桃太郎 [青空文庫]

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感想・レビュー・書評

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  • 桃太郎といえば鬼退治。又、童話の桃太郎は、鬼退治をして、鬼が所持していた金銀財宝を村に持ち帰って、めでたしめでたしだが芥川の桃太郎は一転。鬼退治をする理由が、おじいさんとおばあさんのように働きたくないからだというもの。それを聞いたおじいさんとおばあさんも、桃太郎に苛立ち、鬼退治でも外に出ていくことは内心嬉しかったという。犬と猿と雉の3匹の仲間を作るきっかけになったきび団子をあげるシーンも1匹に対し、きび団子をひとつあげるのではなく半分にしてあげるという、ケチな一面を見せる。私たちが子供の頃に読んだ桃太郎とは違く、平和に暮らしていた鬼の暮らしが桃太郎によって壊されたという背景があり、童話と逆なのがまた良い。又、童話では、立派で素敵なイメージがある桃太郎だけれど、芥川の桃太郎は人間臭く、そこがかえって童話とのギャップが生まれ面白いと思う。

  • 桃太郎といえば鬼退治の物語として有名だ。桃太郎は正義で鬼は悪。多くの人はそのような認識ではないだろうか。しかし、芥川龍之介の「桃太郎」はその考えを大きく変えてくれる。この作品において、桃太郎と鬼の立場は真逆である。鬼の暮らしが桃太郎によって一方的に壊されたという背景があり、私たちのよく知る昔話とのギャップを感じることが出来る。正義とは何か、悪とは何かということを考えさせられる作品だと感じた。
    芥川の描く人間臭さのある桃太郎は、読者の理想の格好いい主人公像とはかけ離れている。だからこそ、昔話の桃太郎を読んだことがある人には是非一度読んでもらいたい作品だ。

  • 題して、「芥川龍之介が贈る最高に基地外じみた桃太郎」。これは誇張でもなんでもなく、マジで基地外じみている。まずその筋書きである。世間一般に知られている桃太郎…かと思いきや、この桃太郎が生まれたのは、地上から天空に至る大きな樹の実の一つで、そこへ八咫烏がやってきて、この実を一つ地上へ落とす。桃の実となって川へ流れたところは皆の知っている桃太郎だが、何とこの桃太郎が鬼退治に行く理由は、「おじいさんやおばあさんのようにあくせく働きたくないから」。日本一の黍団子、と銘打って入るけれども実際に日本一かはわからない。出会った「一つくれ」と言われても、半分しかやらないなど、ケチと怠惰と強欲を煮詰めたような飛んでもない桃太郎がここに爆誕したのである。とかく登場人物が我々の知っている桃太郎と大違いである。
    主人公の桃太郎がこれだけの人物なので、他の登場人物のキャラ立ちも恐ろしい。犬・サル・キジは黍団子欲しさに喧嘩して仲間割れするし、逆に退治される側の鬼は極楽浄土に住んでおり、腰が低く、人間を同族で殺しあうし欲は深い、全くわけのわからない種族だと考えている。平穏に鬼たちが暮らす鬼ヶ島へ、黍団子半分で手懐けた犬サル雉を従えて、放蕩の桃太郎が乗り込んでくる。桃太郎は鬼たちを手当たり次第根絶やしにして、鬼ヶ島の首長たちだけを見逃し、その子供を人質にしながら鬼ヶ島の宝物を引かせて故郷の村に帰っていくのである。。
    ぶっちゃけ子供に読み聞かせたら泣くレベルの代物なのだが、これが文学になった途端に素晴らしく滑稽な話に反転するのだから大変業が深い。というのも、ここに芥川が表そうとしたのは、おそらく人間の恐ろしい一面、浅ましいほどの欲にまみれた一面であるからだ。桃太郎という、大変メジャーなプレテクストを使ってまでそれをやってのけたのがこの人の筆の力なのである。名作を引くということは、それを超える衝撃を与えるほどのものを書かねば人の印象には残らない。この話は、元の話が持つ物語としての文脈を、キャラクター名だけ残してすべて換骨奪胎させ、さらに自身の著作らしさである「人間とは何か」を加えた代物である。
    つまりこれぞ芥川流、最高に基地外じみた桃太郎である。朗読で聞いたが面白くてところどころ笑ってしまった。

