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- / ISBN・EAN: 4907953222700
感想・レビュー・書評
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しばらく前に映画館で観た。
『きみの鳥はうたえる』ですばらしい才能を見せた三宅唱監督の新たな作品が実現したことを祝福したい気持ちで足を運んだ。もう一度観るつもりだ。
耳の聞こえない女性プロボクサー、小河恵子を主人公にした映画だ。音のない世界にひとり立ち闘い続ける彼女と、その家族、荒川の小さなボクシングジムに集まる人たちなどとの交流、または非交流をみずみずしく描いている。
この作品は、耳の聞こえない恵子が主人公のため、ときおり字幕が入るのだが、これはおそらく、彼女を通して、無声映画へのオマージュにもなっていると思った。
また、意図的に字幕が省かれているシーンもあり、私たちはその意味を求めて、映像を食い入るように見つめることになる。
三宅監督の作品は、なにげない場面でもっとも胸にぐっと迫ってくるのが特徴だと感じるのは自分だけか。岸井ゆきのの好演技(どれだけ撮影前に準備したかがよくわかる)だけが理由ではないだろう。演出の妙である。
そして映像。すでに観た人はいくらか違和感を覚えたかもしれないが本作は16ミリフィルムで撮られている。
だからわりと画面が粗く、光の細かな粒子が飛んでいるかのように見える。これがほんとに効果的で、現実はつるんとしたものではなかったのだ、ということを思い出させられ、同時に懐かしくもなった。
ちょっとセンチメンタルな解釈をすると、人はつねに独りだし(本作でもそのようなことを恵子が言うシーンが出てくる)、何もそれは必ずしもネガティヴなことではない、とその流動する粒子が語っているようだった。
恵子は多くは語らないが、孤独を強さ/弱さで語ることは、おそらく間違っているのだとわかっている。おそらく彼女の迷いは、別のところにある。
そう、強さと弱さという言葉では決して名指せないことが、本作では描かれていた。
もうほんとに泣きそうになったのは、夜、鉄橋の下を恵子がただ通り抜けるシーンだ。
ちょうど、鉄橋の上を列車が通過する。その車内灯が、枕木の、そして鉄橋の隙間を回折し、鉄橋の下をまるでフラッシュをたいたかのようにくりかえし彼女のシルエットを照らす。
すげえ、と思わず感嘆の声を漏らしてしまった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
嘘がつけず愛想笑いが苦手なケイコ(岸井ゆきの)は、生まれつきの聴覚障害で、両耳とも聞こえない。
再開発が進む下町の一角にある小さなボクシングジムで日々鍛錬を重ねる彼女は、ホテルの清掃員をしながらプロボクサーとしてリングに立ち続ける。
母からは「いつまで続けるつもりなの?」と心配され、言葉にできない想いが心の中に溜まっていく。
「一度、お休みしたいです」と書き留めた会長宛ての手紙を出せずにいたある日、ジムが閉鎖されることを知り、ケイコの心が動き出す。
聴覚障害と向き合いながら実際にプロボクサーとしてリングに立った小笠原恵子さんをモデルに、彼女の生き方に着想を得て生まれたケイコを、「きみの鳥はうたえる」の三宅唱監督が16mmフィルムに焼き付けた青春物語。
岸井ゆきのが、日本アカデミー主演女優賞作品。
小笠原恵子さんをモデルに、岸井ゆきのさんがケイコを演じたということもあるけど、ほとんどセリフなしの中でナチュラルな表情や鍛え上げた背中など、体全体で日々の生活の中で溜まっていく言葉になりきらない苛立ちややるせなさとボクシングで自分の想いをぶつけて発散している時の喜びを、岸井ゆきのさんが生々しく生き生きと演じる体当たりの演技とボクシングシーンが、ドキュメンタリーのように生々しい。
ケイコが、通うジムの会長の三浦友和さんの、闘病しながらもケイコの才能と器量に惚れ込み夢を託すサイドストーリーが、ケイコのストーリーとシンクロして音楽を最小限にしたドキュメンタリーチックな演出がより熱く心を動かす青春映画。 -
聴覚障害を持つ女子プロボクサーの物語である。
