ノベル氏 [パブー]

著者 :
  • パブー
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感想・レビュー・書評

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  • 芋づる式につながるインタビュー、果てなく続く官僚の不作為とダメ政策、次々に暴かれる裏事情、歴史を動かす奇怪な宗教文書、異星人の人権問題から意外なエイリアン侵略の真相まで(すっかり忘れていたが、発端はどこかの植民惑星がエイリアン侵略の信号を送って来たことにあったのだった)、錯綜に錯綜を重ねるジャンルレス・ノンフィクションSF(何だそりゃ)。

  • 期待通りの傑作。

    例によってこれは佐藤哲也の本なので(?)あらすじはあっても真っ直ぐ話が進むということはやはりなく、ほとんど全編が脱線に続く脱線で成り立っていて、そしてその脱線のスケールがまた破格の大きさであり、次々切り替わる場面と展開の中、手を変え品を変えで展開されるワクワクとドキドキと、何より不思議な笑いのテンションが最後まで維持されていて飽きるところがまるでない。

    これも傑作であるデビュー作『イラハイ』と比べると、脱線から成り立つ物語という方向性は確かに同じだと思うのだけれど、『イラハイ』があくまで架空の王国の「歴史」についての話であったのに対して、こちらは時には古典的なファンタジーのパロディであり、SFのパロディでもあり、経済小説のパロディでもある一方で、登場人物自身が自らを見失うほどの屈折して入り組んだ内面を滔々と語る近代小説でもあり、そのヴァリエーションの豊富さという点において(単純にどちらが優れているというような議論ではなくて)『イラハイ』の物語の広がりを確かに凌いでいる。

    そして物語を語る文体というか技術についても、またこれまでと違った新たな方法論が持ち込まれていて、恐らくそれは冒頭の目を疑うほど長大な人名リストが表す膨大な登場人物達の縦横無尽の活躍(というかドタバタ)に如実に現れている。

    豊富な登場人物達が次々と自分達が目撃したナウホワット(今何が?)を語りまくり、その語りを通じて物語が浮かび上がるにつれて、物語という枠組みを通じて語り手達の持つ声質や表情・その性格が浮かび上がってくる仕掛けになっていて、活字に描かれている紙の登場人部達がここでは確かに生き生きとした質感を帯びて立ち上がってくる。語り手が物語を語るという構図がいつしか逆転し、物語が語り手を照らし出すのである。人類に辛辣なザイン氏や、エイリアンを舐めきっていて偏見にとらわれているノベル氏や、ヤク中で役に立てないコックリ氏の声や表情が確かに読み手に感じられるのである。(人物の顔が見えず、声が聞こえないというのは小説というメディアの大きな特徴であり魅力だが、この作品においてはその見えない顔と聴こえない声を生き生きとした活字のトーンから想像して思い描いてみるのがまた実に楽しい)
    そして生き生きと書き分けられて活躍する登場人物達を描く物語の「語り」のトーンは確かに終始、佐藤哲也のどこかずれた笑いのトーンであり続けるのである。文学的な腹話術といえば良いのか、一本ぶれない芯のある語りの中で変幻自在の登場人物の声を使い分けている作者の技量に毎度のことながら驚嘆せずにはいられない。

    文体、或いは技術という点についていうならば、『ノベル氏』において私が最も驚かされたのは物語の「」の台詞と地の文の中に作者が散りばめたこの他声的なトーンの響きの豊かさであり、その豊かさはまた、明らかに『イラハイ』を語る声にはまだ感じられなかったものであろう。

    すなわち『ノベル氏』は「超絶技巧作家」としばしば称される佐藤哲也の相変わらずの超絶技巧を示すばかりでなく、その更なる進化を実感させてくれる傑作なのであり、読み終えた読者としては素直に感動し、これでまた次も待ちどおしいという気持ちになれる一冊なのである。

    というわけで期待に違わず、文句無しに傑作。

    次作に更なる期待を込めて星は5つです!

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著者プロフィール

佐藤哲也(さとう てつや) 京都工芸繊維大学教授。京都工芸繊維大学院工芸科学研究科修了。繊維科学、色彩工学、感覚工学を専門として、繊維と色彩と人間の関係などをテーマに、幅広い研究を行っている。日本繊維製品消費科学会、繊維学会、日本色彩学会などに所属。

「2016年 『ふくはなにからできてるの?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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