東京人 2021年4月号 特集「シティ・ポップが生まれたまち」1970-80年代TOKYO[雑誌]

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  • / ISBN・EAN: 4910167250414

感想・レビュー・書評

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  • 冒頭の松本隆と松任谷正隆のインタビューが「へぇー」って感じで面白かった。

    松本隆の、“小さい頃からキラキラしたものが好きでね。(中略)逆にベタべタしたものが嫌いだった。音楽でいうと、日本の歌謡曲や演歌って湿っぽいじゃない? だから、はっぴいえんどではウェットさのない音楽を作りたかったんだ。ところが、いざ曲を作ってみると結構な湿度があってさ。たぶん原因は、大瀧詠一の声なんだなぁ(笑)。僕と細野さんは港区。茂るは世田谷の奥沢出身だけど、大滝さんだけは岩手だったからね。彼が持ち込んだ東北の血みたいなものが、結果的にバンドサウンドに快適な湿り気をもたらして、過度にウェットでもドライでもない、普遍的な音になったと思う”は、読んでいてすごく納得。

    自分が「はっぴいえんど」を好きで聴いていたのはYMOが流行っていた頃で。
    YMO→細野さんのソロ4枚→「はっぴいえんど」という流れで聴いたんだけど、それは、今で言う「シティポップ」が一般的に聴かれだした70年代の終わり〜80年代の頭だった。
    当時、大瀧詠一の「ロングバケーション」や山下達郎に代表されるような、当時の日本人の憧れだったウェストコーストの風景を思い起こさせるポップミュージック(「ウェストコーストサウンド」とは違う)が、流行りっぽくて嫌いだったこともあって。
    「はっぴいえんど」にある特有の夏の感じが、日本の夏の風景を思い起こさせて、そこが良かったのだ。
    そういう意味じゃ、自分は間違いなくアンチ・シティポップだった(^^ゞ

    そういえば、「はっぴいえんど」の曲に「田舎道」というのがあって。
    大瀧詠一の曲(作詞は松本隆)なんだけど、子供の頃よく行っていた親の田舎の風景をミョーに思い出すところが好きだったんだけど、「はっぴいえんど」って自分はまさにそのイメージなんだよね。
    ま、松本隆の言う「風街」は開発前の青山辺りの風景らしいから、田舎の夏の風景を思い起こすって言ったら怒られちゃいそうだけどさ(^^ゞ
    そう、「風をあつめて」なんかだと、それを聴いて思い起こす風景は田舎のそれではなく。
    ビカビカでペラペラのビルが建ち並ぶ都心ではない東京、今で言うなら、いい意味で手垢の付いた低層階の建物が並んでいる杉並辺り?の喫茶店から眺めている外の風景だ。
    ただ、それらは、いずれにしても「ロングバケーション」でもなく、山下達郎でもないわけで。
    つまり、自分が「はっぴえんど」に感じていた日本の夏の感じというのは、東北人たる大瀧詠一がバンドに与えていたもので。
    それが「はっぴいえんど」の、「コク」や「旨味」になっていたんだろう(^^)/

    そういえば、「はっぴいえんど」を初めて聴いた頃、バッファロー・スプリングフィールドやCSN&Yの影響を受けていると聞いて、それらを聴いてみたんだけど全然ピンとこなかったってことがあったんだけど。
    それは、松本隆がここで言っている、“快適な湿り気”がそれらになかったからなんだなぁーと、すごく納得できた。
    ただ、自分が「はっぴいえんど」を心地よいと感じていた、その“快適な湿り気”をもたらした張本人が、当時大嫌いだった「ロングバケーション」の大瀧詠一だったというのはすごく面白い(^^ゞ


    続く松任谷正隆のインタビューで興味深ったのは、“(1stの『ひこうき雲』を作っていた時に)僕ら(キャラメル・ママ)と出会っていなかったら、彼女(松任谷由美)は今と違う路線を行ってたと思います。もしかしたら、クラシックをやっていたかもしれない。当時、彼女は僕たちが言うことを我慢して聞いて作っていた。彼女が作りたいようにやっていたら、ああいうアルバムにはならなかったはずです。でも、アルバムを作ったことで彼女は変わったんです”というところ。

    松任谷由実って、最初の頃はそんな風だったんだなぁーという意味でも面白いし。
    プリンスがケンカ別れしたワーナーにいた頃の方がエキサイティングだったように、必ずしもミュージシャンが自分の好きなようにやれるのがベストというわけではないんだなぁーという意味でも面白い。
    もっとも、松任谷由美が自分が好きなようにやった音楽がどうなっていたかというのは、そもそも自分が松任谷由実をそれほど聴いていないこともあって全く見当もつかない(^^ゞ



