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感想・レビュー・書評
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ロボットの変わらなさに
切ない気持ちになり
人間の変わる姿に 非情さを
感じますが
ロボットは 変化する人間を
いつまでも眩しく見つめてくれています
人間の非情さだけを
責めているわけではないのでしょうね
変化するのも また生き物ということ
児童文学のような
優しい語り口が
クララのようで とても素敵でした詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「クララとお日さま」、オーディオブックで聴き終わりました。
カズオ・イシグロさんの本を読むのはこれが初めて。気になっていたのだけれど、機会がなくて、やっと読むことができました。
アンドロイド(物語の中ではAFと呼ばれている)のクララから見た、人間の愛情の物語。
2つの側面からの感想を書いておきます。
1つは物語の感想。
もう1つはオーディオブックとして聴いたことに対しての感想。
まずは、物語。基本的には親と子供の愛情の物語。愛するがゆえに行き違ったり、回り道をしたり、届かなかったり、そんな日々の中の感情を描いたもの。
面白かったのは、その物語を、アンドロイドの目線で描いていること。この本では、全てのことがアンドロイドのクララの視点で描かれている。景色も、物事のいきさつも、人間の感情(をクララが推察したもの)も。
なので、時に、変な解釈をしていたりもするんだけど、それはアンドロイドだから、ということだからなのか、人間だれしもものごとを自分なりの解釈をしていて、時にはそれが変なものだったりするのかもしれないな、と思わせられました。
そして、アンドロイドであるクララが、人間らしい感情のようなものを持っていること、そして、逆に人間とは違う感情を持っていることに、安心したり、悲しくなったりさせてもらいました。アンドロイドという存在を介して、人間の感情を考えさせるものでした。
物語としては、ほんわりとした終わり方で、中途半端な情報のまま終わる部分もあるのだけれど、クララというアンドロイドからみた世界、という終わり方としては納得のいくものでした。
もう1つの感想はオーディオブックとしての感想。
ナレーションが素晴らしかった!
文章の地の部分は、基本的に「アンドロイドであるクララのモノローグ」。そして、そこに、登場人物たちのセリフがある、という構成。
クララの持ち主となる少女と、そのボーイフレンド、母親、父親、ボーイフレンドの母親、その他の人たち、全ての人物のセリフが、本当にその人の言葉に聞こえてくるのがすごい。少女とクララの違い、少女と母親の違い、少年と父親の違い。まるで映像が見えるような感じでした。
ほんと、素晴らしかった。
それでも、やはり「聞く」ということの限界にも気がついてしまいました。単語の「漢字」や「表記」が気になるものがいくつかありました。「あるこーぶ」とか「てんおう」とか「エーエフ」とか、最初の方に出てきて、物語の内容の理解には特に支障はないのだけれど、出てくるたびに耳に引っかかってました。その単語だけでも「文字」で見られる方法があればいいのにと感じました。
どこかでちょっと立ち読みして確認したくなるような、そんな感覚。
そして、物語を「聞く」ことで気がついたことがありました。普段、小説を読むときに、かなりの部分を読み飛ばして(斜め読みして)いるんだろうな、って気がついたこと。情景描写などを「聞く」時に、ちょっと読み飛ばしたくなったりしてました。早く先に進みたいのに、重要な部分と、ちょっとした説明の部分とが、同じスピードで読まれることが、ちょっと苛立たしかったり…。
でも、逆に、ちゃんと細部まで読むことの良さもあるのかもしれません。
色々と考えさせてくれるオーディオブックでした。 -
文学者がAIを描くとどんな風になるのか興味があり読んでみる。AIの活用として子供にとっての良き友達を実現するための存在という位置付け。意図的に個体差をつけて製品化れ
