引きずり込まれ苦しくなった。
    銀花の後悔、剛の後悔、多鶴子の後悔、そして桜子の後悔…

    最後は銀花と剛が幸せになって本当に良かった!

  • 男女関係なく、その仕事をやりたいという人間に任せてくれれば厄介事も減りそうな気がする。血縁にそれほどこだわらなければならないのだろうか?

  • 直木賞候補作、5世代50年に渡る家族の物語を存分に楽しむ。

    実家の醤油蔵に帰ってくるが、そこの父の母多鶴子は厳しいし、その娘は美人だが気が強い。母親は盗癖があるし、自分は母の連れ子だし、父は醤油づくりに興味がない。盗癖は自分のせいと思われ友達もいない。と悪い材料ありすぎの展開。さらに父親は自殺(実は事故死)、杜氏も巻き込んで死んで、その関係もあって、杜氏の息子が過失殺人をしてしまう。なんとも暗い話。

    それでも、女流作家の家庭小説の王道で読んでいて心地よい。小さい子どもの時期からスタートして老齢になるまでの大河小説になっていて読み応えも十分だ。



    『父の手は大きくて温かくて涙が出るほど気持ちよかった。こんなに素敵な手は世の中に一つしかない。父の子供でよかった。本当によかった、と思う。』

  • 遠田さんの4冊目は163回直木賞候補作。座敷童が出るという古くから続く醤油蔵で暮らす山尾銀花の人生。事故か自殺か不明のまま亡くなった父、窃盗癖を押さえられない母、銀花のため殺人を犯した剛、醤油蔵を一人で護り厳格に生きる祖母、いろいろな事情があろうとも家族になることができる。 へらへらと笑う銀花は強いな。。。最後の家族全員で楽しむシーンが印象深い。とてもとても良い作品で、気持ちの良い時間でした。お勧めします。

全18件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

遠田潤子
1966年大阪府生まれ。2009年「月桃夜」で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。16年『雪の鉄樹』が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベスト10」第1位、2017年『オブリヴィオン』が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」第1位、『冬雷』が第1回未来屋小説大賞を受賞。著書に『銀花の蔵』『人でなしの櫻』など。

「2022年 『イオカステの揺籃』 で使われていた紹介文から引用しています。」

遠田潤子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×