物価を考える デフレの謎、インフレの謎 (日本経済新聞出版) [Kindle]

  • 日経BP (2024年11月23日発売)
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  • 物価の専門家である東京大学の渡辺努教授が、研究成果を記したもの。インフレやデフレに対する異次元緩和や金利操作などの金融政策、減税や公共投資などの政治的な政策など、様々な出来事の適否について学術的に分析している。明確な回答が得られていない項目が多いが、記述が正確で説得力がある。勉強になった。

    「(ノーベル経済学賞サイモン・クズネッツ)世界には四種類の国がある。先進国と発展途上国、そして日本とアルゼンチンだ(高度経済成長期の日本の発展と先進国から転落していったアルゼンチンの姿は常識からかけ離れていた)」p16
    「日本のインフレ率は長い間、世界200か国中ほぼ最下位に近いところにいた」p17
    「1970年代から1990年代」モノ、サービス、賃金の3本の線は、日本もアメリカと同じように右肩上がりになっていました」p21
    「(値上げした赤城乳業「ガリガリ君」への批判)謝罪映像を米紙ニューヨーク・タイムズが1面に掲載して、原材料費の上昇を価格に転嫁するために社長が謝罪しなければならないとは、日本社会はなんと歪んでいるのかと批判したのです」p27
    「値上げのない、価格据え置きの社会こそが理想郷という信念が、日本社会の奥深いところに埋め込まれていた」p33
    「日本の物価が定規を当てたように水平線になったのは、1990年代半ばでした」p38
    「2023年の春闘で30年ぶりの高水準の賃上げが実現しました。その後も物価上昇が続き、2024年春も高水準の賃上げとなりました」p68
    「輸入物価の上昇をきっかけに日本版スパイラルから普通の国の健全なスパイラルに移行したとみることができます」p75
    「(1990年代後半)日本の賃金をドル建てで見たときに世界で1、2を争うほどに高くなってしまったのです」p79
    「(フィリップス曲線)フィリップス曲線とは、失業率とインフレ率の関係を示したチャートです。一般に、失業率が高いときにはインフレ率は低く、失業率が低いときにはインフレ率が高くなる傾向があります」p94
    「「中国との対比で日本の賃金が高すぎるので抑えなければならない」との論を財界が1995年のレポートで主張しています。若い方には信じてもらえないかもしれませんが、日本の労働者の賃金が高すぎる、そういう時代があったのです。今は「安いニッポン」ですが、30年前には「高いニッポン」だったのです」p119
    「(ルイスの転換点)都市の工業化が進んでも、それだけでは賃金は上がらない。なぜなら、周辺の農村から余剰の労働力がどんどん流入するからです。しかし、一定の時間が経つと農村からの流入もさすがに枯渇するので、その時点で一気に賃金上昇が起きます。農村からの供給が尽き、賃金上昇が始まるタイミングが「ルイスの転換点」です」p131
    「「ミクロの価格は公取委、マクロの物価は日銀」という昔ながらの役割分担が通じなくなってきている」p145
    「(テイラー・ルール)中央銀行の政策金利は、経済が落ち着くべき地点に落ち着いているときには、自然利子率と中央銀行が目標とするインフレ率の和になるはずです。ここで「自然」は経済が最終的に落ち着くべき地点を意味し、そこでの実質の利子率が自然利子率です」p148
    「(供給サイドと需要サイド)今までは、需要が足りないので価格が上げられない、だから据え置かれるとの考え方に支配されている(需要サイドの問題)」p161
    「(社会的ノルム)現在の物価と賃金は将来も変わらない」p189
    「シンクタンクと呼ばれる企業の多くは、日本経済や世界経済の先行きの見通しを公表しています。予測の作成方法はさまざまで、それぞれ秘伝のタレのようなものがあるようです。その秘伝のタレがモデルです」p193
    「(IMFエコノミストからの質問)日本にはインフレというものを知らない、世界でも珍しい若者がいるのか」p201
    「(雪かきシャベルの値上げ)「ある販売店では普段、雪かきシャベルを15ドルで売っている。しかし、突然の大雪でシャベルに対する需要が急増する中、価格を20ドルに引き上げた。顧客の視点で、この値上げはフェアかアンフェアか」カーネマンの調査では、圧倒的多数(82%)はアンフェアとの回答でした。人々は、価格が15ドルのときも販売店は適正な利益を得ていたと考える。販売店は値上げすることによって5ドル分の余分な利益を手にすることになる。人々がアンフェアだと感じるのは、販売店が得る5ドル分の過剰な利益に対してだと、カーネマンは説明する」p208
    「(ニューディール政策の成果)ニューディール政策の前は、国債の信用力が過剰に高く、人びとはモノを買わずに国債を買っていました。これがデフレの原因でした。ところが、ルーズベルトが財政拡張を始めると、足元の財政赤字が拡大し、将来も赤字拡大が続くとの見方が広がりました。そして、人びとは信用力の落ちた国債に魅力を感じなくなり、国債を売って、代わりにモノやサービスの購入を増やすことを始めました。そしてこれが物価上昇へとつながっていきました」p234
    「固定金利契約の住宅ローンはインフレが起きても金利は上がりません。そのため、インフレが起きると債務者が得をして、債権者が損をします」p248
    「実質賃金の低下より名目賃金の低下の方が、人びとは嫌がる」p271
    「生産性の悪化した企業は、生産性の悪化にもかかわらず賃金を下げていない、という傾向があります」p287
    「生産性が改善した企業は、生産性の改善にもかかわらず賃金をさほど上げていない、という傾向があります」p288
    「(グリーンスパン)物価下落自体はさほどの問題ではない。何が問題かというと、デフレが企業の価格支配力を奪い、それが原因でアメリカ経済の活力が削がれることだ(日本ではデフレがまだ始まったばかりであり、グリーンスパンと同じ知見を日本の政策担当者たちが当時もてていれば、デフレの慢性化を防げた可能性があります)」p307
    「デフレ慢性化の責任を日銀だけに押し付けるのはアンフェアです。価格・賃金の据え置き社会にどっぷり浸かり、その心地よさに、なぜこんなことが起きているのか、このままで未来永劫いけるのかという疑問を抱くことさえなかった日本社会全体の責任だと思います」p310
    「(メロンも大量に供給されると食べ飽きる)日銀メロンが飽和し、追加供給してもプレミアムがほとんど下がらないという状況は、黒田総裁がバズーカ砲で大量のマネーを供給しても市場金利がほとんど下がらない状況に対応しています」p330

