痛み、人間のすべてにつながる――新しい疼痛の科学を知る12章 [Kindle]

  • みすず書房 (2024年11月20日発売)
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感想・レビュー・書評

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  • 日経新聞の書評を読んで手に取った1冊。
    ネットのプラットフォーム上では類似する同期化された情報しか目に触れないようになるため、「オールドメディア」と揶揄され功罪はあるものの新聞の書評は意外な書物との出逢いをくれる。読んで本当によかった著作だった。

    私たちは「痛み」を避けようと必死に情報を集め対策を施すが、そもそも「痛み」は何者なのか? 痛みが意味するものは?という根源について考える目から鱗の研究結果やデータが沢山提示されている。

    著者はオックスフォード大リサーチフェローであり皮膚科医のモンティ・ライマン氏。
    多くの研究やデータをもとになされる説明のため、専門的な事柄も多かったのだが、塩崎香織さんの翻訳がとても良く洋書翻訳にありがちな違和感を感じず読み進められた。

    まずは「痛みとは」という定義を本文P.60より:

    【痛みとは単なる感覚ではなく、単なる情動でもない。さまざまな感覚と情動、さらに思考が混然一体となった驚くべきものだ。それはまさに人を動かさずにはおかない、私たちに自分の身体を守るように命じる経験である。】
    以上抜粋。

    痛みは長らく医療者からも組織の損傷に伴う感覚という理解のままであるが、いくら検査しても原因がわからず、でも「痛む」という話はとても身近である。
    では、痛みは気持ちの持ちようなのか。

    私たちの文化でも精神論大好きだが、痛みが何を意味しているかを自分自身で受容し、信頼関係を持てる他者や医療者と接し言葉を交わすことにより、脳内で痛みを緩和改善する物質が出るという研究結果は目から鱗だった。

    痛みは苦しく不快であり不便であり、生活の質を著しく落とす。
    怪我であっても心身の病気であっても誰にでも起こりうること。

    偏頭痛もちの私自身は「痛い」などと感じては心が弱いのだ!と、根性論で自分自身を責め続け、元来不安と自罰傾向が強いので、本当はものすごく痛いのに、痛くないふりをし続けたことにも気づけた。

    このまま痛みが続くのか。もっと酷くなるのでは? なぜ私は痛いのか、私が悪いから…などとぐるぐる思考が痛みを悪化させる生活習慣にも気づけた。

    安心感を持てる対人関係や周囲の環境を模索し、質の良い睡眠とバランスの取れた楽しい食事。適度な運動。
    そして何よりも「痛みを受容する」こと。ありきたりながら本文には首肯する新たな説明が丁寧になされている。

    ただし「受容」は痛みを諦めて我慢するという意ではなく、自分の置かれている状況を理解し、自分で変えられることと変えられないことを区別するという自発的な行為という説明にも希望が湧く。

    あることをないことにするのではなく、痛みは自分に何を教えてくれているのか。自分で変えられることはないのか。
    こうした視点により、固着しがちな思考パターンの回路が変わり新たな視点や改善の選択肢が広がる。

    これしかない。ここしかない。白か黒か、善か悪かという強迫的思考に陥らずまずは自分自身と対話して、自分が持ちうる選択肢を周囲の人たちの力も借りて広げる。

    こう考えるだけでも光が見える。
    不安や恐怖、不安定な人間関係は痛みを持続悪化させるという研究結果も明示されている。

    私は痛かったのだなあ。痛みは私に教えてくれていたのだなあと自分の痛みを肯定できた1冊だった。

  • The Painful Truth
    The New Science of Why We Hurt and How We Can Heal

    「痛み」に関する認識が変わる本。

    痛みとは保護の仕組みであって、感知のシステムではない。
    痛みとは、身体が危険な状態にあるという無意識の脳の判断を意識的に解釈することで、痛みは傷害に対する単純な反射反応というより、むしろ生体の健康状態に関する一つの見解である。
    「痛みは身体組織の中でつくられ、脳によって感知される」のではなく、「痛みは脳がつくるものであり、私たちの安全装置兼守護者であり、組織損傷の通報者ではない」

    持続痛に対処する良い方法
    編み物=運動+刺激豊かな環境+社会とのかかわり
    持続痛に関する治療法

    持続性の痛みに対する治療法
    変更:脳が安全だと感じるように身体と心、環境から脳の文脈を変更させる
    視覚化:脳を奪い返して痛みを弱める
    教育:知識は力なり

    痛みを緩和できそうな7つの領域「MINDEST」
    M:medications(薬物療法)
    I:interventions(介入)
    N:neureoscience education(神経科学教育)
    D:diet(食生活)
    S:sleep(睡眠)
    E:exercise(運動)
    T:therapies of mind and body(心と身体のセラピー)

    【目次】
    本書を読んでいただく前に
    プロローグ
    1 身体の防衛省
    ──そもそも痛みとは何か
    2 無痛の五人組
    ──痛みを感じないとはどういうことか
    3 こっちを向いてよ
    ──注意をそらすことと想像の力
    4 期待の効果
    ──プラセボ、知覚、そして予測
    5 痛みの意味
    ──情動と心理の力
    6 痛みなければ益もなし
    ──苦痛と快楽、そして目的
    7 誰かの「痛い」を知覚する
    ──痛みが伝染する理由
    8 心をひとつに
    ──社会的な痛み
    9 信じることで救われる
    ──信念と枠組み[フレーム]
    10 静かなるパンデミック
    ──持続痛クライシス
    11 暴走する脳
    ──痛みはなぜ残るか
    12 痛みの革命[ペインレボリューション]
    ──持続痛をめぐる新たな希望
    謝辞
    推薦の辞──本質の理解と、包括的な疼痛医療のために(愛知医科大学 牛田享宏)
    用語集
    参考文献
    索引

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著者プロフィール

(Monty Lyman)
オックスフォード大学医学部リサーチ・フェロー、皮膚科医。オックスフォード大学、バーミンガム大学、インペリアル・カレッジ・ロンドンに学ぶ。タンザニアの皮膚病調査についてのレポートで2017年にWilfred Thesiger Travel Writing Awardを受賞。初の単著である本書はRoyal Society Science Book Prize最終候補作になるなど高評を得た。ほかの著書にThe Painful Truth: The New Science of Why We Hurt and How We Can Heal(Bantam Press, 2021)。オックスフォード在住。

「2022年 『皮膚、人間のすべてを語る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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