或る女 1(前編) [青空文庫]

  • 青空文庫
  • 新字新仮名
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感想・レビュー・書評

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  • 一人の女性を書くのにどれだけのページを割いているのだろう。その人「葉子」は一人称の「私」として書くこともできそうだ。そんな彼女の容姿、考え方、人生観に特化して展開する物語で、読む側としては退屈である。登場人物もすべて彼女のフィルターを通して描かれたキャラクターで、魅力に欠ける。そもそも私はこの「葉子」が嫌いである。わざわざ人を試すようなことをして陰で笑う、その品のなさにあきれてしまう。身近にこんな人物がいたら疲れそうだ。

    登場人物にはモデルもいるとのことで、この小説を発表したときに物議をかもさなかったのだろうかと、今更ながら思ってしまう。登場人物たちについて魅力に欠ける、なんて言っておきながら先が読みたくなるのは、この先それぞれがどんな人生を歩むのかに興味津々だからだ。スキャンダラスな展開に興味を持つ者がいるのは今も昔も同じなのかもしれない。後編も楽しみ!

  • 明治・大正時代の作品を読んでいると、ほんとにこんな人いるのかな・・・と思うことが多々あります。本作の主人公お葉さんもその一人です。女には大体こういう面があることはあるけども、ちょっと極端すぎる気がします(笑)。

    彼女は26歳にして経験豊富でありますが、そこからは学ばない。瞬間瞬間に生きる人です。ボーダーラインと言われればそうかもしれません。けれども書いてあることだけでボーダーラインという診断をつけることもできない。それだけではないような、複雑なキャラクターだと思います。複数のモデルがいるのかもわからないですね。
    彼女の癖のある人格を丸ごと受け止められる男に一瞬でもめぐり合えたことも羨ましいことです。なかなかそう包容力のある男性も実際にはいませんので。

    どなたの人生も、どうすれば正しいっていうことはない。自分が正しいと思うことを、思う通りに進んでいかなくてはならない。転んだら、膝の砂を自分で払って起き上らなくてはならない。これは、時代が進んだ今になってもその通りではないかと思います。

  •  私は本当にぐうたらで、名作と呼ばれる古典の数々をほとんど読んでいない。昔の本は読んでて疲れるんだもん。森鴎外の「舞姫」(高校の教科書に載ってた)、与謝野晶子翻訳の「源氏物語」(なぜか家にあった)、あとは「小僧の神様」by志賀直哉くらいしか覚えてない。夏目漱石はとりわけ駄目で、読んでいると息が詰まってイライラしてしまう。後は三島由紀夫の軽いエンタメものがいけるくらい→夜会服はいいけど金閣寺は嫌っていう。つまり、甚だ不勉強なのであります。
     そんな私なのに、最も愛する小説はこの『或る女』なのだ。初めて読んだとき、有島武郎ってゲイだったのかしら?と思った(実際は人妻とのドロドロ情死で亡くなっています)。それくらい、女という生きものについて、裏表きっぱりと描き切っている。「一房の葡萄」を書いた人とは、なかなか思えないくらい。

     主人公・葉子は万事について要領が良く、頭の回転が速く、人心を把握する魅力(チャーミング)を備えた女である。かつ超絶美人なのである。彼女は軽蔑せずに済む、自分より優れている(と感じる)男をいつでも探している。見つければ全力でとりこにする。しかし相手が自分に夢中になると、またはみっともない面を目にすると、すぐ嫌になって逃げ出す。その逃げ出し方もエキセントリックで毎回大事になるのだが(他に男作るやら何やら)、美貌と恐ろしいほどの要領の良さで、何とか世を渡っていってしまう。そこが葉子のすごい所で、最も悲しい面でもある。
     どんな男に愛されても何人子どもを産んでも、葉子は学習できない。自分以外の人間も傷つき、苦しみ、精一杯生きているんだということを。彼女は自分をかつぐ(もしくは叩き落す)人形達としてしか、他者を認識しないのだ。だから一生悲劇のヒロインだし、年をとって表面的な美しさが減ってくると、どうどう巡りの袋小路から出られなくなる。そうした愚かな不遜さがカワイらしい、女として素晴らしいと言われれば、まあそれまでなのだけれど。

