震える天秤 (角川文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 三十七歳のフリージャーナリスト・俊藤律は、雑誌社の依頼で、老人がアクセルとブレーキを踏み間違えて軽トラでコンビニに突っ込み店員が轢き殺された事故を取材するため、福井に向かった。「この事故を皮切りに、高齢者の運転問題についてルポまとめてくんねえかな」。

    被害者=コンビニ店長は周りに迷惑を撒き散らすチンピラで、その父親は金の亡者。息子を悼む気持ちが微塵もなく、コンビニ本社から如何に多く金を引き出すかに腐心するばかりで、俊藤にも自身に都合のよい記事を書くよう迫る始末。

    一方、加害者の住む辺境の地・埜ヶ谷村で取材を進めると、どうも村全体が隠し事をしているように感じられる。事故に遭遇したアルバイト店員・七海も埜ヶ谷村の住人で、俊藤の取材になかなか応じてくれない。

    俊藤の粘り強い取材でやがて明らかとなる過去の因果と事件(事故?)の真相。俊藤のジャーナリスト魂は、掴んだ事実にどう対処するのか?

    社会派ミステリーの力作。過疎に疲弊する閉鎖的村社会の実態をもっと詳しく描いてもよかったかな。

  • 火サスの様な展開
    最後にフリージャーナリスト律がどんな判断をするのか!乞うご期待です。
    多少の謎は残るものの私も律と同じようにするかなぁ、、、

  • 単なる高齢者によるアクセル
    とブレーキの踏み間違えの事故
    が題材かと思って読み始めた。
    封鎖的な村、成り上がりの被害
    者の義父である店長に、モラハ
    ラな雰囲気の被害者。
    フリーランスの主人公が、事件  
    の真相に迫る。
    読み応えある作品であった。
    海神に出てくるフリーランスの
    もう一つの事件。

  • 人類は法の下で生きている。歴史を見ても、法という考え方は古い。古代と呼ばれるような時代、法はすでにあり、そこで生きる人々は法に依拠し、法に従い、ときに法に抗って生きてきた。抗えば法に基づいて裁きを受け、法が決めた罰則を甘受することになる。ゆえに、法はいつも、人の罪に対する防波堤として機能してきた。
    人の罪を定め、罪に見合った罰則が用意され、人々の秩序の維持装置としてそこにある。それが法だろう。

    ところで、法もまた「人」が生み出したものである。人が自らを律するために編み出した秩序維持装置といえば聞こえはいい。だが、法というものが権力者によって恣意的に定められ、権力者がおのが権力を維持し続けるための道具となっていたともいえるのではないだろうか。

    『震える天秤』は、法の及ぶ限界に挑んだ作品といえるかもしれない。
    日々ニュースに流れる高齢者の運転の問題。曰く「アクセルとブレーキの踏み間違え」、曰く「事故を起こした高齢者は認知症の疑いあり」――。これらはもちろん法にしたがってその罪の度合いが検証されるが、認知症と判定されれば引き起こしてしまった事故に対する罪は問われない可能性もある。その多くは、最近しばしば見聞きする多くの事故の一つとして、瞬時に消費されてしまうだろう。
    たとえ一見すると事故に見える出来事の裏に、高齢者による運転事故とは別の何らかの思惑が隠れていたとしても、それは事故というセンセーショナルなニュースに隠されてしまうかもしれない。思惑があるということは、つまり何らかの意図や目的が存在することをいう。思惑を隠蔽するために事故という事象が恣意的に使われていたのだとしたら……?

    この物語には、過疎化が進み、限界集落の典型のような村が舞台として用意されている。こうした村には、パブリックな法とは異なる「ムラ社会」にのみ適用されるしきたりが存在する。村を一歩でも出ればそのしきたりは無効化されるが、村に住んでいる限りそれは”絶対”である。往々にしてしきたりは明文化されることはないが、村に住む人々は都会と比べて移動が少なく、人々の新陳代謝が低い。そこに住む人々は、固定化され、しきたりは口伝えに伝承されてゆく。一般にはしきたりを犯すいわゆる「掟破り」には、一般の法とは異なる重い罰が課されるように思う。そして、その村にとどまる限り、それはあらゆる法に優先して適用される。