  • 日本のデフレ発生のもとについての著者の見解はこうである。
    バブルがはじけたとき、1ドルは135円程度であった、その後も円高が進み、ついに1995年95円まで円高が進んでいった。バブル崩壊時の日本の賃金はドル建てで見たとき世界トップクラスになっていた。このままでは中国企業に太刀打ちできないという声が産業界で高まり、そして日経連が、中国企業との競争に勝ち抜くには、賃金据え置きが必須との主張をした。また当時、内外価格差の問題も指摘されており、それを支持する識者が少なくなかった。
    そうして、賃上げを控える動きが始まり、2000年代に入ると賃金据え置きに向けた動きが一気に進んだ。そして日本は長期停滞、デフレに沈んだ。つまり、中国との競争を契機に、それまでの健全な循環が、日本版スパイラルに変質した。それが慢性デフレの始まりとなった。

    なぜ今デフレが終わり、インフレが始まったのか。世界的な観点で見るとパンデミックが起き、需要サイドでは、消費者はサービス消費からモノ消費に転じた。ちなみにアメリカではモノ消費の消費全体に占める割合が30%から33%と1割増えた。供給サイドでは、労働者の一部、シニアや女性が労働市場から退出し、労働供給が減少した。またグローバル供給網に問題、例えば船員不足による船便減少が起き、部品調達がタイムリーにできなくなった。それによって生産能力が低下した。これらによる需要増と供給減により、グローバルにインフレが発生したと考えられる。

    異次元金融緩和がインフレ目標を達成できなかったのはなぜか? についての著者の解説がわかりやすい。
    目からうろこ! があったのが、日銀はなぜ、ゼロ%でなく、2%のインフレを目指すのか。との問いに対する著者の答え。

    とにかく、近年読んだ経済学の本の中で一番おもしろかった。

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著者プロフィール

東京大学大学院経済学研究科教授

「2023年 『日本の物価・資産価格』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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