感想・レビュー・書評

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  • 【本書の概要】

    ①心理学的研究から見た「バカ」
    「バカ」とは、心理学研究によって証明されたさまざまな「傾向」や「バイアス」が極端に誇張された人物を言う。なんのつながりのない物事に関係性や意味を見出そうとしたり、陰謀論をやたら唱えたりする人間がこれに当てはまる。
    私達が時折非合理的(=馬鹿)な行動をとるのは、周りをコントロールしたいという欲求のためである。自分では影響を及ぼすことができない事象に対し、知ったかぶったり無知なコメントをつけたりすることで、「自分がその物事を左右している気分」を味わえるからだ。
    そうした人間は、現代社会や政治に対してシニカルになりがちである。馬鹿にとって、真面目な人間はみんな臆病者であり、自分だけが勇気をもって不正を見抜くことができると考えている。

    能力が低い人ほど自分を過大評価し、他人に平気でその価値観を押し付ける傾向にある。これは国民性によって傾向が変わると言われている。アジアの国(喜ばしいことに特に日本)の人間は、自分の能力を過小評価する傾向にあり、これは欧米人とは真逆の結果であると言われているため、概して欧米人のほうがバカが多いとみなされている。


    ②単純な奴がバカというわけではない
    バカを研究するうえで難しいのは定義がさまざまなことである。
    ここでは、思慮不足、経験不足、判断ミスのことは単なる「粗相」と呼び、それによってもたらされる結果がどういうことか分かっていながらやってしまうのを「バカ」と定義する。

    バカ的行動を引き起こすのは、「現在の状況をもとに目標までのステップをきめる合理的知性」の欠如や、「認知バイアス」である。
    認知バイアスの中でも、「基準率」より「人物描写(ステレオタイプとの類似性=代表性)を優先する認知バイアスを、「代表性ヒューリスティック」という。客観的なデータよりも、主観的なイメージを優先的に用いて判断を下す行動のことだ。
    また、情報の中から取り出しやすい情報を優先的に使って判断する傾向を、「利用可能性ヒューリスティック」という。

    注意すべきことは、認知バイアスによる行動=バカ的行動ではないということだ。認知バイアスはスピーディに物事を判断するためのショートカット機能であり、それは猛獣や災害などの危険に直面した際、咄嗟の判断を行うためのスイッチとして古代から機能してきた。決して知性の欠如を意味しない。

    バカとはそれほど単純なものではなく、知能が高い人でもバカな行動をする衝動は避けられない。むしろ、変に頭がよいせいで、自分を高く評価し他の人を見下す「うぬぼれバカ」になりやすいのだ。

    そう考えると、「バカ」は知性の高低の問題ではなく、社会生活でどういうふるまいをするかの問題だ。

    無知は決して馬鹿ではない。しかし、バカにならないためには、「自分が無知である」ということに気付かなければならない。自分の頭にあるバイアスや傾向に気付き、そこから抜け出すことを意識しなければバカになり下がるだろう。


    ③バカの発する言葉
    バカの言葉は、いずれも話し手の考えや事実を正しく伝えることができない。単語や表現がまっとうな使われ方をされず、ある意味で常軌を逸しているからだ。
    通常ふたりの話し手が単語を使うときには、その単語が指示対象と適合しているか、定義に矛盾がないかを確認しあいながら、このケースで使ってもよい言葉かどうかを確認することが必要である。そう考えると、言葉を使うとは、論理を説明することと同時に対話をすることでもある。これができない「バカ」は、単語の意味をいっさい排除し、いかなる話し合いにも応じなくなる。
    失言した政治家を思い浮かべてみると分かりやすいだろう。「私の○○という言葉が××という印象を与えたならば、お詫び申し上げます」。これは失言に対する謝罪の常套句であるが、その言葉には「聞き手のお前らが正確に意味を読み取らなかったのが悪いんだぞ」という含みを持たせている。単語の定義に矛盾がなく、正しい意味で使えているかを考えないバカは、しょっちゅうこの言葉で謝罪を行っている。

    バカの言葉は「嘘」ではない。「誇張されすぎた言葉」であり、真実かどうかはいっさい顧みない言葉である。バカの特徴は「基本的に真実に対して無関心であること」なのだ。しかしながら、発言者は「自分は真実を伝えている」と思い込んでいる。真の意味よりも「意義」を過度に優先していると言えるかもしれない。


    ④感情的な人間はバカなのか?
    正しい選択をするためには、理性と感情の間で交渉をする必要がある。人間の行動は、表向きは理性で、実際には感情にいくらか左右されていると言ってよい。だからこそ、「全て理性に基づいて解決しなくては」と主張する人たちこそが一番のバカである。(やたらデータに基づいた話し方をする人間など)


    ⑤バカの(一面的な)定義
    ザゾの調査によると、バカの定義は「自己中心的な態度で、自分自身について大きな勘違いをしている人物」、いうなれば「ナルシスト」である。

    本物のバカ(ナルシスト)は主にふたつのタイプに分けられる。
    ひとつめは「うぬぼれバカ」。常に自我が大きく膨れ上がった状態のバカで、こちらがゴマをすって機嫌を損ねさえしなければ、この手のタイプの多くは無害だ。
    ふたつめは「卑劣なバカ」。他人を苦しめ、自らに服従させることを好む。かなり害悪であり、こうした奴に対処するためには「近づかない」「逃げる」ことが重要である。バカはゾンビのように感染し、あなた自身もバカになってしまうからだ。。