  • 大人になってから読む「桃太郎」。
    「鬼=悪い奴」だなんて誰が決めた、実は桃太郎の正体は…
    という妄想をさらっと作品化してくれたのではないかと思わせてくれるお話でした。

  •  日本のおとぎ話として知られる「桃太郎」を、芥川龍之介は1924年にパロディという形で出版した。一般的に「桃太郎」と聞くと、桃太郎が3匹の仲間とともに鬼退治に行く、といった風に登場人物やあらすじに対する共通の認識を持っているだろう。しかし、芥川龍之介版「桃太郎」は一般的な「桃太郎」の話とは大きく異なっており、それが本書の特徴の一つであるといえる。

     まず、本書中の桃太郎は自身の惰性がきっかけで鬼退治を決心する。その後、鬼討伐に行くための仲間を探す際には黍団子を半分しかやろうとしないなどの描写から、桃太郎がいかに傲慢であるかが分かる。また、鬼が島は美しい天然の楽土であり、そこで鬼たちは安穏に暮らしている。鬼が悪さをしているから人間は恐れているのではなく、むしろ鬼たちのほうが人間を恐れているのである。一行がいざ鬼が島に到着すると、それまで平和だった島は大虐殺により一瞬で変わり果ててしまう。この一連の桃太郎たちのあまりに残忍な行為が非常に印象的であり、理不尽な目にあう鬼たちには同情してしまう。しかし、鬼討伐を終えて宝物を得た桃太郎たちは最終的に鬼の反逆にあうのである。

     物語の中には、出版の前の年である1923年に起こった関東大震災に関する風刺がちりばめられているなど実際にあった出来事を取り入れることで芥川龍之介自身の啓蒙家としての一面も見える。鬼は悪い生き物だ、と決めつけてしまうなどのモノの見方を考えさせられる作品でもあると思うので、世間に大きく知られている「桃太郎」と対比しながらぜひ手に取ってみてほしい。

  • この作品は日本文学の中でも必ず聞いたことがある芥川龍之介が書いた作品。この物語は、いっけん日本昔ばなしの「桃太郎」を浮かべるはずだ。しかし、私たちが知っている「桃太郎」とは全くかけ離れた話である。芥川龍之介が描いた桃太郎は決してかっこよくヒーローのような桃太郎ではない。そして、桃太郎に出てくる鬼も「怖くて悪い生き物」として描かれていない。悪くいえば、子供たちの夢を壊すような作品だとも言えるだろう。村中が迷惑している鬼倒すために旅に出る桃太郎が鬼退治に行き、宝や人質を持ち帰り、平和を取り戻すという話を皆が想像するだろう。だが、この作品はもっと残酷なもので、桃太郎というヒーローは居ない。桃太郎は私たちが想像するみんなのヒーローではないのだ。正義と悪を裏返す作品であり、桃太郎の一方的な行動で平和になることなかった。
    私はこの作品を読んで、「今読んでよかった」と心の底から感じた。本当のヒーローとは何かということを教えてくれる作品だった。日本昔ばなしの「桃太郎」を読んだことがあるのなら、1度は手にして本当のヒーローを知るために読むのも面白いのではないか。

  •  桃太郎と聞いたら「悪い鬼を正義の桃太郎が成敗する」という王道のストーリーが思い浮かぶだろう。ほとんどの日本人はこの物語に昔から慣れ親しんでいるはずだ。
     
     桃太郎は正義で鬼は悪。多くの人はその考えを疑うことはない。しかし、芥川龍之介の桃太郎は「桃太郎」への考えを大きく変えてくれる。芥川龍之介の「桃太郎」では桃太郎と鬼の立場は真逆で、桃太郎側の一方的な行動により物語が展開していくのである。

     私はこの作品を読んで「私たちが正しいと思っていることは本当に正しいことなのだろうか」と疑うことの重要性を感じた。誰もが自分が正しいと思い行動し、衝突する。そして憎しみの連鎖が繰り返されていく。芥川龍之介の「桃太郎」はそのような世界の状態を捉え、正義とは何かを考えさせる作品なのではないかと私は考える。

  • 無限ループって怖くね?

    勧善懲悪の落とし穴。なんというか黒い。

  • ダークな桃太郎。普通に面白かったー
    昔話のサルや鬼は、別々の話でも同一人物だったのか。笑

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