悪魔の舌 [青空文庫]

著者 :
  • 青空文庫
  • 新字旧仮名
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レビュー : 5
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  • この物語は、語り手が一通の電報を受け取ることから始まる。其処には「『クダンサカ三〇一カネコ』」と記されていた。語り手は不思議に思いつつも、九段坂へと向かうことを決める。しかし、九段坂にて幾ら待てども、「カネコ」は現れなかった。(「カネコ」というのは語り手の友人であり、密接に関わっても尚、得体の知れない奇異な人物である。)語り手は、愈々「カネコ」の家を訪ねようと、彼の家が近くにあるという、富坂へ向かった。彼の家の前まで来ると、警官が出入りしており、「カネコ」が自殺したことを聞かされる。そこでふと、語り手は先程受け取った電報に違和感を抱いた。彼は再び九段坂まで戻り、三百一番目の石蓋を調べたところ、なんと「カネコ」の遺書が見つかったのであった。小説内では、以下に其の文書の全文が掲載されていた。此の先は幾分か心胆を寒からしめる描写が含まれるため、苦手な方はご容赦願いたい。

    「友よ、俺は死ぬ事に定めた。」から始まる「カネコ」の遺書には、彼の出生から家族構成、自分の発症した妙な病気に至るまで、事細かに記されていた。彼は奇妙な物を好んだ。土や壁などの無機物から、蛞蝓や蛙蜿、蚯蚓や地蟲まで、これらが彼の食欲を満たしたのだ。彼の母が死んでから、其の悪癖は更に悪化の一途を辿った。そんな或る日、「カネコ」は健康的な、至って普通の食事が不味く感じることに気がついた。何故食事がこんなにも美味しくないのだろうか、何の気は無しに、彼は鏡に向けて舌を突き出してみた。刹那、彼の目には信じ難いものが映った。其れは自分の舌である筈だった。しかし其処にあったのは、大層おどろおどろしく描写される、まるで悪魔のような舌だった。其の後、「カネコ」は蟲や土を喰うだけでは満足出来なくなっていく。すると、彼の中で或る一つの恐ろしい考えが浮かんだ。「『人の肉が喰ひたい。』」。彼は悪魔の舌が唆すままに、人肉への関心を抑えられなくなる。そして、遂に人肉を食してしまうのだった。其の事実が彼の人生を変えた。
    「カネコ」の遺書の中で語られた家族について詳しく読むことで、終着点として訪れる終わりで読者は瞠目することになる。
    内容としては些か刺激が強く、カニバリズムを含む悲劇の怪奇譚であるが、巧みな伏線回収と繊細な情景描写によって描かれた此の作品は、短編ながらも村山槐多の世界観にどっぷり浸かれる素晴らしい小説であるため、是非ともお勧めしたい一冊である。

  • 友人からの電報で呼び出され、記された場所に出掛ける語り手。だがそこに友人の姿はなく、呼び出された意味も分からない。仕方なく友人の家に出向くと、彼は自分の心臓に火箸を刺して絶命していた。電報にあった場所にとって返し、暗号めいた石畳を調べると、果たして友人が遺した手記が出てくる。そこには、彼が辿った人生と、死に至る経緯が認められていた。

    原因不明の病のち異食症ときどき幻覚、明日は食人鬼となるでしょう、てな友人。変わり者の集うパーティーで彼と知り合ったという語り手だが、じゃあアンタもじゃんと突っ込みたくなる。遺体を検死したら手記の記述通り舌に針があったというが食人は妄想だろうとさらりと結ぶ。いや舌に針ってそれスルー案件じゃないと思うのだが。それにしても皆美少年好きな。

  • 唇の印象の強い悪食の友人の物語。劣悪な家庭環境が、様々な欲求、愛の欲求や承認欲求などを、本能的に食欲へとつなげてしまったのだろうか。
    中学生でこのような話を書くとは…。

  • 人間のほっぺたってやっぱりおいしいのかな~。ハンニバル・レクターさんも好んで食していらっしゃいましたよね。

  • ゆがんだ僕を見て!系自殺者手記型短編小説。カニバリズムのとりこになった主人公が「人肉最高!」「美少年がいたから食っちまったぜ(文字通り)!」とか友人に書置きしていくという。頼むから黙って死んでくれというのは言っちゃだめ。

    こうした自殺者の遺書という体裁をとる小説といえば、だいたい「オレは不幸だ」「あそこでこうしてれば」「社会が悪い!」みたいな恨み節が長々と続くパターンが多い印象があるんですが、『悪魔の舌』はむしろ自殺者本人の嬉々とした想いがびんびん伝わってくるちょっと異様な印象です。最初と最後あたりなんかわが身の不幸を主張してるみたいですが、インパクトが薄くて、なんというか、「え、楽しかったならいいじゃん?」と言いたく……おっと、不謹慎か。

    その辺も含め、物語としての構成は弱いものの、強烈なイメージとインパクトのある文章が印象的な一品です。食事中に読むのはお避けください。

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