── 小池 真理子《月夜の森の梟 20211105 朝日新聞出版》
http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/B09KRPPVDK
…… 「作為が抜け、テキストの哀しみに向き合えた」
♀小池 真理子 作家 19521028 東京 /成蹊大学文学部卒業/藤田 宜永の妻
《妻の女友達 1989‥‥ 日本推理作家協会賞(短編部門》
《恋 1996‥‥ 直木賞》《欲望 1998‥‥ 島 清恋愛文学賞》
《虹の彼方 2006‥‥ 柴田 錬三郎賞》
《無花果の森 2012‥‥ 芸術選奨文部科学大臣賞》
《沈黙のひと 2013‥‥ 吉川 英治文学賞》他に《二重生活》
《無伴奏》《千日のマリア》《モンローが死んだ日》など。
── 小池 真理子《ふしぎな話 2021‥‥ 怪奇譚傑作選》紹介文より。
藤田 宜永 作家 19500412 福井 長野 20200130 69 /1984-2020 小池 真理子の夫
/Fujita, Yoshinaga/別名=入江 香
加藤 修 記者 19‥‥‥ ‥‥ /
♀小池 百合子 都知事 19520715 芦屋 /20[20160802-] 衆参院議員
https://twilog.org/awalibrary/search?word=%E5%B0%8F%E6%B1%A0%20%E7%99%BE%E5%90%88%E5%AD%90&ao=a
♀横山 智子 挿画 19‥‥‥ ‥‥ /武蔵野美術大学卆
https://book.asahi.com/article/14489329
── エッセイ《好書好日 20211228 14:10 配信)を画家が語る
(写真・加藤 修)↓Yokoyama Tomoko YouTube Gallery
https://www.youtube.com/channel/UCHAEF5Nb_G7XZDHHL6bly9Q
《月夜の森の梟》の世界をさし絵で支えたのが画家の横山 智子さん
だった。“横山ブルー”ともいえる青色で一貫した絵は、哀しみを受け
とめるとともに、人間の力の及ばぬ自然の摂理さえも感じさせる。小池
真理子さんの連載に伴走した感想を聞いた。
【画像】《月夜の森の梟》横山 智子さんの挿絵をまとめて見る。
…… 小池 真理子さんの作品世界に寄り添い、読む前と読んだ後でさ
し絵の見え方が変わるような重層性をもった絵でした。
これまで読者としてさし絵を見てきたときに、テキストとあまりにか
け離れていると、それぞれが作品世界として独立したものであっても、
つまらないと感じていました。おこがましいのですが、さし絵とテキス
トはそれぞれが刺激しあい、両方がさらに高まるようなものであるべき
だと信じています。
真理子さんの原稿を編集者から転送してもらうのは、毎週月曜日でし
た。原稿を読み、火曜日に構想を練って、下絵を描き、木曜日、遅くと
も金曜日には編集部に絵を渡すというリズムです。常に頭のなかが「梟」
で一杯で、空いている時間があっても、ほかの絵が描けないくらいでし
た。連載期間を振り返ると、何も考えずに駆け抜けたという印象です。
…… 哀しみを湛えた青色が印象的でした。
母を看取った過程で、描けなくなった時期がありました。「生」と
「死」が一体だと感じ、なんとか絵と向き合えるようになったときに選
んだのがブルーでした。どの瞬間も美しく存在し続けるものの象徴とし
て青いバラを描くなかで、ブルーの色調には哀しみだけでなく、希望や
永遠の記憶など、さまざまな思いを込められることがわかりました。
《月夜の森の梟》の単行本のカバーの絵は夜明けの森の風景です。どん
なに今はつらくとも、夜は明け、未来に希望があることを意識して描い
ています。
…… さし絵に対する読者からの反響も回を追うごとに増えていきまし
た。
さし絵に感想をもらうことはめったにないので、たくさんの方に的確
な感想をいただき、うれしかったです。スタート当初は毎回どこかに梟