    上でも書いたけど、当時、自分は今の「シティポップ」と呼ばれる音楽が好きではなかった。
    今でこそ、大瀧詠一の「ロングバケーション」をよいと思って聴くけど。
    でも、それは、あの当時、世の中のどこにいても「ロングバケーション」や、その音楽やジャケットをイメージさせるものに溢れていた、というノスタルジーがあればこそだ。
    この特集にある「アーティスト相関図」を見ると、その他、山下達郎をはじめとして、尾崎亜美や杏里、松任谷由実、南佳孝、角松敏生、杉山清貴、稲垣潤一、佐野元春等々、いろんなミュージシャンが出ているが、どれも好きではなかった。
    だから、ほとんど聴いていない。
    どのミュージシャンも、ラジオで流れていたのを聴いたくらいだ。
    だから、この雑誌にある「アーティスト相関図」にあるミュージシャンで、当時、好きで聴いていたのは、はっぴえんどや大貫妙子を除けば竹内まりやの「VARIETY」だけだ。
    いや、大貫妙子だって、好んで聴いていたのは、いわゆる「ヨーロッパ三部作」以降だから、今で言う「シティ・ポップ」とは違う。
    ただ、今思うと、ヨーロッパっぽさが一段落した「スライス・オブ・ライフ」は、もしかしたら、クラウン時代のテイストに回帰しているのかなぁーと思った。
    でも、「スライス・オブ・ライフ」は、いわゆる「シティ・ポップ」ではないような気がする。
    「シティ・ポップ」とは違う、ビ・ミョーなウェットさがあるように思うのだ。
    そういう意味で言うと、あのアルバムは「シュガー・ベイブ」ではなく、「はっぴいえんど」なんだと思う。


    そんな「シティ・ポップ」だが、当時、自分はまだまだ子供で。
    レコードは日本のミュージシャンで2800円か2500円したから、そんなに買えるものではなかった(洋楽のレコードの方が、ちょっと安かった)。
    でも、それは当時、社会人でもレコードはそんなに買えるものではなかったんじゃないだろうか?
    そもそも、レコードプレーヤーがない家なんて、当時は普通にあったし。
    「シティポップ」が流行ったという1980年前後だったら、カーステがない車だって普通にあったはずだ。
    そういう意味でも、この特集の扉とも言うべきページにある、
    “カセットに曲をダビングし、ドライブやウォークマンで楽しむというのが、1970〜80年代のリスリングスタイルだった”っていうのは、嘘だと思う(^^ゞ
    ていうか、現代(人)による過去の雑な決めつけ(爆)

    実は、この本を買ったのは、NHKでやっていた「シティポップの流行」をやたら早口の人が解説している番組を見ていて、その流行に至った「仕組み」をネット中心に分析していたことにツマラナサを感じたからなんだよね。
    そこで言っていた、ユーチューブに竹内まりやの「プラスティック・ラブ」があげられたからとか、ヴェイパーウェイヴとかフューチャー・ファンクといった今のネットならではのものが関与していたというのは、それはそれでわかったんだけど。
    ていうか、それ、全部ウィキペディアに書いてあるんだけど、それはあの番組がウィキペディアに書いてあること、そのまんま番組にしちゃったってこと?
    それとも、あの番組の内容を誰かがウィキペディアに書き込んだの?

    そんなことよりも、40年くらい前、日本という限られたエリアで聴かれていたその音楽が、なぜ、今頃になって、世界のいろいろな人にチョイスされ、聴かれるようになったわけ、つまり、それを好んで聴いているリスナーが「シティポップ」の何に惹かれて聴いているのか、推測でいいから掘り下げなきゃ意味ないし。
    なにより、面白くも何ともないんだよ。
    あの番組の作り方はいかにもNHK的っていうか、一連の「戦後サブカルチャー」の番組のように、自らの意図するストーリーにその時代の出来事やカルチャー当てはめて、「これはこうですよ」と、もっともらしい“正解”を提示して見せるあの姿勢は、勝者の歴史改変を見ているようでものすごく反発を感じるし。
    さらに言えば、それは、たんなる「やっつけ仕事」だ(^^ゞ

    わかりやすくすることを、一概に悪いとは言わないが。
    でも、誰かのわかりやすい説明が、それがわかりやすいが故に「正解」になっている今の状況は気持ち悪いし。
    言ってみれば、わかりやすさ至上によるファシズムだ。
    なにより、事実を捻じ曲げてわかりやすくすることは、情報を発信する側の明らかなルール違反だ。
    それは、某芸能事務所の社長が長年に渡って破廉恥な犯罪をしていたのを見ないふりして意図的に世間から隠していたことと同じように、メディア不信/メディア離れを増大させる行為だと思う。



