崖っぷち令嬢は黒騎士様を惚れさせたい!: 1【イラスト特典付】 (百合姫コミックス) [Kindle]

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  • 一迅社 (2024年8月17日発売)
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感想・レビュー・書評

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  • 愛と打算を胸にして! 困惑渦巻くマリアージュ。

    まず、ダークヒーローというには禍々しすぎる黒騎士フォルムをデザインできた時点で満点だと思います。
    ある意味でこの作品の顔だと思いますから。主人公伴侶の顔と身長差と並び、ここは絶対に手を抜けない。
    表紙右上で確認できますが、確かにこの造形なら恐れられ誤解が誤解を呼ぶのも納得というか。

    あとは表紙左側でも確認できますが、黒騎士様の中身である高身長仏頂面女子も美女であると同時に無骨さから逃げていません。
    主人公の性格を含め、作品すべての前提を納得させるための掴みの部分は相当巧みといえます。

    そんなわけで作品のコンセプトですが、表紙とあらすじを読めば一目瞭然だとは思われます。
    すなわち誰にも気を許さず孤独に振る舞うがあまり周囲からは餓狼のように思われがちなヒーローの凍てついた心が、献身的なヒロインによって溶かされていく過程を描く――? と、まぁ。実像がどうであれ、異性間ならよくありそうなものですが、女性同士の百合作品ならそれはもう斬新なプロットですね。

    あと少し話は飛びますが私、「崖っぷち令嬢」で何気にググってみたんです。
    すると私の眼前に飛び込んできたその数に驚かされました。「悪役令嬢」には絶対数で及びはつかないにしても流行ってるの? ひょっとしたら乙女たちの界隈ではサブジャンルくらいには定着してるの? 
    って思うくらいに。閑話休題、なにも知らない門外漢なりに思ったことをつらつら書き連ねてみます。

    そんなわけで主人公の「クラリス」嬢に話を移すと。
    病気の妹と破産寸前の実家を慮る良識と、追い詰められて一発逆転を試みる打算が結びついたキャラです。
    でも、読者の感触としてはまずユカイなんです。後ろ向き思考からはサヨナラバイバイな、とにかく前を向いてアッパー姿勢でポジティブな思考の持ち主なのです。見てると元気をもらえるんです。

    貧乏なので自前で炊事洗濯をしないといけない。でも貴族の常識には通じている。そこも特徴ですね。
    逆境がなんぼのじゃい! って窮地に飛び込んでいけるこの手の令嬢でも、家事か礼儀作法のどちらかには疎いと勝手に思っていただけに。両方巧みなタイプに出会えたことはなかなか新鮮な体験でしたよ。

    と。もちろん統計を取ったわけではないので、その辺は私なりの拙い実感に過ぎないとしても。
    まぁ、それはそう。きちんと淑女としての教育と家庭内での愛情を受けてまっすぐで強靱な人格を培ったことで、作品を下支えする主人公が育ってくれたと思うとなんかほっこりしました。

    勇ましく、たくましく、下にも分け隔てなく接する。でも貴族令嬢としての矜持は捨てていない。
    そういった主人公のバランス感覚はこの作品を成立させるための必須要素と言えるのかもしれません。
    で、そんなクラリス嬢が惚れさせたいのが冒頭で申し上げた通り、誤解を避けては通れない威圧感の塊なバトルフォームを持つ辺境伯「フロスト」様です。例のごとく男性と偽っているわけですが……。

    クラリス嬢とフロスト様が素顔で初対面した際のやり取りにさっそく引き込まれましたね。
    殺伐としているけど、とにかくコミカルというか。クラリス嬢はこうなってしまったら通りがかった船! 女は度胸!! とばかりに猛然と手探りでアタックを開始するわけです。

    実は女性だという弱みを握っただ握らないだの駆け引きが、さっそく明後日の方向に飛んでいく勢いでした。よく考えずとも同性同士の婚姻関係になるはずなのに、全然気になりませんでした。
    作中世界観的に考えて同性愛がタブーかはわかりませんが、少なくとも一般的ではないとは思われますのに、勢い任せで読者にその辺を呑みこませるのはひょっとして吊り橋効果でしょうか?(たぶん違う)

