人新世の「資本論」 (集英社新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 積読してあったがようやく読んだ。集英社新書だがなかなか読み応えがあった。し、とても勉強になった。

    マルクスというとどうしてもソ連や中国などの共産主義社会を連想してしまうが、それらの国の理念は、マルクスの思想の本の一面でしかないということが今回よくわかった。
    共産主義国家はけっきょく、国家資本主義にすぎない。

    初期のマルクスはむしろ科学技術の発展と資本主義を積極的に評価していたが、本書で問題になるのは、晩期マルクスだ。

    ロンドンに移ってからのマルクスは、著作こそあらわさなかったが、せっせと自然科学やエコロジーの研究にいそしんでいたという。
    そして徐々に「脱成長」へと舵をきっていった。つまり資本主義の否定である。

    このグローバル資本主義と新自由主義を推し進めたらろくなことにはならないと私も常々思っている。
    水や電力など人々の生命に関わる資源が私企業によって独占されるような社会が良いはずがない。

    おまけに、欧米をはじめとする先進国は、SDGsだ、エコフレンドリーだ言っているけど、けっきょくはアフリカや南米にアウトソーシングすることで環境を破壊し、二酸化炭素を排出させている。
    資本主義というシステムに乗っかっているかぎり、地球環境を破壊せずにはいられないのだ。

    しかしいよいよ、アウトソーシング先にも限界がきている。もはや押し付け先がない。しかもこれ以上二酸化炭素の排出が進めば、農業だってできなくなるかもしれない。

    人類の大半は、資本主義によって苦しめられているのだ。
    希少性に価値をおくこのシステムに従っているかぎりは、過酷な労働を強いられることも必然的である。

    こうした問題について、晩期マルクスはすでに思考していた。「脱成長」である。土地、水、電力、ネット環境、知的資源などを公共の財産(コモン)とし、その土地土地でそうした資源を回していく。よけいな利益は産まなくてもよい。そうすれば環境破壊も軽減できる。無理な労働を強いられる人も減る。
    そもそも、少数の資本家が富の大半を独占するいまのような状況がなくなるから。

    そんなのは夢物語だとか、やっぱり自分だけ得をして逃げ切りたいとか言っている暇はない。
    げんに、欧米に搾取されていた南米などから学び、例えばバルセロナなどでは、市民によるコミュニズムに似た都市経営が実践されだしている。

    経済成長を捏造しつつ墜ち続けている日本も、いまがふさわしいタイミングだろう。とりあえず今の政府に期待できることは、ない。使用価値のあるリソースを「コモン」として活用するローカルな実践が急がれる。

  • 産業革命以降の温室効果ガスの排出量が加速度的に増大していることにより、地球の平均気温は上がりつつある。これを放っておくと、地球規模での気候変動により、人類は大変な災厄を受けることになる。それに対して、国連はSDGsという考え方を打ち出し、2050年までにカーボンニュートラルを実現することにより、破滅的な気候変動を避けることを提言している。
    しかし、筆者は、現在の資本主義が続く限り、それは無理であると主張する。「SDGsは大衆のアヘンである」とまで言っている。それは、気休めに過ぎないということだ。資本主義は無限の経済成長を目指すことを宿命づけられた体制、というか、そういう体制のことを資本主義と呼ぶわけであり、そういった体制の下では、温室効果ガスの排出等に歯止めがかからないはずであると、筆者は主張する。本当に気候変動をストップするには、「脱成長」という考え方をとる必要があるが、これは、実はマルクスが(資本論にはそれと明白には書かれていないが)、晩年に主張していたこと(というか、筆者が考える、マルクス思想の新しい解釈)である。
    以上が、私が理解した本書の骨子である。骨子自体はそんなに難しいものではないが、この主張にたどり着くための理路・ロジックは簡単ではない。正直、一度読んだだけでは、なかなか理解が追いつかなかった。
    理路・ロジックが簡単ではないのは、我々、というか、私が資本主義的・近代経済学的な理路・ロジックで世の中を理解しているのに対して、筆者がマルクス主義的な理路・ロジックで本書を書いているからだ。
    理路・ロジックのの問題ばかりではない。私のように、ずっと、民間企業で資本主義の最前線で働いていた者にとっては、どうしても、コミュニズムの考え方は、どこかに気持ちの悪さを感じることを否めない。一方で、例えば、資本は無限の成長を目指すもの、といったような、非常にシンプルな命題がマルクス主義のベースとなっており(他にもいくつかあるが、いずれも命題自体はシンプル)、ある意味納得させられる部分もある。
    岸田首相は「新しい資本主義を構築する」ということを所信表明演説で述べた。多くの人が、今の資本主義は行き詰りつつあるのではないかと考えていることの一例でもある気がする。だから、今の時代にマルクスが、あらためて、読まれているのだろう。

  • 脱成長コミュニズムという、既存の枠組みである資本主義への対案が描かれているのがすごい!