ています。興味深い点でもあり、賛成しかねる点でもあるのですが、いわゆる信仰心をコーパスとしてセットされていることです。国民性もあるのだとは思いますが、AIが神のような祈りの対象としての存在をセットされて学習を開始した場合どのように発展していくか非常に興味深いところではあります。
でもSF作家だったらもっと厳しく深堀りしテーマを発展させていたとも思ってしまいます。いやファンタジーよりに表現したとしてもル・グィンのように深く展開させていけたはずです。うーん、甘い、甘すぎる。 -
クララは、AFという人のために作られた人工的なロボット。少女とともに過ごし少女のために尽くす未来の物語。
AFと人間と交流することで、どんな物語になっていくのか。クララ視点で、クララから見えるもの、感じられるものが全ての世界で、クララを語り手にしている。
AIからみたら、情報をどう感じ、どう処理されているのか、この小説ではそれに意欲的に取り組んでいる。AI視点でクールでメカニカルな描写で、淡々とした印象を与え、ある意味人の主観を排除した一人称の物語となっている。賢くなりすぎたAFの思考過程が分からないから心配との人々の気持ちもある。
良いAF=良い友達になることを使命とした、近未来のアンドロイドの物語であり、読み進めるなかでその行く末を考えさせられます。 -
AFとしてジョジーとともに過ごした日々を思い、語るクララ。ジョジーとの出会い、ともに過ごした日々、ボタンソファに逆さまに座りながら、二人並んで眺めた夕日。
相変わらず静かに、静かに語られるカズオシステム。孤独の意味さえ知らずに過ごせる、そんな人工親友をもって生きる少女とその世界に存在する、どうしようもない傲慢さ、残酷さが、静かすぎる語りの中で転がり続けている。こんなに悲しい話はないのかもしれないとすら思う。いつ、どこを読んでも、心に響く箇所がある、そんな一冊でした。
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カズオ・イシグロ、好きな作家ベスト3に入れさせていただきます。
そもそもSFが好き。
しかし最初の方はSFと思わず読み始めた。
AI、人間の遺伝子操作が当たり前になっている近未来の生活。だけど、主人公たちの棲まうところは、太陽が地平線に沈むところが見られるような草原の中だったり、自然の情景が描かれるから近未来を感じさせなかったり。
始終落ち着いたトーンの語り口で、ハラハラドキドキをあおってこない。それなのに終盤はハラハラドキドキさせられる。静かだからこそ、ひたひたと迫ってくる悲しい結末が胸に迫る。
カズオイシグロってのは、すごい人だ。
科学技術は本当にひとを幸せにするのだろうか。
と同時に、感情を持つAIの悲しみに私たちが感情移入する。こうなったAIには人権を与えるべきではないの。不必要になったら廃棄物として扱うのはひどいのではないの。
そう考え始めたら、感情がないと今私が思い込んでいるいろいろなモノだって、捨てたらいけないんじゃない?
もったいないオバケの付喪神を思い出したりして。
カズオイシグロの本はもっと読むことにした。 -
AIアンドロイドのクララと病弱な女の子ジョジーの物語。クララの、すなわちAIの一人称で語られる。
冒頭、AI(同型のアンドロイドの中では飛び抜けて優秀)自身から見た認識・学習過程の描写や、2人の心温まる出合いなどを楽しみながら、そこはイギリスの作家だし、ノーベル賞作家だし(受賞後最初の出版だそうだ)、一筋縄では行かないんだろうなという警戒感が頭をもたげてくる。
クララの計画がとんでもない結果をもたらしたりしないか。ジョジーの母や隣家の母の妄信のゆくえは、ジョジーとリックの関係は、なによりもクララの運命は・・・果たしてこの物語はハッピーエンドを迎えるのだろうか?
作家特有と思しき、事情をはっきりとは描写せずに思わせぶりに重ねていく構成にも、警戒感の理由はあるようだ。
そういう不案内な心持ちを抱かせたまま突き進んだラストシーンは、クララにとってはもちろんハッピーエンドだったろう。登場人物それぞれにとっても。でも、個々を離れて世界観全体を見渡した時、やっぱりそこには格差、倫理観の歪み、環境や物の浪費、人間社会の不如意といった、難しいものが残るのである。
いやそれはともかく、最後めっちゃ泣けた。