夢ノ町本通り―ブック・エッセイ― [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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    僕は読み終えた本をほとんど手元に置かない。たまたま手に入った希少価値のある本(例えばシーナ兄が初めて書いた本『クレジットとキャッシュレス社会』など)と,自分なりに「これだけは手元に置いておきたいなぁ」という本だけが,押し入れ奥の棚にわずかだけ在する。その中には沢木耕太郎の『深夜特急』もある。

    本書 前半部の話題に ”大阪 天神橋筋商店街” にまつわるエピソードが出て来る。日本一長いアーケード商店街。 僕も何度か行った事がある。地下鉄南森町駅で降りて商店街通りからは西へちょっと外れた場所にある「D-45」というライブ酒場を年に一二回訪れる。一回は5月連休に北大阪 緑地公園野外音楽堂で催される『春一番音楽会』の観覧がてら。もう一回あるとしたら4月の初旬頃に神戸三宮の「東極楽寺」で催される『おはなまつり 音楽会』観覧の時。いずれも一泊しての音楽三昧という感じだ。

    本編中盤は カシアスクレイ=モハメッドアリ の対戦記だけでお腹いっぱいに盛り上がっている。本書は過去30年に及ぶ「本」にまつわる沢木の長短エッセイを集めて並び変え一冊にして上梓したものらしいが,題名は『夢ノ町本通+モハメッドアリについて』に変えた方がいいんじゃないか,笑う。

    開高健と竹中労の物言い を比較したエッセイがある。これぞまさに「歯に衣着せぬ発言」というやつで,一方の発言(ここでは 竹中労)に賛成する事で,他方(開高健)の発言を全否定していて,その内容と云うかテーマが「売春」に関わる事だったりするので,これはもう開高に喧嘩を売っているとしか思えない発言になっている。沢木にはこの様ないわば辛らつなエッセイが結構多い。なので面白いのだが。

    後半に「本を編む」という章がある。何のことは無い,読んだ本の書評,読書感想文だ。そしてあろう事か かなりの部分でその本の荒筋を書き写している。もちろん沢木の書く文章だから読みごたえはあるが内容は読んだ本の要約である。沢木耕太郎でもこういう創作性のほとんど無い感想文を書くのだなぁ と思った。30年の間に書いた文章の中には注文主の要望に沿って書かざるを得なかったであろう こういう稚拙感想文だってあってもおかしくは無いのだろう。

  •  書に関する子ども時代から現代に至るまでの著者のエピソードの数々。後半は圧倒的に山本周五郎の短編の紹介であり、著者が周五郎全集4巻の解説を記載したという説明もあったが、著者はかなり周五郎に入れ込んでいるように思った。時代物であるが故の旧さを感じさせないこと、そこはかとなく哀しみを抱えたストーリー、共通して登場する理想的な女性像など、その魅力が十分に語られる。黒澤明監督もかなり映画化したし、「その木戸を通って」「雨あがる」なども脚本を書いていたという説明が良く分かる。ハリーポッターの日本語訳出版逸話、モハメド・アリ(キャシアス・クレイ)の一生の説明、マリリン・モンローとビリーワイルダー監督の交流話の紹介も該当書は良く分からなくとも愉しい。笑福亭鶴瓶、桂南光、桂文珍との古本屋・読書を通じての交流も興味深く、落語家は読書家が多いのだと納得した。

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。横浜国立大学卒業。73年『若き実力者たち』で、ルポライターとしてデビュー。79年『テロルの決算』で「大宅壮一ノンフィクション賞」、82年『一瞬の夏』で「新田次郎文学賞」、85年『バーボン・ストリート』で「講談社エッセイ賞」を受賞する。86年から刊行する『深夜特急』3部作では、93年に「JTB紀行文学賞」を受賞する。2000年、初の書き下ろし長編小説『血の味』を刊行し、06年『凍』で「講談社ノンフィクション賞」、14年『キャパの十字架』で「司馬遼太郎賞」、23年『天路の旅人』で「読売文学賞」を受賞する。

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