を出そうかとも考えていました。そんな作為が消えてしまうほど真理子
さんの強い作品世界にのめり込むうちに、自然体での向き合い方ができ
るようになってきました。印象に残っているのは、藤田 宜永さんのジー
ンズを処分する話(第29回)のさし絵で、空中を見ている猫の絵を描い
たことです。きっと猫には何かが見えている、あるいは処分してよかっ
たんだよと藤田さんが言いにきたのを感じていると読者の方たちが感想
を送ってくれて、描き続ける勇気がわくとともに、読者の方たちとの絆
を感じました。
新聞としてはさし絵が大きいことに加え、縦長の特殊な形だったので、
構図には苦労しました。最初は余白が怖かったのですが、鏡に映った猫
の絵を描いたときに思い切ってみました。自分の制作では選ばないであ
ろうウミガメを描くなど、大変だったけれど、一枚一枚の絵が印象に残
っています。
…… 小池さんとは文庫の装画などを通して公私ともに親交があるそう
ですね。
「梟」の原稿が届くと、なにをおいても真っ先に読みます。藤田さん
を喪ったつらい記憶を思い出し、血を流すようにして書いている真理子
さんが大丈夫だろうかと心配するのですが、読み出すと、作家としての
真理子さんに凄みさえ感じました。
リアルな日常を作家としての観察眼で切り取ったエッセーを読み進め
るうちに真理子さんが書くように「可笑しくて泣いていた」こともあれ
ば、作家としての超絶技巧を尽くした短編小説のような味わいに呆然と
することもありました。父が見た「雪女」の記憶を自らに重ねた第28回
はエッセーという概念を超えた作品でした。雪のなかの情景が浮かび、
一文字ずつたどっていくと、あっと驚かされる。真理子さんのおっしゃ
っているように、計算して書いたのではなく、哀しみを見つめ、そのと
き書きたいものを書いたからこそ、小説家としての経験の結晶のような
作品が生まれたのだと思います。この作品にはどんな絵を添えるべきか
悩みました。「雪女」を描いてしまっては台なしです。悩んだ末に、積
もった雪の上でこちらを振り返る「てん」を描きました。月夜の森に帰
っていく「てん」なのか、「てん」もまた人寂しく、孤独なのか、見る
人に解釈はゆだねています。
家族を喪った人間として共感できると同時に、作家同士の夫婦の踏み
込めない領域が描かれることもあって、そのバランスが絶妙でした。二
人が一緒に暮らすようになって持ち寄った三島 由紀夫作品が重なって
いなかったことや、藤田さんが病を得てから、三島よりも太宰治の話を
好んでするようになったことを描いた第22回を読んだときは、表現者と
して二人がひかれ合った理由が垣間見えた気がしました。
初めての新聞連載にもかかわらず、真理子さんには自由に描いていい
と言ってもらえました。一生懸命に駆け抜けた記憶しかありませんが、
自分の画家としての一生のなかでも大切な仕事になりました。
小池 真理子さんのエッセー《月夜の森の梟》は2020年6月から翌年6
月末まで、朝日新聞土曜別刷り「be」に掲載された。2020年1月に死去
した夫であり、作家の藤田 宜永さんをしのぶとともに、哀しみを通し
て人間存在の本質を問う内容には大きな反響があった。便箋10枚、20枚
といった手紙が届き、メールを含めれば千通近いメッセージが寄せられ
ていた。11月に連載をまとめた単行本《月夜の森の梟 朝日新聞出版》
が刊行されたことに合わせ、追悼を文学に高めたと評されたエッセーの
一部を紹介するとともに、その魅力を探っていく。(文・加藤 修)
<横山 智子さんプロフィール>
画家。武蔵野美術大学油絵学科卒。《二重生活》《ソナチネ》など小池
真理子さんの本を中心に装画やさし絵を手がける。11月29日まで東京・
日本橋三越美術サロンで個展を開催中。2022年9月には《月夜の森の梟》
のさし絵全作を公開する個展を予定している。横山 智子YouTubeギャラ
リーではさし絵の制作過程を公開している。
(20211228)