    確かに既存の枠組みでファイティングポーズをとりながら勝負してきたが、負け戦ばっかり。暮らしむきは一向に良くならない。ここらで脱成長コミュニズムに転向するのも悪くないのかも。

  • ずっしりと重い本で、ずいぶん、読み切るには、体力と脳力のいる作業だ。
    ①人新世という言葉を初めて知った。「人新世」は、1980年代に生態学者ユージン・F・ストーマーが異なる意味で「人新世」を使用していた。地球の大気に関して直近数世紀の人類行動の影響が新たな地質時代を構成するほど重要であると考えた大気化学者パウル・クルッツェンによって2000年にこの用語が広く普及した。人新世とは、人類の経済活動が地球を破壊する環境危機の時代。
    本書は、刺激的な言葉で幕開けをする。マルクスが「宗教はアヘンである」と言った。斎藤公平は、SDGsは「大衆のアヘン」であると言いきる。人間が地球のあり方を取り返しのつかないほど大きく変えてしまった。現実を直視しなければならないという。この問題提起の仕方は、強力なアジテーションである。久しぶりに、元気のいい、若き、新しきマルクス主義者の登場である。
    SDGs(エズ・ディー・ジーズ)は、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、2015年9月に国連で開かれたサミットの中で決められた、2016年〜2030年までの15年間で世界が達成すべきゴール;国際社会共通の目標を表した。17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない( leave no one behind)」ことを誓っている。なぜ、この目標が、アヘンなのか?が本書では述べられる。
    経済成長を進めれば、確実に地球破壊が進む。現在起こっている大雨による洪水や台風の巨大化は、確実に地球温暖化の影響を受けている。地球温暖化に向けて、CO2の排出規制を強くすることが求められている。
    人新世の時代は、ビル、工場、道路、農地、ダムなどが地表を埋めつくし、海洋にはマイクロプラスチックが大量に浮遊し、産業革命以降、人間は石炭と石油などの化石燃料を大量に使用し、二酸化炭素を膨大に排出した。温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)の解析による2018年の世界の平均濃度は、前年と比べて2.3ppm増えて407.8ppm。 工業化(1750年)以前の平均的な値とされる278ppmと比べて、47%増加している。
    ウィリアムノードハウスは「気候変動の経済学」でノーベル賞を受賞。1991年に炭素税を導入を提唱、CO2削減のモデルの構築をした。経済成長と新技術があれば、現在と同じ水準の自然環境を維持できると考えた。彼の計算によると2100年には、3.5℃も上昇する。パリ協定2100年までの気温上昇を産業革命前として、2.2℃未満に抑えこむ。
    最近 100年に一度の異常気象が、毎年各地でおこっている。2020年6月シベリアで気温が38度。
    2018年西日本豪雨の被害総額は、約1兆2150億円に上り、単一の水害としては統計を開始した1961年以降で最悪だった。
    ジェームズハンセンは、1988年に「気候変動は99%の確率で人為的にひきおこされている」と発表した。スウェーデンの16歳の環境活動家グレタトゥーンベルは「資本主義が経済成長を優先する限りは、気候変動は解決できない。」という。
    著者は、マルクスは「資本主義は自らの矛盾を別のところへ転嫁し、不可視化する」という事例を上げていく。
    先進国社会の豊かさは、劣悪な条件で働く人を遠くに転嫁して、環境汚染、森林破壊をおこしていく。外部化社会を作り、不可視化する。中核においては、過剰発展をして、周辺は過少発展と環境破壊をする。そのグローバル化が地球の隅々まで及んだ。発展途上国は資源、エネルギー、食糧、は先進国にうばわれていく。「オランダの誤謬」とは、オランダ国内は大気汚染や水質汚染の程度は低いが途上国では大気汚染や水質汚染、ごみ処理問題に苦しめられていることをいう。そのような外部化社会でおこっていることが、「知らない」から「知りたくない」に変っていく。自分たちに関係ないことだと、見ないようにしてしまう。人新世は、むしりとってきた「安価な労働力」のフロンティアの消滅、発展途上国の安価な自然もついに消尽している。
    ①技術的発展でのこえようとする。NET Negative Emmision Technolgy 大気から、CO2を除去する。②空間的転嫁、南米から欧州へ。③時間的現象、森林破壊と気候変動。つまり、地球を覆い尽くすことで、地球の温暖化が丸ごと発生することになる。つまるところ、将来を犠牲にして、現代を繁栄させている。否定的帰結をたえず、周辺部へ転嫁。気候変動は、転嫁の帰結である。
    緑の経済成長。経済と地球温暖化のデカップリング(切り離す)。「資本主義とは、価値増殖と資本蓄積のために、さらなる市場を絶えず開拓していくシステム」資本主義は、気候変動さえも、利潤獲得のチャンスとなる。関東大震災の時においても、コロナ騒動においてでもある。惨時便乗型資本主義がある。公正な資源配分が資本主義のもとでは、恒常的にはできない。
    では、どうすればいいのか?

