心は孤独な狩人 [Kindle]

  • 新潮社
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感想・レビュー・書評

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  • 1938年から1939年にかけて、アメリカ南部にある小さな町を舞台にした物語。

    相棒を精神病院に送られ、町にひとりで暮らすことになった聾唖者のシンガーを中心に、彼に心を引かれる人びととの一年余りを描く。約380頁の上下二段組。訳者である村上春樹にとっての、とっておきの古典的名作の新訳であることが帯の謳い文句となっており、巻末には氏の訳者あとがきが記されている。

    主要な登場人物はシンガーに加えて、カフェ店主のビフ、十三歳の少女ミック、流れもののジェイク、黒人のコープランド医師。人々の話をただ穏やかに聞くシンガーを拠りどころに、彼を慕って他人に理解されがたい想いを抱く四人が集まる。各節ごとに、五人のなかで主人公が入れ替わりつつ時が移ろう。全三部で構成され、第一部が導入、第三部がエピローグにあたる。

    心温まる展開も期待できそうな筋だが、親友と離れて暮らすシンガーも含め、五人の心が満たされることはない。ときには残酷な事件も起こるが、一般的な感動ドラマのように、それをきっかけとして心の交流や癒しが訪れるでもない。虚心に彼らの心のうちを聞き取るシンガーを介することで、彼らの避けがたい孤独がかえって際立つようにさえ見えた。読後に気持ちが晴れるような小説ではなく、かといって激しい驚きを与えるでもない。ささやかだが収まりの悪い何かが心に居残るような作品だった。

  • まず、村上さんが後書きで「やりたい作品を(本作で)翻訳し終わった」と書いているのに、村上翻訳を愛読してきたファンとして「とうとうその日が来たのか」と悲しく思った。ギャツビー、キャッチャー、ロング・グッドバイ、フラニーとズーイー、ティファニー。愛読し、いつかチャレンジしようと思っていた思い入れのある作品を翻訳し、最後がマッカラーズだったという。この先も、旅先でひょっと手に取った作品が面白かったから(ソールスター)というような翻訳でもあってほしいけれど。
    そして内容は、これも後書きに書き尽くされている気もするが、傑作。誰もが孤独で、愛や触れ合いを求めつつもすれ違い、仇な夢は裏切られざるを得ない、世の中の残酷さ。この悲しみと美しさは時代を越えて共感を呼ぶ。印象的なエピソードの一つ、欠損を抱えた人々がシンガーさんを拠り所として必死に心情を吐露する、なぜならシンガーさんが唖で黙って受け入れてくれるように見えるから。ただ受け止めるだけのシンガーさんはアントナープロスとの「対話」と友情を一心に信じているが、それも儚く潰える。マッカラーズが自分を投影したかもしれない主人公のミックは少女らしい希望を失いながら大人になる。まったく、このような処女作を書いたマッカラーズの才能が計り知れない。

  • 30年代の米南部の小さな町を舞台に、それぞれの異常性を抱えた5人の主要登場人物たちの苦悩と希望を綴った傑作小説。

    見事に描かれた年齢も人種も性別も置かれた立場も異なる5人のなかでも、他の4人が慕う聾唖者の造形が出色。一体どこに惹かれているのか理解不能な友人への、彼のひたすらな愛の健気さと怖さ。長編小説にもかかわらず余計な背景や説明が省かれているために、その謎がより心に残る。

    その他の脇を固める登場人物たちの描出もそれぞれに素晴らしい。

    人種差別が当たり前のように存在した当時の米南部の過酷と理不尽を描く筆致も鋭く、年齢は関係ないにしても、この作品を23歳で書いたなんて、マッカラーズはやはり天才としか言いようがない。

    日本では絶版だった本作の新訳を出してくれた村上春樹氏に感謝。氏の文章には珍しく、気取ったところのない翻訳でわかりやすい。

  • これを23歳で書いたのは凄い。
    天才だな。

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著者プロフィール

カーソン・マッカラーズ[Carson McCullers 1917―67]:アメリカの女性作家。ジョージア州に生まれる。初めピアニストを志してニューヨークへ出るが、その直後に授業料を紛失し音楽家を断念、コロンビア、ニューヨーク両大学の創作クラスで学ぶ。主な創作活動期は1940年代で、最初の長編『心は孤独な猟人』(1940)は、村上春樹の手により新訳が刊行され話題となった(2020年8月)。

「2023年 『マッカラーズ短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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