- 本 ・電子書籍 (639ページ)
感想・レビュー・書評
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賞も取ったし話題になっていたのは知っていたけど、わたしが読むジャンルではないな、っていう思い込みがあってまったくスルーしていたんだけど、最近、「国内小説でも海外まで広がりのあるもの」みたいなのを読みたいと思っているので読んでみたら、まさに圧倒されて茫然とした。スケールが大きいし、すごく引き込まれるし、今の社会についていろいろ考えさせられたし。麻薬組織の話なんかはドン・ウィンズロウかと。いや残酷さやグロさはドン・ウィンズロウより上かも?っていうくらい。まあその残酷さやグロさは強烈すぎて薄目でしか読めない感じもあって、むしろわたしは臓器売買の話が興味深かった。興味深いとかいうと語弊があるけど、いやこんなことまさか…と思うけど意外とリアルで現実にありそうで恐ろしすぎた。臓器売買、臓器移植ビジネスって究極の資本主義ビジネス……。資本主義のなれの果てというか、金儲け主義の行きつく果てを見た気がする……。結局、お金のある人が弱者を犠牲にしてなんでも思いどおりにするような恐ろしさ……。しかもお金があれば罪悪感を抱かないまでいけるような恐ろしさ……。
最初わたしは愚かにも、麻薬組織の話と臓器売買の話にどういうつながりが?って思ったんだけど、臓器移植ビジネスと麻薬組織、裏社会が結びつくっていうのも考えてみればそうだよねと思った。著者のインタビューで、日本で大麻関連の事件があっても、大麻くらい、っていう人もいるけれど、麻薬のせいでメキシコなどでどれだけ多くの人たちが犠牲になって死んだりしているか、って言っているのを読んだけど、確かにそのとおりだし、そして麻薬組織の金がほかのどんな恐ろしいビジネスにまわっているのかって考えると、たかが大麻、とか思えないっていう。こんなふうに、本を読むことで、世界を広く知ることができる、広い視野をもつみたいなことができるってすごいとかまで思ったり。
麻薬組織の話とかってちょっと「悪の美」とか「家族の絆」みたいなちょっと美しげな話にもなったりするんだけど、そういう要素はこの小説ではわたしは感じなくて、ひたすら「悪」としか思えなかった。アステカ文明の話で、神に捧げるいけにえとかもその文明の貴ぶべく伝統みたいに美化されるのもどうなのか、とか思ったけど、でも、人間が群れをなして生きていくには、人間の集団に必ず生じる連鎖する憎悪や殺意を消すためにいけにえが必要、っていうのは、なんだかすごく納得した。残虐に人を殺す人たちの憎悪や怒りが黒い煙となって吸い取られていく、みたいな描写が印象的だった。
で、わたしはどうしてもこの麻薬組織ファミリーは応援する気にはならなくて、だからこの結末には救われた気がして涙が出た。コシモのナイフづくりの師匠だったパブロの良心に救われた。なんというか浅い善意みたいなものではなくて、魂の良心、みたいなものを感じた。私はキリスト教も聖書もまったく詳しくないけど、「『わたしが求めるのは憐みであって、いけにえではない』とはどういう意味か、行って学びなさい」、っていうのに心打たれた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
真夜中に吹く真冬の風のような小説だ。
冷たく私の口から流れ込み、そっと私のコラソンにナイフを突きつけられた感覚だ。 -
圧倒的な情報量と知識量、そして容赦無い暴力描写が詰まりに詰まった圧巻の560ページ。その重量は正に鈍器。
アングラな世界で暗躍する人間達の群像劇。こんな事が日本で起こるわけないでしょ!?というフィクション性も、ページをめくる度に説得力が垣間見えてゾワゾワ。
こうしてスマホを弄ってる今現在も、どこかで本書のような事が行われている可能性は0ではない。正義の反対は別の正義。
読み応え抜群で疲労困憊ですorz
補足
メキシコ麻薬戦争を読むと更に興味深く読める。とか言っとく。 -
コカイン、麻薬密売、人身売買、違法な臓器移植…アンダーグラウンドな世界にどっぷり浸かった暗い魅力に惹きこまれる物語でした。
テスカトリポカとは、多神教のアステカ王国において信仰されていた強大な神の1人です。闇を支配するこの神を祝う祭りでは、人の心臓を供物に捧げていたとのことで、キリスト教圏では邪信教として扱われることもあるようです。
そんなアステカ文明に魅せられた者たちの闇に生きる物語でした。
元々私自身がアステカ文明に興味があったので、非常に楽しく読むことができました。
また、アンダーグラウンドな世界を物語の中で垣間見る背徳感も大好きなので、本作はとても満足感が高いものでした。
すごくおもしろかったです。
おもしろい作品は内容についてあまり触れたくありません。
ネタバレ絶対したくない。とにかく読んでください。
本当におもしろかったです。
さすが山本周五郎賞受賞作品!