    もっとも本作のレーベルは百合姫コミックスなのですが。同時に、その看板に甘えていない剛毅っぷりも気に入ったわけです。要所要所で図々しいクラリス嬢の押しの強さがツボにはまったというのもあります。
    ……言ってしまえば、普通なら仮面カップルな無情で終わるに過ぎないハズの話です。
    それを積極的アタックで愛に塗り替えようとする主人公の力量はそれこそ半端ではなかったんでしょうね。

    一方、そんな婚姻相手に対するフロスト様も負けちゃいません。
    脅しと暴力で我が意を押し通すスタンスを押し通し、普段の表情からは険が取れません。
    だけど、(表面上は)能天気に振る舞う相方のいなしもあってちゃんとボケに転じて笑えました。
    家の事情もあるようで御本人はなかなか重い背景を抱えておられそうですが、武人としては完璧でも個人としては隙が相当多い。厳つい武人がふっと気を抜く瞬間の親しみやすさもきっちり備えている。

    その辺はかなり王道なキャラ付けなのかもしれません。
    されど実像としては、女性ということが無二の味付けになっている性格付けとお見受けしました。

    だって、シルエットからしてとにかくデカいのです。並んだ時の主人公との身長差がすさまじいのです。
    女性らしい曲線の主張も激しいのです。なので登場しただけで画面を占有してパワフルな華やぎを作ってくれるのです。実にナイスなビジュアルの持ち主であったわけです。

    でも歴戦の傷は、彼女がくぐってきた修羅場の数を物語っています。
    おどろおどろしい全身甲冑を抜きにしてもこの人は冗談が通じないんだなと確かに思わせてくれました。
    その辺の印象を覆すにはまだまだ物語がはじまったばかりですね。どうやら先は長そうです。

    ただ、タイトルからわかる通り早々にデレてくれないのが丸わかりなら、逆に鉄壁っぷりに惹かれちゃいました。塩対応が早々のうちに解けて砂糖のような甘々空間になってもらっても困るわけですから。
    最後は打ち解けるにせよ、この時期だからこその味わいを少しでも長く感じ取ってみたい私なのでした。

    以上。
    ところで作品のジャンルをあらためて確認してみると本作はコメディ、ラブコメ路線で間違いないと思われます。片や唐突にバトル漫画もかくやという殺伐とした絵面が投げ込まれるんですけどね!!!
    それがなぜかといえば、黒騎士フロスト様が討伐にあたる魔物が普通にめちゃくちゃ脅威として描かれるからです。そして、その討伐に当たるフルアーマー・フロスト様がそれ以上の脅威として描かれるからです。

    冷静になって考えてみれば無辜の民を守る騎士の鑑、なのか……?
    なんかカテゴリーエラーを起こしたかのようなギャップの激しさが、本作のジャンル付けを迷わせますね。それでも全体を見渡してみるとコメディと言い切れるわけですが。
    その辺、主人公共々読者も振り回されてるみたいで、他ではなかなかできない体験を味わえるようでした。

    ――この発想を出せた原作者は強い。そのオーダーに十二分に応えてみせた作画担当者ももちろん強い。
    それに合わせて評価点を追記してみると、主人公が細かいところで繰り広げる寸劇がとにかく楽しかった。それに細かいところの表情の機微もしっかり描けています。
    先述した通り、主人公夫妻(婦妻?)のキャラクター造形に至ってはもはや言わずもがなというもので。

    なお、男装の麗人が特撮ヒーロー(?)のごときバトルスタイルを披露するのは作画担当の「そめちめ」先生のキャリア(特撮百合を描いた経歴あり)が関わっていそうですが、さて。

    ともあれ、さっそく引き込まれた第一巻でしたが、案外二巻以降がどう転ぶかはまだ読めません。
    サブキャラである使用人たちの数を四人と絞って顔と個性をはっきり際立て、また話の端々に今後どう展開していくかの材料を配置するなど、今後に向けた布石作りは丁寧に進めているのですけどね。

    総評として、とにかく楽しいという感想は得られたけど、一レビュアーとしてはどう魅力を伝えるべきか困ってしまった部分もありました。なので白旗を上げて降伏したくなったというのはここだけのヒミツです。まぁ黒騎士様相手に腹を出して命乞いするには、読者としてもまだ早いのでしょうけれどね。

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