ヒロインの岸井ゆきのが、素晴らしい熱演。小柄な小動物系体型なのに、ちゃんとボクサーに見える。大したものだ。
すこぶる地味な映画だが、生活の手触りまできちんと描いた、地に足のついた雰囲気に好感を覚えた。
聴覚障害を持つ女子ボクサーというと、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(花沢健吾のマンガ)のヒロイン(副主人公)・花を思い出す。
モデルが共通なのかもしれない。ちなみに、本作は実在の聴覚障害者(元)ボクサー・ 小笠原恵子の自伝『負けないで!』をベースにしている。 -
主人公・ケイコの世界には音がないはずなのに、見終わった後、妙に音に敏感になっているのが不思議だ。
私が昔からボクシング映画に惹かれるのは、ボクシングという競技に深い孤独性を感じるからかもしれない、と思うことがあるが、
そこに聾という要素が加わったとき、その孤独さは私には推しはかりがたいほどであるように感じる。
「話したって人はひとりでしょ?」とケイコは言った。
荒川に対峙するケイコの、刺すような眼差し。
人が少なくなったジムのパイプ椅子に座る会長の、哀愁漂う背中。
言わずして多くを語る演技の凄みを見た。
言わなくたってわかるやつにはわかるし、わからないやつにはわからない。
虚飾も説明的演出もない、ストレートだけれど人間模様の深淵に迫る、良質な映画である。 -
岸井ゆきのは良い役者。目がいい。
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耳の聞こえない女子プロボクサーのお話
主演の岸井ゆきのさんのセリフは「ハイ」だけです。当然手話ですが、聾唖者どおしの手話には字幕もつきません!なので、観客は目を澄まして画面に集中します。
でもなんとなく表情で話している内容がわかる気がします。すごいな。瞳の強さが印象的で瞳でその時の感情が表現されています。まさに、「目を澄まして」る感じですね。
日本アカデミー賞主演女優賞の受賞も納得ですね。ただ、物語的には面白くないけど。 -
ケイコ目を澄ませて
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女子のボクシングと言えば「ミリオンダラーベイビー」を思い出すね。あれはまさかの結末で驚いたんだよ。
耳が聞こえない…って状態だと何かが動く気配を掴めるのかな?掴めないと思うな…だから「目を澄ませて」なんて題名なんだろうか?
何故彼女はボクシングやってるのかな?決して強くもないし上手くもない。生きにくい自身の境遇をボクシングをする事で気を紛らわせてるような…そんな印象を受ける。鬱憤の根幹はまだ分からないけど働いてても家にいてもボクシングやってても全く楽しんでる様子がないのは何だろうね。
彼女の生きる小さな世界の中で自分に気づいてくれた会長がジムが好きだったんだな…自分の唯一の居場所だったのかもしれないな。
最後の試合は閉鎖になるジム倒れた会長ボクシングを辞めたかった自分…あれもこれも勝手に背負っちゃって気負ってしまったか…
河原で対戦相手に会った後の複雑な顔…素晴らしかった。いろんな感情が彼女の中で渦巻いていたみたいだったけど、負けて悔しかった…が一番強い感情だったんじゃないかな。
ものすごく地味な作品で取り立てて何か起こるってほどでもない。
ただ彼女の平凡で地味な毎日が繰り返されていくだけ。だけどその平凡な日々に沸る思いや鬱々蔓延る負の感情や思慕の念…多様な感情が渦巻いていた。なんかしんどい物語だった気がする。 -
聴覚障害ということは口もあまり利けない。そこにハードル高いボクシングシーンと難易度の高い役に岸井ゆきが挑戦、クリアしてる。
会長の三浦友和もうまい俳優さんだなと改め思う。
練習シーンがメインで肝心の試合シーンは少ない。
こうしたディテイル豊かな等身大の女性の映画は好きだが、数ある傑作に比べるとあまり引き込む力が弱かった。
Youtuberシネコト2022年6位
映画芸術 2022年日本映画ベワーストテン 8位
2022年 第96回 キネマ旬報ベスト・テン 日本映画1位" -
この映画を観て無性に体を動かしたくなった。