「日本列島改造論」と鉄道 (交通新聞社新書) [Kindle]

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  • 戦後の日本の鉄道の歴史について、主に「日本列島改造論」など、その時々の政策と対比して論じたもの。鉄道オタクが書いた本とも言えるのであろうが、学術的なアプローチで、鉄道整備・廃止、国の関与と独立採算など、鉄道行政との関連について詳しく研究している。否定的な論調の多い「日本列島改造論」だが、鉄道行政に関連しての適否の意見には納得できた。勉強になった1冊。

    「現在のJR在来線ネットワークの大部分は、明治・大正時代に制定された関係法令に基づいて建設されている」p6
    「(赤字路線の増加)鉄建公団が誕生し、東海道新幹線が開業した昭和39年に、国鉄の単年度収支は8年ぶりに赤字に転落。その後、昭和62年の国鉄分割・民営化まで、二度と黒字に戻らなかった」p51
    「(新幹線の建設)あくまでも「新線の建設」ではなく「すでにある路線の複々線化」なので、鉄道敷設法に建設区間が書かれていなくても関係ないし、鉄建審や国会の承認もいらず国鉄の経営判断で建設できる、という理屈が成り立つ。横浜と新横浜、岐阜と岐阜羽島など、駅まで別なのに「あれは在来線の付け足しだ」と言い張るのは屁理屈同然の論法だが、その論法が、鉄建審や国会の審議など鉄道敷設法の手順を踏まずに建設することを可能にした」p53
    「(反対運動で建設できなかった成田新幹線)事態が動いたのは昭和63年のこと。運輸大臣を務めていた石原慎太郎が、すでに完成していた成田新幹線の施設を利用して在来線を建設し、JR成田線と総武本線経由で東京駅と直結するプランを発表したのだ。この案に基づき、京成電鉄も新しい成田空港駅に乗り入れる計画が進められた。そして平成3年、JRの成田エクスプレスと京成スカイライナーが同時に乗り入れる現在の成田空港駅が誕生したのである」p90
    「(整備新幹線(:東北、北海道、北陸、九州)とそれ以外の12路線(基本計画線))田中角栄が首相の座にあった2年半の間に、この(日本列島改造論に書かれていた)12路線までが、国として将来建設することを想定した新幹線として法的に位置づけられた。これらは、田中内閣の終焉とともに話が終わるわけではない。『日本列島改造論』に描かれた「全国新幹線鉄道網理想図」をなぞるように整備新幹線や基本計画線を定めた国策は、それから半世紀が経った令和の今もなお、我が国の高速鉄道政策の根幹として効力を有していることは、日本国民にもっと知られてよい事実ではないだろうか」p93
    「昭和50年には国鉄内の一部の労働組合が「ストライキ権を求めるためのストライキ」(いわゆる「スト権スト」)を決行し、大半の列車が8日間もストップ。国民生活に大きな影響を与えたが、これを機に鉄道貨物輸送に見切りをつけた物流業者が、トラック輸送への切替を促進していくことになった」p96
    「現在も新幹線の運行が午前6時から午後12時までに限られているのは、この環境基準が「主として住居の用に供される地域」において「午前6時から午後12時までの間の新幹線鉄道騒音に適用するものとする」と定めていることに基づいている」p98
    「運賃計算で使用する営業キロは在来線と全く同じに設定されている。並行在来線と接続しない新横浜は横浜と、岐阜羽島は岐阜と同じ営業キロが設定されている。同一路線なのだから、岐阜と岐阜羽島は同じ駅とみなすのである」p114
    「(整備新幹線の取り扱いについて 政府与党間合意)(1)建設着工する区間の並行在来線については、従来通り、開業時にJRの経営から分離することとする」p119
    「『日本列島改造論』は鉄道事業への公的な関与の意義を強調し、その後は日本全体が民営化へシフトしたり、規制緩和の流れの中で鉄道事業に対する国の統制が弱まったりした。そして今また、一定限度の公的関与の必要性を認める方向への揺り戻しが起きている」p205

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著者プロフィール

昭和50年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒業、筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業科学専攻博士後期課程単位取得退学。日本及び東アジアの近現代交通史や鉄道に関する研究・文芸活動を専門とする。平成7年、日本国内のJR線約2万キロを全線完乗。世界70ヵ国余りにおける鉄道乗車距離の総延長は8万キロを超える。平成28年、『大日本帝国の海外鉄道』(現在は『改訂新版 大日本帝国の海外鉄道』扶桑社)で第41回交通図書賞奨励賞を受賞。 『鉄道と国家──「我田引鉄」の近現代史』(講談社現代新書)、『旅行ガイドブックから読み解く 明治・大正・昭和 日本人のアジア観光』(草思社)、『宮脇俊三の紀行文学を読む』(中央公論新社)、『アジアの停車場──ウラジオストクからイスタンブールへ』(三和書籍)、『「日本列島改造論」と鉄道──田中角栄が描いた路線網』(交通新聞社新書)など著書多数。日本文藝家協会会員。

「2022年 『アジアの一期一会』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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