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感想・レビュー・書評
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この本は、お洒落に敏感な少年を主人公とする物語である。その主人公は誰よりもお洒落に気を配っており、たとえその場が始業式であったとしても、己のお洒落だけに集中をしている。その姿は一見頑固で気が強く、負けん気の性格のようにも思える。しかし、主人公のお洒落意識は誰にも理解してもらえず、涙が出るほど悔しい思いをする場面がある。作者は「お洒落ではあっても、心は弱い少年だったのです。」と語る。それは、どんなに強そうで意思の堅そうな人も、実際は私たちと何も変わらない、弱い面を持っていることを示している。そして、読者はこの言葉から自分の弱い部分も受け入れることのできる勇気をもらえる。また、現代重要視されつつある個性や多様性を理解することの大切さも感じられる。
主人公は服装が理想通りにならないとやけくそになる癖を持っており、その行動はもはや収拾がつかないほどのものであった。その中に「そんな不思議な時代が、人間一生のあいだに、一時は在るものではないでしょうか。なんだか、まるで夢中なのです。」と語られている場面がある。この文章は問いの形式で書かれており、どこか特別な思いを感じる。それは、これまで主人公のお洒落意識を異様に感じていたにもかかわらず、なぜか共感してしまうような工夫がされている。そして、この文章は読者にとっての不思議な経験(例えば、同じ商品を集めるのが好きだったり、色違いの服をいくつも持っていたりなど)や自分の独特な個性を思い起こさせる。
主人公は大人になってから、頼るあてがなく、理想のおしゃれをする余裕がないほどにまで困窮してしまう。その落ちぶれぶりには驚かされたとともに、恐怖を感じた。このように、「おしゃれ童子」には、ユーモア要素を含んだ人間らしさが最大限に表れている。それはまさに人生そのもののようである。この書籍は、人間の面白さと弱さ、そして残酷さを表現した、太宰の作品らしい作品である。詳細をみるコメント0件をすべて表示