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感想・レビュー・書評
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黒人への人種差別が色濃く残る古き時代の南部アラバマ州。その田舎町Maycombで、主人公のScout Finchとその兄のJim Finchは、自由な精神を持った弁護士である父Atticusの下でのびのびと育てられている。謎の人物Boo Radleyをめぐる冒険や様々な大人たちとのふれあいを通じて子供たちは少しずつ成長して行く。
人々の偏見や中傷を恐れることなく、無実の黒人Tom Robinsonの弁護を引き受けるAtticus。彼は、常に自分の良心に従い行動する。しかも彼は、自らが正しいと思うことを他者や自分の子供たちにさえ決して声高に押し付けたりしない。このようなAtticusを子供たちが全面的に信頼し、尊敬している。この親子関係が実に素晴らしい。
“Before I can live with other folks I've got to live with myself. The one thing that doesn't abide by majority rule is a person's conscience.” ── 人は絶えず理想や信念を持って生きるべきだ、この物語はそう教えてくれているようです。時代を超えて読み継がれるべき名作だと思います。
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2020年2月19日 追記
「アラバマ物語」の続編(後日談)である、「さあ、見張りを立てよ」を読みました。
どんな内容の話かということはうすうす知っていたので、「アラバマ物語」に思い入れのある私としては、そのイメージをぶち壊しにするのではないかと思い、読むべきか読まずにおくべきか悩んだのですが、結局読むことにしました。
“君は物事のありのままの姿を見なければならない。物事のあるべき姿だけでなく” ── 若者は理想に生きているけれどいつか現実に向き合わねばならないということ、どんな聖人君子も人間であること、親と子どもは早晩どこかである種の決別をしなければいけないということ…… なんだか「アラバマ物語」は格好よすぎるということを作者自身からいわれたみたいで少しさみしかったけれど、これを読むことで「アラバマ物語」で描かれた子ども時代ならではの正義感や純粋さが、より大切なものに感じられた気もします。
作者の意図がどうであったにせよ小説は書かれた時点で独自の生命を持ち始めるのだから、次の作品が書かれたからといってそれまでの作品の意味までもが変わってしまう訳ではないと思いたい。
“すべての人間は孤島であり、その人間の見張りは自分の良心だ” ── やはり良心と理性が我々のコンパスなのだけれど、残念ながら理想だけを海図としていては現実社会の海は航海できなかったのですね。詳細をみるコメント0件をすべて表示