     どのような方向であれ女性が賢さを極めていくと、「他者を軽蔑する」傾向に向かう気がする。男性をかどかわし踏み台にしていける女なら尚更そうで、女性の魅力って、結局『女王様』に行き着くんでしょうか…?としみじみしてしまう。逆に才覚のある男性は、突き詰めると「他者に無関心」となるような。

  • 全ての男達を惹き付けずにはおかない美貌と才覚を持つ女・葉子。奔放な性質でトラブルを起こし、未婚のまま子供まで産んだ彼女だったが、両親を喪い、二人の妹達の生活の為にも、望まぬ相手に嫁することになる。夫となる筈の木村はアメリカで事業を手がけており、葉子は絵島丸という船で嫌々ながら旅立つ。その船内で、客の間では悪い意味で注目を集めるが、老船員を助けた事で一目置かれるようになり、間もなく事務長の倉地と不倫の関係に陥る。数日経て船はアメリカに着くが、葉子は以前から患っていた持病を理由に上陸せず、そのまま日本に帰ってしまう。帰国後、葉子は倉地の愛人として彼が用意した家に住み、二人の妹を呼び寄せ、生活費に困ると木村に送金させるようになる。木村の友人古藤は葉子の不義を責めるが、全く意に介さず開き直る葉子。台所事情はともかくも、近所からは美人屋敷などと呼ばれ、生活は上手く行っているかに見えた。だが不倫騒動により船会社を解雇された倉地の新しい仕事が怪しくなり、葉子に対する態度も変わってくる(と葉子は思い込んでいる)につれ、葉子は心身ともに変調を来たすようになる。周囲の全てに激しい憎悪と猜疑心を抱き、被害妄想に凝り固まる彼女は、持病の悪化も相俟ってかつての美しさも才気も失い、最愛の妹の貞世が重病に罹っていることにさえ気付かない。やがては自分も入院し手術を受けるが、成果は芳しくなく、葉子は迫り来る死に叫び続けるのだった。

    青空文庫で前後編読了。
    純文学だと思っていたら、とんでもないエロ小説だった。行間から匂い立つようなエロさ。そして、えっこれで終わり?という唐突感。昼ドラみたいなストーリーもさることながら、徹頭徹尾自分のことしか考えない葉子が物凄い。『氷点』の夏枝なんかいっそかわいいもんだと思えるほどのレベル。そして結果的にはそれを許されてしまう(古藤も結局はうやむやにされて帰って行くし)美貌と才覚を持っていただけに、彼女が狂気に陥っていく様は悲惨極まりない。自業自得な面が大きいとはいえ、明らかに何かの精神疾患と思われるので、先にそっちの病院に行ったほうが良かっただろう。今ならボーダーとでも診断されそうな勢いだ。統合失調症の初期でもありそう。葉子や周囲の人々がこの後どうなるのかは分からないが、どうなっても皆幸せになれるとは思えないし、唯一その可能性が開ける道は葉子が死ぬこと以外にない。葉子自身にしても、あの憎悪や妄想を抱えたままではとても無事には生きて行かれないだろう。でも何だかんだで長いこと苦しみそうなラストでもある。ヒロインの『女』の感情の動きが激しすぎて読んでて息詰まるこの感じ、おかざき真里が漫画化したらすごくいいと思う。

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著者プロフィール

1878年、東京生まれ。札幌農学校卒業。アメリカ留学を経て、東北帝国大学農科大学(札幌)で教鞭をとるほか、勤労青少年への教育など社会活動にも取り組む。この時期、雑誌『白樺』同人となり、小説や美術評論などを発表。
大学退職後、東京を拠点に執筆活動に専念。1917年、北海道ニセコを舞台とした小説『カインの末裔』が出世作となる。以降、『生れ出づる悩み』『或る女』などで大正期の文壇において人気作家となる。
1922年、現在のニセコに所有した農場を「相互扶助」の精神に基づき無償解放。1923年、軽井沢で自ら命を絶つ。

「2024年 『一房の葡萄』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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