    ②150年前のマルクスの主張の見直し。
    果たして、資本主義以外の選択肢は存在しないのか?中国やソビエトの社会主義の実情を見ても、どうも不具合なところが多い。一党独裁と生産手段の国有化の状況。それは、マルクス理論から見てどうなのか?と問う。また、マルクス主義は、階級闘争ばかり扱って、環境問題は扱えないのではないか?
    マルクスエンゲルス全集(大月書店)は、全53巻4万ページであるが著作集に過ぎない。マルクスがロンドンの大英博物館などで書いた研究ノートなどのマルクスの一次資料を集めて、現在 MEGAマルクスエンゲルス全集が始まり、新たに全32巻が追加された。最終的には、100巻を超えるという。
    若きマルクスは、「生産至上主義」であった。資本主義の発展とともに多くの労働者が資本家たちに搾取される。そのことで、格差が増大する。生産が過剰になり、恐慌が起こる。そういう中で、労働者は団結して、社会主義革命を起こす。それが結実したのが、共産党宣言。その20年後 1867年に、マルクスは「資本論」の第1巻を出す。マルクスは、第2巻、第3巻は未完のままでエンゲルスが書いた。その間のマルクス自身の変化が、今回の本では紹介されている。
    人新世の環境危機の時代を、生き延びるために、晩期マルクスの思索から汲み取ろうとする。
    コモンを地球として考える。社会的に人々に共有され、管理されるべき富をどう共有するかについて考察する。
    脱成長コミュニズム①使用価値経済の変換。使用価値に重きを置いた経済に転換して、大量生産・大量消費から脱却する。②労働時間の短縮。労働時間を削減して、生活の質を向上させる。③画一的な分業の廃止して、労働の創造性を回復させる。④生産過程の民主化⑤エッセンシャルワークの重視。クソくだらない仕事や会議はやめる。以上のようなことをポイントにして、自然回帰ではなく、新しい合理性を作り上げていく。例として、バルセロナの気候非常事態宣言による「フィアレスシティ」国を超えた自治体の連携。現在77もの拠点が参加している。その中で、気候正義を掲げ、それをテコとした新しい社会の創出。
    こうやって、マルクスは、脱成長の新しい姿を見せるのか。資本主義が地球を破壊し尽くす前に、新しく踏み出していく。ふーん。なるほど。いい本だが、咀嚼するには、かなりの分量の本を読まねば、理解できないのだ。自分の思考のパラダイムを変換するには、いい本だった。