    ⑥SNSとバカ
    SNSの特徴は(1)生活のスペクタクル化(他人に自分の生活を見せること)(2)何でも裁きたがること(3)有名になりたいという欲求 である。

    (1)他人のスペクタクルがバカバカしく見えるほど、傍観者は大きな喜びを感じる。自らの嫌悪感や悪意を表明することに快感を覚える。
    (2)「知性に欠けるバカ」とは、人間の生活のうわべだけを見て、「イメージによって媒介される社会的な人間関係」をコミュニケーションの基本とし、有無を言わさず他人をバッサリと裁く者たちである。
    (3)SNS上で頻繁に自己アピールをする者は、自己愛性パーソナリティ障害の特徴のひとつである「露出癖」のレベルが高いことが分かった。また、別の特徴である「自らの権利を過剰に要求する」ことと「他人を操作する」ことのレベルが高い者は、SNS上で反社会的行動をとりやすいことも判明した。


    ⑦ウンコな議論
    ウンコな議論が起こるのは、誠実そう「に見える」話し手と、寛容すぎる聞き手の相互作用によってもたらされる。誠実そうな話し手は、明確な目的を持たないままに発言したり行動したりし、自分の言葉しか語らない「知的なバカ」である。対して寛容すぎる聞き手は、知的なバカの話にしっかりと耳を傾ける人間だ。

    知的なバカは、「心を込めて熱弁」したり「誠実そうなふるまい」をする。それは現代社会が、たとえ事実を論理的に詳しく説明できたとしても、魅力的な話し方をしない人間を信用しないようになったからだ。だから「見た目はしっかり者」なのである。
    そして、バカが自分の認識論を「真摯さ」「誠実さ」によって確立しようとするのは、単なる悪意からだけではなく、自分のバカさ加減(能力の低さ)を隠すことができるからである。


    【感想】
    行動経済学や認知心理学に携わる一流研究者が、大真面目に「バカとは何か」を語る。
    この試みからしてなかなかバカげている(いい意味で)が、逆に言えば、そこまで本腰を入れて議論する必要があるほど、バカの影響が大きくなってきたということだろう。
    本書は様々な研究者の論をまとめた寄稿文形式になっているため、著者によって「バカ」の定義がまちまちである。そんな中で多くの著者が主張していたのが、「バカとは真実に対して無関心であること」「バカは断定したがる」「バカは自分が無知であることに無知」ということであった。何とも、的を射た定義だろうか。

    昨今のバカが使う武器はヘイトスピーチやフェイクニュースだと思う。昔はバカが生き生き活動できるフィールドがネット掲示板ぐらいだったため、誹謗中傷や荒らしなどが主な武器であったが、SNSという誰でも発信者になれるメディアの台頭により、バカ的行動がより能動的で拡散するものに変わったような気がする。
    こうした「バカの発言」が誰の目にも止まるようになった結果、炎上やバッシングが増え、バカが雪だるま式に大きくなっていくのだ。

    私は、バカが台風のごとく勢力を増し始めたのは、聞き手にいくらか原因があると考えている。
    ネットでの失言は、たいていが認知バイアスや不注意などの軽はずみが原因である。それをあたかも犯罪者と同様の重さで裁くことが、果たして正しい行いだと言えるのだろうか。彼らの不注意から出た失言に対して、「バカだったなあ」で流そうとせず、正面切って断罪することはいささか行き過ぎではないだろうか。
    本書には「粗相とバカは違う」と論じる者がいる。粗相は悪意ではなく善意で、虚偽ではなく過失である。この違いをあまねく理解しながら発言者を叩く人間こそが、真の「大バカ野郎」であるような気がしてならない。

  • こんなにバカ、バカ出てくる本は読んだ事がない…

  • れっきとした学術書、だけど読み物。いろんな分野の大家が、バカとは何か?を語っている。

    トランプ、よく出てくる。

  • バカという概念に対して、超天才たちが論じる本。

  • 「バカ」について体系的に研究された本。各界の著名人にサブタイトルだけを伝えて自由に書いてもらったとか。いわゆる「頭が悪い」という意味だけでのバカではなく、ここで言うバカとは知能が高く、社会的な地位の高い人ですら時折(あるいは某大国の元大統領のようにしょっちゅう)見せる非合理的で愚かな行動も指す、というかそちらの方に重きを置いている。

    複雑な議論が多くてよくわからん部分が半分ぐらい。どこまでが身になったかはわからん。気になった部分だけ箇条書き。

    ・2種類の思考方法。スピードを求める思考法で8割方は問題ないが、残り2割で非合理な結論を出す。

    ・自分の考えを「反証する情報」をなおざりにして「確証する情報」を優先する傾向が強い

    ・わたしたちは「この世界は公正だ」という信念を抱きがち(公正世界信念)

    ・ダニングクルーガー効果(習熟度が浅い人ほど、自分の脳力を高いと評価する)

  • この本は『「バカ」の研究』と名が付くにもかかわらず、「バカ」の定義が無いのです。
    対象がわからないものを研究できるはずもない。
    仮でも良いから定義しないことには始まらない。
    https://seisenudoku.seesaa.net/article/477595215.html

  • バカという言葉がゲシュタルト崩壊しそうなほど出てくる。多角的にバカという現象を考察するが、論者の主張はバラバラで取捨選択が要求される感じ。

  • 「研究」じゃなくて、雑文集。
    沢山の人のインタビューや雑文集。玉石混交。
    掘り下げて語るほどの時間はかけていないので、鋭い警句もあるけど、頭に残らない。

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