    普通の本ではなく、雑誌ならではって感じで意外に面白かったのが、クリス・ペプラーをはじめとする8人にそれぞれのテーマに沿って好きな「シティポップ」を(疑似)編集した46分カセットテープを紹介する「A面/B面 My Best」。
    歌謡曲が意外に入っていたり、「新日本紀行のテーマ」ってシティポップなの!?、まで(^^ゞ
    海外経由の「シティポップ」ではなく、日本人の視点(感性)ならではの「シティポップ」の広がりが見られて面白い。
    ただ、クリス・ペプラー以外は全員知らない人なんで。
    知っている人のこれが見たいよなぁーと思った(^^ゞ
    (もっとも、クリス・ペプラーも大して知らないけどw)

    その、「A面/B面 My Best」の狭間にさりげなくある、台湾のイラストレーターの人が書いた「風街 in Taiwan」というエッセイ風の文章は、その前にある「アジアを中心とした世界で広がる再評価」と絡めて読むことで、70年代の終わり頃から80年代にかけて日本というごく限られたエリアで流行ったある種のポップミュージック(シティポップ)がなぜ今流行っているのか?ということの一つの回答になっているようですごく興味深い。


    以下は蛇足。
    この雑誌の内容とは関係ない。
    「シティポップ」というと、必ずあげられるのが、竹内まりやの「プラスティック・ラブ」だけど。
    その「プラスティック・ラブ」が入っている『VARIETY』というアルバム、今は昔に出た通常盤と、リマスター&ボーナストラック入の「アニバーサリーエディション」の2種類が出ている(ていうか、通常版は廃盤なのかな?)
    その「アニバーサリーエディション」のリマスターされた「プラスティック・ラブ」って、出だしの♪ジャン、ジャーンが微妙に小さくなってない?

    「プラスティック・ラブ」は、出だしの♪ジャン、ジャーンが全てっていうくらい、あの出だしが大好きなんだけど、リマスター盤はなんであんな風にしちゃったんだろう?
    いや。昔の盤(通常盤)やレコードを聴いてなくて、初めて『VARIETY』を聴くのなら「アニバーサリーエディション」を聴いた方が絶対いいと思う。
    でも、レコードや昔の盤(通常盤)をさんざん聴いていた自分からすると、あの「プラスティック・ラブ」はない。
    だって、「プラスティック・ラブ」っていう曲は、1曲目の「もう一度」が終わり、ちょっと間があって、♪ジャン、ジャーンと始まるところ、そこがいいんだもん。
    すごーく中二病なことを書くようだけどw、あの♪ジャン、ジャーンは聴いた途端、当時の空気がワッと蘇って。一瞬、今がいつなのかわからなくなる、目眩に似た感覚があるのだ。←ばぁ〜か(^^ゞ
    でも、「アニバーサリーエディション」だと、その♪ジャン、ジャーンが微妙に弱いから、当時の空気が蘇ってこない。
    当時の空気が蘇ってこなければ、目眩も起こらない。
    というわけで、「アニバーサリーエディション」はもう聴いていない。

    どーせ、10年経ったら、「40周年アニバーサリーエディション」が出るんだろうから┐(´д`)┌
    その時は、ぜひ通常盤と同じ♪ジャン、ジャーンにして欲しいなんて言ったら、鬼が笑いそうだw

  • 自分の好きな音楽は今、シティポップなんて呼ばれているのね、と思う一冊。その言葉自体が旧い気がするのは何だろう。音楽はちっとも古びていないのに。90年代の後半から2000年代の音は、ものすごく好きか、全然好きじゃないかの両極端で、一番好きなのはシティポップとクラシック。中学で大滝詠一やら杉真理に夢中になり、当然周囲の誰も聴いていないから、理解もされず黙々と独りで好きな曲を選んでMP3にしては聞き倒す。ものすっごく旧いアイドルソングも、提供者がこのカテゴリのアーティストで、好きなものはここらへんなんだなって、そういう子だった。活字で読んで「そういうことか」と理解した次第。

    洋楽の言葉では、心にもうひとつ響かない。日本語で心に落ちてくる曲がいい。でも音は、洗練されていて欲しい。演歌もフォークもじっとりしすぎてる。そうなると70年後半から80年代の曲たちがいい、となるのだろうか。理屈はいいや、好きなものが注目されてるのなら、それは嬉しい。今日も10年後も私はきっと聴いてるもん。

  • ジャケットのデザインにあまり注目してなかったな。江口さんの文章がいい。

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