「第二の不可能」を追え!――理論物理学者、ありえない物質を求めてカムチャツカへ [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 理論物理学者が原子の国に行くならともかく、カムチャッカに何をしに行ったのか。副題に惹かれて読んだ。最初のうちは準結晶を見つけるまでの話。ありえないとされていた、5回対称性を持つ構造を探す話。二次元の話はなんとなくわかるのだけれど、立体になるとなかなかイメージできない。次に準結晶が天然に存在するかという話になる。数えきれないほどの鉱物資料にあたり、ようやく発見したら、今度はそれがどこで採取されたかという謎があり、次々に出てくる問題を解決した結果がカムチャッカというわけで、実際にはカムチャッカから実験室に戻ってからも、さらに謎は続くのだ。理論的なところは、それなりにすっとばしても、著者の問題に取り組む姿勢や、登場する人たちの魅力で、とても楽しく読んだ。(登場する人たちについて、とても魅力的に書いているのは、著者がきちんと敬意をもって接しているからだと思う。)理論物理学って、思っていたよりもアクティブな学問だった。

  •  準結晶(Quasicrystal)の発見をめぐる理論物理学者の大冒険、とでも呼ぶべき物語。金属の結晶構造の話は私の専門でもあるので非常に興味深いテーマだが、この分野でこんなに血湧き肉躍る展開があるとは予想外だった。まるでフィクションのようなドラマが次々に起こる。

     著者らが準結晶の理論的可能性を提唱したのがちょうど私が大学生だった時期で、なんとなく名前だけは聞いた気がするが詳細は全く知らなかった。私が大学で習った通説は本書に登場する多くの専門家の主張と同様、五回対称の結晶構造はありえないとするものだ。それが常識だったし、現在でも「ほぼ常識」であることは変わりないはずだ。

     だが著者らはこの「ありえない」は第二の不可能、つまり「絶対的な不可能ではなく、前提条件が変われば不可能ではなくなるタイプの不可能」だと考えて諦めずに探求を続ける。理論物理学者らしく最初は数学的に「ありえる」ことを証明する。次に実験室で実際にそれが作り出せることを示す。最後には自然界からそれを見つけ出すのだ。どのステップも、ありえないと言われながらそれを打ち破っていく。

     正直、五回対称の準結晶がありえるとする数学的裏付けの部分はあまり理解できない。ペンローズ・タイルの図を見ればキレイだなと思うけれど、実際の原子をそのように配列させる力はどのように生じるのか。一般的に物質は最もエネルギーが低い(=安定した)状態を取ろうとするが、結晶より準結晶の方が安定する状況があるのだろうか。

     サンプルの分析も驚異的だ。私も電顕などによる分析経験があるが、こんなに小さくて代替の無いサンプルを取り扱うのは想像しただけで胃が痛くなる。膨大な数の微小なサンプルから目的の物質を探したせたのは、鬼気迫る執念の成果と言って良いだろう。

     本書では実用材料の開発への期待を示した所で終わるが、もしそういうものが開発されたらぜひ詳しく学んでみたい。材料屋のはしくれとして心が躍る。

  • 準結晶のお話。前半は準結晶なるものを理論的に予測した際のエピソード、中盤は自然界に存在する準結晶を見つけるアドベンチャー譚、後半は採集してきた鉱石から判明する新発見のお話です。著者は宇宙論でも有名な理論物理学者です。欧米には専門が複数に渡る学者がときどきいますね。その才能が羨ましいです(笑)。著者の研究に対する真摯な態度が伝わってくる内容です。反対意見にも耳を傾ける。あえて反対者をチームに引き入れるとかね。

  • 結晶構造

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著者プロフィール

1952年生まれ。現在はプリンストン大学アルベルト・アインシュタイン記念教授として物理学部門と天体物理学部門の両方に所属。おもな専門は宇宙論、物性論。プリンストン理論科学センターの創設者であり、そのディレクターも長年務めた(2007-2019)。1980年代に宇宙のインフレーション理論を最初期に開拓したことで著名であり、その功績により、アラン・グース、アンドレイ・リンデとともに2002年のICTPディラック賞を受賞している。インフレーションのほかにも、サイクリック宇宙をはじめとする宇宙モデル、宇宙背景放射、重力波、ダークエネルギーなどをめぐる先駆的理論研究を次々に手掛けた。凝縮系物理学においてはThe Second Kind of Impossible: The Extraordinary Quest for a New Form of Matter (Simon & Schuster, 2019)〔『「第二の不可能」を追え!』(斉藤隆央訳、みすず書房、2020)〕で語られている準結晶の研究で大きな功績があるほか、種々のフォトニック材料の理論研究も進めている。

「2020年 『「第二の不可能」を追え!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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