根津権現裏 (角川文庫) [Kindle]

著者 :
制作 : 西村 賢太 
  • KADOKAWA
3.25
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感想 : 4
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感想・レビュー・書評

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  • 古風な漢字と言葉遣い、「だなあ」「なのよ」といった体温ある結語が軽快な会話文、親友の自殺に慌てながら踏み倒した家賃が気になる勝手加減(=ユーモア)、金や性に対する潔いまでの貪欲さ、夢想の大胆さと実際の小心の対照、恋人がブスであることにまつわる心理描写などの諧謔、こうしたものはなるほど西村賢太に影響を与えたのも分かる。
    岡田が連日全く同じ言葉と涙でもって現れ、清造の言葉に決まって勇を得て帰るのも笑える。直ぐと怒りをぶちまけ、また直ぐと泣かんばかりに謝る貫太のようだ。
    ただ、岡田兄との自殺をめぐる問答などは妙にくどく、内面描写が執拗。そういう箇所はリズムよく話が流れて行かない。これは当時の私小説からすれば自然のことかもしれないが、西村賢太のように読ませるサービス精神は感じない。逆に言えば、私小説は西村賢太をもって現代風に変化を遂げているのだ。
    物語としてはまとまっておらず、スジというようなスジもないが、結末の救われぬ貧困あたりはかなりの迫力。かけた袷に岡田の幻覚を見るあたり、また脚の疼痛と膿汁、鐘がリンクするあたり。

    好きな場面。
    宮部が清造の陰口を叩いていたと告げられ、云う。
    「糞でも喰らえだ。そんな憎まれ口を利いてる暇があったら、たまにゃてめいの了簡へ、ちったあヤスリでも当てたほうが身のためだろうぜって(略)憚りながらこう見えたって、おいらあまだ、あんな垣覗き野郎に見破られるほど耄碌してねえんだからなあ。」
    独創的な悪口は確かに師匠格だ。
    女の腐ったような岡田に対し、「彼自らの死ぬのを待たずに、一思いに蹴り殺してしまってやろうかと思って」というのも良い。蹴り殺すというチョイスが的確。

  • 今更なのだがある日突然、西村賢太氏の訃報がストンと鮮明になり強烈に寂しくなって彼の足跡を追いたくて読んだ。
    ダメな人間がダメな人間を愛する、正しくで私も藤澤清造氏のことが好きになった。(途中)

  • あと何回か読まないとジョークのところ理解できないかも
    ただ重い
    重さが違う

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著者プロフィール

藤澤清造(1889・10・28~1932・1・29)
小説家。石川県鹿島郡(現・七尾市)生まれ。尋常高等小学校を卒業後に市内で働き始めるが、程なくして右脚に骨髄炎を患い手術、自宅療養の期間を過ごす。役者を志して1906年に上京。足の後遺症で断念したのちは各種職業を変遷する。『演芸画報』誌訪問記者時代に、同誌等に劇評や随筆を発表。1922年に長篇小説『根津権現裏』を三上於菟吉の尽力で書き下ろし刊行し、島崎藤村、田山花袋らの賞讃を得る。以降、精力的に創作を発表するも、作への不評が相次いで凋落。長年の悪所通いによる性病が因で精神に変調を来たし、内妻への暴力行為、彷徨しての警察への勾留等が続いた末に失踪。厳寒の芝公園内ベンチで凍死体となっているのを発見される。当初は身元不明の行路病者として荼毘に付された。


「2022年 『根津権現前より 藤澤清造随筆集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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