    さて『震える天秤』では、その村に住む人が、「村の外で」事故を起こす。村の外での事故を警察が捜査するのだが、彼らは当然現行法に基づいて「認知症の疑いのある高齢者が引き起こした、アクセルとブレーキを踏み間違えたことによる事故」という紋切り型の見立てを導き出すだろう。その結果として人が一人命を落としたとしても、法の下では事故は事故であり、認知症を患っている高齢者が引き起こしたのであれば罪には問えない可能性だってある。
    一方で、村に住む者たちの結束は固い。超法規的ともいえるしきたりで、彼らは強固につながっている。それはしばしば過酷な環境下で生きなければならない村という環境に適応するための知恵でもあろう。都会のように、人間関係を疎結合にしていては生きられない。しきたりといった結束を固めるための装置は、村で生きるために不可欠なものである。だが、しかししきたりはことほど左様に強固であるがために、村の内外を排他的に分断する。
    この物語では、村という結界の中で生きる人々が、結界の外で起こした事故に村の構成員としてどう向き合うのか。そのときに法としきたりはどう機能するのか。それらを描こうとした実験小説が、この『震える天秤』なのではないかと思えた。
    取材を試みたフリージャーナリストの視点を通して、しきたりというベール越しに見えてくる真実、すなわち村人たちの思惑によって、最初に出会った事故はその姿をどんどん変化させてゆく。それをジャーナリストとともに追いかける読書体験は、思いのほか楽しく、かつ悲しい。
    そして、しきたりに縛られる村人と、事故に関与しつつも村の外で生き、しきたりの縛りなく事故と向き合う村外の人々のコントラストもまた読みどころであるに違いない。

  • なかなか面白くてスラスラ読んだ。久々の社会派。老人の免許返納問題から、若者の荒い運転問題など。
    コンビニに突っ込んだ軽トラの運転手は認知症だった?被害者であるコンビニ店長のことや周りの人間を当たっていくにつれ、ライターの律は隠された真実にたどり着く。

    うちも1人1台の田舎ではあるから、いざ免許返納するかどうかとなったら大変だろうなー。
    他の方の感想もちらっと読んだけど、確かにラストが甘いというか、もう一歩踏み込んでくれても良かったのかなとも思う。悪い夏ほどのイヤミス感はなく(そもそもこの話はイヤミスではないな)、ちょっとふわっとした終わり方だった。

  • 「てんびん」意味
    【天秤】
    秤(はかり)の一種。中央を支えた梃子(てこ)の両端に皿をつるし、一方に測る物を、他方に分銅(ふんどう)を載せ、梃子が水平になるかどうかを見て重さを決める。
     「―にかける」(二つのうちからどちらかを選ばなければならない時、優劣・損得を比べてみる)

    わが国は、世界でも類を見ない空前の超高齢社会を迎えており、二〇二五年にはピークに達すると言われている。約五人に一人が七十五歳以上となり、老人ばかりの日本が誕生する。
    読者である自分がまさに75歳になる⁉️

    「二〇二五年には八百万人を超える団塊世代が七十五歳を迎えます。彼らを含めると、その時点で七十五歳以上のドライバーは千七百万人に達することがわかっているんです。糸井さんは悲観的になる必要はないとおっしゃっていましたが、とんでもない。悲観的にならざるを得ない危機がすぐそこに迫っているんです」

    高齢男性の運転する軽トラックがコンビニに突っ込み、店員を轢き殺す大事故が発生。
    アクセルとブレーキを踏み違えたという加害者の老人は認知症を疑われている。
    事故を取材するライターの俊藤律は、加害者が住んでいた奇妙な風習の残る村・埜ヶ谷村を訪ねるが……。

    「この村はおかしい。皆で何かを隠している」。

    関係者や村の過去を探る取材の末に、律は衝撃の真相に辿り着く――。
    横溝賞出身作家が放つ迫真の社会派ミステリ!

  • 免許返納を扱った作品この作品で染井為人さんのブームが来ました。世の中とリンクしながらも誰も悪くない難しさを説いた作品。いいですね。面白い。

  • 閉ざされた村にどんな恐ろしい風習が隠されているのかと期待していましたが、そう言った類のお話ではありませんでした。主人公が情報を集め、真実に近づいていく様は面白かったです。

  • 高齢ドライバーによる事故の取材に福井の山村に向かった記者の俊藤。やがて彼はやたらと老人が認知症であったことを強調する村人の態度に疑念を抱く。真相を追う記者と村の安寧を願う村人との静かな攻防に気付けば頁は最後の1枚に。自分ならどちらに錘を乗せただろうか。

  • 結局しっくり来ない結末だった。
    父親が実際どうなったのかも、結局のところなぜ七海がいるのにって言うのにやたらこだわるのに出した答えが思い込み。
    終わりが全くしっくり来なかった。

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著者プロフィール

染井為人(そめい・ためひと)
1983年千葉県生まれ。芸能プロダクションにて、マネージャーや舞台などのプロデューサーを務める。2017年『悪い夏』で横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞しデビュー。本作は単行本刊行時に読書メーター注目本ランキング1位を獲得する。『正体』がWOWOWでドラマ化。他の著書に『正義の申し子』『震える天秤』『海神』『鎮魂』などがある。


「2023年 『滅茶苦茶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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