道化の華 [青空文庫]

著者 :
  • 青空文庫
  • 旧字旧仮名
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  • 『道化の華』は、小説の書けない小説家の小説を描いている作品だ。この作品には2人の「僕」が登場する。1人目の「僕」は作品内に登場する小説の主人公である大庭葉蔵。2人目の「僕」は大庭葉蔵が登場する小説を書いている作家であり語り手でもある「僕」だ。作家の「僕」は大庭葉蔵が登場する小説を執筆していて、その執筆の途中で自分の考えや独り言を作家の「僕」が挟むというメタ的な視点の作品(メタフィクション作品)になっている。

    大庭葉蔵が登場する小説のおおまかな内容はこうだ。
    《1929年の12月の終わり、女と心中を図り自分だけ生き残った男・大庭葉蔵が青松園という療養院に入院してきた。心中相手の女は死に、自分がやりたくない後処理は実兄に任せて葉蔵は現実を直視しようとしない。葉蔵は見舞いに来た友達の飛騨、親戚の小菅と話したり外へ出掛けたりするが、3人とも「道化」と呼ばれる素振りを見せる。(「道化」とは、わざとふざけたり不真面目なフリを演じることで自分を守り、同時に相手を傷つけないようにすること)道化を演じる葉蔵、飛騨、小菅と、葉蔵の監視役の看護婦・真野の4人が療養院で過ごす4日間を描いている。》

    この小説に作家の「僕」は文句を言いながら筆を進めていく。作家の「僕」と大庭葉蔵の気持ち、行動はリンクしていると私は思う。作家の「僕」は試行錯誤して何とか面白い小説を書き上げようとするが、もう一人の「僕」・大庭葉蔵が登場する小説は上手く話が進まない。それは作家が不安な気持ちでいて、自分の未来を上手く描けていないからである。その精神状態がそのまま小説に反映され、結果的に小説の内容は不安定に、未来が続きそうにない微妙な終わり方になってしまうのである。

    また、著者の太宰は『道化の華』を書く前、1930年に女との心中事件を鎌倉で起こしている。太宰が実際に起こした鎌倉での心中事件は、この小説の中の心中事件のモデルになっていると思われる。このことから作家の「僕」と著者・太宰は同一の存在だという説もある。太宰・作家の「僕」・大庭葉蔵は繋がりが深く、リンクしているとも思われる。

    多重的に描かれたこの作品は読んでいると大庭葉蔵がこちらに語り掛けているのか、それとも作家の「僕」(=太宰?)が語り掛けてきているのか、2人の「僕」が混ざり合って不思議な感覚に陥るときがある。メタフィクション作品ならではの面白さがあるのでぜひ1度は読んでほしいと思う。

  • 己を守るために仮面を被り、道化を演じている登場人物たちからどこかメランコリーな印象を受ける。自分が傷つかないように心の奥底を晒さず、皆が本当の自分を隠してしまう人間の本質を感じた。『人間失格』の主人公と同姓同名の大庭葉蔵は、太宰の経験をさせられ、彼自身と重ね合わせて描かれた主人公なのだろう。作者の、何故自分は小説を書くのか、と言う自問に対し「復讐」だという答え。それは即ち己への復讐、かつて己の行いにより亡くなった女性達への贖罪の意ではないかと考える。物語と注釈が混在するメタ的な構成の中では、度々登場する作者の「葉蔵(太宰)を赦してもらいたい」「こんな自分を理解してほしい」という心の底が垣間見える。作品内でさえ本音を隠している太宰も道化、また読者たち人間も皆道化なのだろう。

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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