報恩記 [青空文庫]

  • 青空文庫
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  • 3人の登場人物が或事件について語るという内容
    その構成に注目すれば、あの有名な藪の中に近いものがある

    話として興味深いのは、商人の息子の、復讐と恩返しを同時に行う、というアイデアだろう
    商人の息子は大盗人に安全を与える代わりに、その名を奪うことに成功した。商人は息子の孝行を感じて、大盗人は商人の息子の恩に感謝を示した。

    しかしその復讐も恩返しも商人の息子の偽りかもしれない
    復讐を考える以前から、商人の息子は盗賊の名に強い憧れを抱いていた
    最初に恩返しを願った時ですら、やはり盗賊としての名声を欲しがったものとも見える
    結局彼の復讐も恩返しも、名声を盗むためのい訳にしか過ぎなかったのではないだろうか

    復讐相手たる大盗人は盗賊の名声を誇る人物ではなかった
    商人やその息子は大盗人の様々な行状を語るが、盗人自身が語るのは己が盗みばかりでない、ある種の文化人であることと、己自身の能力である

    復讐相手の興味のないものを奪うことに己の欲望わを満たす以上の価値はないだろう
    名声なき復讐は復讐足り得ない

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