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明治倶楽部なる社交クラブに岡本誠夫なる文筆家が竹内という男を訪ねて来るところから物語は始まる。
こういう社交クラブというのはよく分からないのですが、ヴェルヌ『八十日間世界一周』でフィリアス・フォッグが通っていたようなところでしょうか。今の時代に似たような場所はあるのでしょうか。
それはともかく、明治倶楽部には竹内をはじめ6人の先客がいました。この岡本なる文筆家は結構著名のようで、皆さん遠慮しているというか、一目置いているように見えます。
北海道炭鉱会社の社員の上村さんが
「お書きになった物は常に拝見していますので……今後御懇意に……」
というほどです。
しかし岡本さんはどういう分野の文章を書いておられるのでしょうか。
純文学の分野ならこんな場所に来るほど儲からないだろうし、いい暮らしをしているらしい実業家の上村さんが常に拝見するというと、経済関係や政論関係のジャンルでしょうか?それとも大衆文学・今でいうエンタメ関係でしょうか?
それはともかく、筆の力でこういう場所に出入りできる身分になったとは成功者と言っていい身分です。
国木田独歩の作品は今まで何篇か読みましたが、誰かからの伝聞や書き手の回想という文体が多かったのですが、本作品は三人称文体です。
内容としては、「少年の悲哀」「春の鳥」といったものから本作品のように立身出世した人々が社交クラブで語る作品まで、幅が広いですね。
それで本作品では牛肉と馬鈴薯に代表される人生観について議論が交わされ、中でも岡本の語りがメインとなります。
この岡本の語り、前半は岡本の恋愛体験に関する興味深いものですが、それによって得た岡本の人生観を語る後半はよく分かりません。
人間、同じような経験をしてもそこから考えることは色々あるということを表しているようです。
自分が岡本のような経験をした場合、牛肉と馬鈴薯についてどのような人生観を持つか考えるのも一興かと。
ところで、岡本が訪ねて来た竹内という男の描写が少ないのはどういうことだろう。
本作品は三人称で描かれているようでありながら、実は竹内が描写していたということなのでしょうか。そこら辺、叙述トリックのミステリーに使えないでしょうか。
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20170724/p1