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感想・レビュー・書評
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若い人の多くは、宮谷一彦といってもよくわかるまい。
一言で言えば、大友克洋らに先駆けたマンガ表現の革新者だ。
その宮谷には、入手困難になっている作品や、一度も単行本化されていない作品が少なくない。
この『孔雀風琴』は前者で、過去に2度ほど書籍化されたことがあるものの、すでに入手困難になっていた。
また、そもそも元の作品が未完であり、第一部のみしか発表されていない。
その『孔雀風琴』第一部が、今回初めて電子書籍化された。
私は、80年代初頭の『ビッグゴールド』発表時に読んだ。それ以来の再読である。
印象は初読時とほぼ同じ。
精緻に描き込みがなされた絵はすごいが、ストーリーはなんだかよくわからない。『ベニスに死す』と『パノラマ島綺譚』と三島由紀夫を混ぜたみたいなカオスなのである。
主人公の妖艶な美少年に、富豪の中年男が執着するあたりが『ベニスに死す』ぽい。
その中年男が風が吹き渡る谷に巨大なパイプオルガンを作ろうとしている(それが「孔雀風琴」)あたりが、『パノラマ島綺譚』ぽい。
そして、全体は何となく三島由紀夫ぽい。
話としてはいちばん盛り上がったところで中断されていて、続きが読みたいという思いが湧き上がる。
ただ、あまりにすごい描き込みの絵なので、フツーの雑誌連載ではとても労力に見合わないだろうし、宮谷も続きを描く気はなさそうに思える。
中国の富裕層の宮谷一彦マニア(きっといると思う)とかが、「金に糸目はつけないから、続きを描いてくれ」と、札束を積んで依頼してくれないものか。
中古の単行本が高値を呼んでいた幻の作品だから、わずか600円台で電子書籍版が手に入るなら安いもの。
絵を味わうためだけにでも手に入れる価値がある。詳細をみるコメント0件をすべて表示