おしゃれ童子 [青空文庫]

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  • 青空文庫
  • 新字新仮名
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  • この本は、お洒落に敏感な少年を主人公とする物語である。その主人公は誰よりもお洒落に気を配っており、たとえその場が始業式であったとしても、己のお洒落だけに集中をしている。その姿は一見頑固で気が強く、負けん気の性格のようにも思える。しかし、主人公のお洒落意識は誰にも理解してもらえず、涙が出るほど悔しい思いをする場面がある。作者は「お洒落ではあっても、心は弱い少年だったのです。」と語る。それは、どんなに強そうで意思の堅そうな人も、実際は私たちと何も変わらない、弱い面を持っていることを示している。そして、読者はこの言葉から自分の弱い部分も受け入れることのできる勇気をもらえる。また、現代重要視されつつある個性や多様性を理解することの大切さも感じられる。
    主人公は服装が理想通りにならないとやけくそになる癖を持っており、その行動はもはや収拾がつかないほどのものであった。その中に「そんな不思議な時代が、人間一生のあいだに、一時は在るものではないでしょうか。なんだか、まるで夢中なのです。」と語られている場面がある。この文章は問いの形式で書かれており、どこか特別な思いを感じる。それは、これまで主人公のお洒落意識を異様に感じていたにもかかわらず、なぜか共感してしまうような工夫がされている。そして、この文章は読者にとっての不思議な経験(例えば、同じ商品を集めるのが好きだったり、色違いの服をいくつも持っていたりなど)や自分の独特な個性を思い起こさせる。
    主人公は大人になってから、頼るあてがなく、理想のおしゃれをする余裕がないほどにまで困窮してしまう。その落ちぶれぶりには驚かされたとともに、恐怖を感じた。このように、「おしゃれ童子」には、ユーモア要素を含んだ人間らしさが最大限に表れている。それはまさに人生そのもののようである。この書籍は、人間の面白さと弱さ、そして残酷さを表現した、太宰の作品らしい作品である。

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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