舞踏会 [青空文庫]

著者 :
  • 青空文庫
  • 新字旧仮名
2.67
  • (0)
  • (0)
  • (2)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 11
感想 : 2
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • 青空文庫 ・電子書籍

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 私はこの作品を読んで明治から大正にかけての文化や空気感を多く感じ取れた。まず、鹿鳴館で舞踏会が開かれていることは明治時代を代表するイベントだっただろう。華やかな舞踏会の様子が事細かに描かれているのも特徴的だと思った。主人公の明子が着ているドレスの美しさだったり、上流階級の者たちが集まっている時特有の雰囲気、鹿鳴館の内装や飾りつけの仕方だったりと随所に散りばめられている。私はこれを芥川龍之介作品の特徴の一つだと思った。また、登場人物の心情の変化に沿って上記のものが描かれていることも多い印象だ。主人公が舞踏会の時間を共に過ごす相手である、フランスの海軍将校も異国情緒が本格的に表れてきた明治の世の中の特徴として書かれている。
    海軍将校と過ごしていくうちに最初は謙虚に見えていた明子が、実は結構積極的に海軍将校と関わっていく場面がある。その場面の中で「舞踏会は何処でも同じことです。」と彼がいう。私はこの部分に引っ掛かりを覚えた。華やかな舞踏会の中でこのようなことを言うのは珍しいからだ。おそらくここは芥川龍之介の厭世的な要素に相当すると思う。舞踏会の華やかさと相反するような表現方法によって、より厭世的な一面が際立っているようにも感じた。この部分は当時様々な海外の文化を取り入れて勢いを増していた日本に「どこに行っても現実は同じ」と言っているようにも感じた。一種の警告のようなものだったのかもしれない。その後、二人が花火を見る場面に切り替わる。ここでも哀愁漂う雰囲気の将校の一言に引き込まれた。「私は花火の事を考えてゐたのです。我々の生(ヴィ)のような花火の事を」だ。花火は打ち上げられ、綺麗な大輪の花を咲かす。しかし、その後はすぐに消え失せてしまう。これは人間や社会の様相を表しているように思う。当時の世の中は華やかだけれどもそれが廃れるときは必ずやってくる。そのもの悲しさがここではうまく表現されていると感じた。ラストシーンは大正に移り変わるがここでも一貫してどこか悲しげな雰囲気があった。

  • 明治時代初期の華やかさが見て取れる作品だった。舞踏会という題名の通り、舞踏会のシーンは明るく色とりどりのドレスを身にまとった少女たちや、正装に身を包んだ青年たち、部屋を明るく照らすシャンデリア、豪華な花々が想像できる。まだ西洋慣れしていない明子の初めての舞踏会への緊張や普段と違う世界に期待する高揚感はこちらまでわくわくさせられる。慣れない初めての場所にだんだん溶け込んで楽しんでいく様子や初めての舞踏会で出会った同じ年代の少女たちとの会話は年相応でとてもかわいらしくもある。この物語の柱でもある海軍将校との出会いは実に魅力的であり、女の子ならば誰でも憧れるようなシーンになっている。さらにそのあとの二人で花火を見るシーンは非常に儚く切ない二人の恋と豪華で美しい花火の対比を描いているようでとても印象に残った。そして時が流れた後の、明子である老婦人と青年作家の会話で明かされる海軍将校の明子との出会いを書いた小説の存在。明子は海軍将校のペンネームを知らないためにその事実を理解することはなかったがそれでも明子にとって甘酸っぱく温かい思い出であることは一目瞭然である。私はこの物語を読んだとき、純粋に若い男女二人のひとときの恋を描いていて、その思い出は離れて時間がたった二人の中にもきれいなまま残っているのだというストーリーを読んだ。しかし、いろいろなレビューを読んでいるとこの話は急激な西洋化を進める日本への嘲笑とも取れるのではないかというのを見て新たな視点からもう一度読み直した。確かに、西洋人から見れば急激な発展とはいえ、発展途上であるはりぼての日本であり、海軍将校の書いた小説は内容まで明かされていないため、内容として日本人の西洋化を風刺していたとしても納得がいく。この話は見る側の思考によって物語の印象が大きく変わる。二人の純愛な恋物語ととらえられる一方で、日本へ皮肉ともとらえられる不思議な作品である。この作品は芥川の作品の中でも世間的な知名度は低いが、知る人ぞ知る作品だと思う。芥川の、読者がいて成り立つ物語と形がこの作品にも表れる。暗い話も多い中、風刺表現があるかもしれないとはいえ、きらびやかで華やかな西洋的な美しさが詰まっているこの作品をぜひともいろんな人にも読んでほしいと思った。

全2件中 1 - 2件を表示

芥川竜之介の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×