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あまりにも壮絶な内容で、感想をまとめることが難しい。この話がフィクションだと理解しつつ、麻薬や臓器売買の闇が、自分の想像よりもはるかに凄まじく、実際に起きていることのように錯覚して恐怖を感じた。怖いのにやめられず、読了後は放心した。
著者は、どのようにしてこの作品を作り上げたのか? -
第34回山本周五郎賞
第165回直木三十五賞
アステカ文明、臓器売買、麻薬密売と、どれも未知て小説でなければ出会うこともない世界へ小旅行して帰ってきたような疲れを感じました(笑)
決して心地よい疲れではありませんが、しばらくこの不思議な世界から抜け出せず余韻が冷めません。
命の危険がある状況に身を置きながらも、リスクのある行動をとる頭のおかしい登場人物だらけ。あまりにも命が軽く、闇が深い。実際にあることなのだろうとは思うけど、残酷すぎて自分には現実味がなくむしろ淡々と読めた。
そして裏社会以上に全く理解できない生贄という古代の風習。あまりにも無駄すぎる。やっていることの見当違いな方向性に苛立ちすら感じてしまいますが、滅亡したアステカ文明の気味の悪さが更にこの小説を重く暗くミステリアスにしています。
どう物語が終結するのか謎でしたが、後半は緊迫感があり一気読み。この物語を仕上げた作者の技量に感服です。 -
恐るべき傑作。数多くの物語が籠められている。主軸はバルミノ、末永、コシモの物語だが、リベルタの物語でも、アステカの神々の物語でも、そして登場人物全ての物語でもある。その幾多の物語が接点を持ちつつ、別々の方向を向いた物語となっている。復讐のためにファミリアを作る男の物語であり、クライムノベルであり、ビルドゥングスロマンでもあり、滅ぼされたアステカの呪詛でもあり、すぐれた幻想小説の面もある。また淡々と遠くから語りつつ、読者を飽きさせずぐいぐい引っ張っていく文体がいい。「読書メーター」の感想・レビューを見ていると「残虐」「グロい」「こんなこと本当にあるんだろうか」みたいな皮相な感想があるけれど、ここに描かれた臓器密売ビジネスを絵空事で嫌悪すべきものとして忌避するのでは意味がない。これはフィクションゆえに描くことができた資本主義の本質――強者が弱者の血をすすって肥え太る――である。よくぞ描いた!
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メキシコの麻薬密売組織、臓器移植、宗教的なアステカの習わしがマッチした恐ろしいビジネスに巻き込まれる日本人とメキシコ人のハーフの少年が主人公となる結構ダークな内容の物語。舞台はメキシコ、インドネシア、日本とそれぞれの登場人物のバックボーンが紹介されながら展開していく。
暴力的な描写も多く、好き嫌いがはっきり分かれそう。
内容は嫌いではないが、3月、4月のバタバタな最中に聴いたので余り物語に没頭できず…
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佐藤究の作品