  • あまりにも暑すぎる2022年の夏。
    6月には梅雨が明け、猛暑日が続いた。

    100年に1度の異常気象が、毎年のように起こっている。
    明らかに地球がおかしい。悲鳴を上げている。

    自分が、そしてまわりの大切な人々が倒れてしまう前に何かできることはないか。
    そう思って、本書を手に取った。

    「SDGsは、大衆のアヘンである」

    過激なフレーズから、本書は始まる。

    そもそも「資本論」「マルクス」という段階で、いかがなものかと思っていた。

    だが、読み進めるうちに、豊富な資料と、緻密な理論構成、そして明快な論調に、霧が晴れるように視界が広がっていく。

    「MEGA」とよばれる、著者も含めた世界各国の研究者が参加する新たなマルクスの全集編纂プロジェクトから、新たな視点が紡がれていく。

    これまで光の当たらなかった晩期マルクスの思想的大転換の中にこそ、地球の危機を照らす英知があふれていると著者は語る。

    先進国の豊かな生活は、見えない誰かの、「グローバルサウス」(グローバル化によって被害を受ける領域並びにその住民)の犠牲の上に成り立つ。

    「資本主義が崩壊するよりも前に、地球が人類の住めない場所になってしまう」

    その元凶である資本主義そのものと対峙しなければならない。

    しかも、それは民衆による平和的な方法でなければならない。

    その取り組みは、着実に世界の各地で広がり、つながり始めている。

    「コモン」(社会的に人々に共有されるべき富、公共財)の民主的・水平的な共同管理。

    平等で持続可能な「脱成長コミュニズム」。

    「開放的技術」に基づいた共同体。

    「気候正義」という「梃子」(てこ)。

    「マルクスで脱成長なんて正気か--そういう批判の矢が四方八方から飛んでくることを覚悟のうえで、本書の執筆は始まった。(中略)それでも、この本を書かずにはいられなかった。最新のマルクスの研究成果を踏まえて、気候正義と資本主義の関係を分析していくなかで、晩年のマルクスの到達点が脱成長コミュニズムであり、それこそが『人新世』の危機を乗り越えるための最善の道だと確信したからだ」(「おわりに--歴史を終わらせないために」より)

    若き知性が紡ぎだした英知の結晶が、行動が、連帯が、人類の未来を照らす。

    今まで以上に、自分ができることを本気で取り組む静かなる情熱が沸き上がる一書。

  • SDGsは「大衆のアヘン」だ!で始まる。免罪符のようにやった気になれるだけで、その実、消費が増えて資本家が潤って諸問題(貧困、余暇の欠乏、環境破壊)は外部(グローバル・サウス、労働者、地球環境、将来の世代)に転嫁されるだけだと。ここだけでも痛快だ。痛快というか、それを通り越して絶望すら感じてしまうが、さらに本書は「脱成長コミュニズム」なる理想像とそれにつながりうる世界の動向を紹介し、最後に「三・五%の人々が非暴力的な手段で本気で立ち上がれば社会は変わる」という政治学の理論を提示して締めくくった。
    すごくいい本だったと私は思う。

  • 資本論後のマルクスの論説がまとまってるのかと思ってたら、思い切り環境問題を(新)資本論で解決できるよな内容だった。それはそれでたいへん興味深く、現状の環境問題における“不都合な”事実をズバズバと提示していく前半は特に歯切れ良く、ここだけでも多くの人に読んでほしいなと思わせられた。後半はその諸問題に対して、最新のマルクス研究の成果としての解決策を示しているが、理論は通っているものの、やはり理想主義的であり、現実感が薄れていくけど、主張は一貫してるっていうモヤモヤ感を感じてしまった。ほんとにそうできたらいいんだけどね。

  • 経済成長を続けながら環境保全なんてできないよ、地球の資源は有限、経済成長、資本主義はその有限な資源を貪ることで成り立っているから

    そこから脱却しないと、脱成長コミュニズムを目指さないと、そのうち地球は破滅に向かって、それに近づいた段階ではもはや手遅れで、カオス状態になりますよ、という内容でした

    理屈ではなんとなく納得できましたが、目指すべき脱成長コミュニズムの状態は、理想なんだろうけど、人間は考え方が多様で、欲望に満ちていて、その欲望も人それぞれだから、至難の業だよなぁと現実的に思ってしまう自分もまたダメなのかなと思いました

    人間(特に先進国の特に富裕層)は今のことしか考えてなくて、将来世代や途上国、グローバルサウスのことなんて考えてなくて、富をうみ出すことしか考えてなくて、環境保全は二の次、先進国がグローバルサウスを使って経済成長する構図が続く限りどこかで限界が来て破綻する、それは環境なのか資源なのか人材なのかわからないけど、無限にないので限界はくるし、確実に近づいている、という話は特に印象に残ったし納得したし危機感は持てました

    だけど、脱成長は無理よなぁ、と諦めてしまってます、アカンなんやろうけど…

    3.5%そういう思想の人がいれば変わるという理論もあるらしいけど、さぁどうなるんかな

  • 読んでよかった。資本主義について考えさせられた一冊。

  • マルクス四郎てなので少々時間かかったが、章立てがうまいのか凄くわかりやすい。
    『人新世』の危機への対処は気候正義と使用価値を前提にした脱成長コミュニズムしかないと主張。

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著者プロフィール

1987年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。Karl Marxʼs Ecosocialism:Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy (邦訳『大洪水の前に』)によって権威ある「ドイッチャー記念賞」を日本人初歴代最年少で受賞。著書に『人新世の「資本論」 』(集英社新書)などがある。

「2022年 『撤退論 歴史のパラダイム転換にむけて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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