恩讐の彼方に [青空文庫]

著者 :
  • 青空文庫
  • 新字新仮名
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感想 : 9
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感想・レビュー・書評

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  • 市九郎は主人の妾であるお弓と非道な恋をした罪で主人から罰を受けることになるのだが、逆上して主人を殺してしまう。妾と逃亡した市九郎は生活のために悪事を働く中で、ある出来事がきっかけで出家することになる。その後、多くの人が命を落とすという桟道にたどり着き、洞門を掘り進める。そこに主人の息子の実之助が父親の敵討ちに現れるが、市九郎は洞門が完成するまで待つように申し出る。実之助も工事に参加し、完成したとき、二人はすべてを忘れて共に号泣した。
    作品中の洞門を掘り続ける市九郎の描写から、見るに堪えないほど変わり果ててしまった姿が写実的に描写されており、その姿がありありと想像できる。かなりの年月を洞門に費やしてきたことが伝わり、時の流れの残酷さを感じる。この表現から伝わる苦労が、最後に洞門が開通したときの市九郎の喜びをより一層際立たせていると思う。
    実之助は市九郎に対して父親を殺したことに対する恨みと、罪の懺悔に苦しむ姿に対する情けを抱いていたが、結果として実之助は市九郎を殺さず、共に涙を流したことから、情けや恨みという感情を超えて、市九郎が成し遂げた偉業に対する驚異と感激が赦すということにつながったのだと思う。

  • 何気なく選んだ本書だったが、いざ読んでみると敵討ちの無益さや、人間が犯した罪は償えるか、などのことを考えさせてくれる良い作品だったと思う。
    作品を読み続ける内に、復讐心に囚われていた実之助の心情が変わってく様を感じることができ、市九郎もまた実之助によって最後は許される形で本作が幕引きを迎えるのが美しいと思った。
    また、作中にて市九郎たちはノミと槌だけでトンネルを掘っていくが、実際にノミと槌だけで掘られ、この作品のモデルとなったトンネルがあるということを読了後に知り、非常に驚いた。
    本作を読むと敵討ちよりも、市九郎に対する人情が徐々に勝っていくが、私が実之助であったならばきっと市之助を許すことはできなかったと思う。そもそも実之助は初めて市九郎に会った際に、彼のトンネルが開通するまでは殺すことを待って欲しいという願いを聞き入れていることが既にすごいと思う。
    何年かかるか解らないにも関わらず、実之助はトンネルの開通まで復讐を我慢できたことにより、最後に市九郎が許されて終わることができたのではないだろうか。
    憎い敵が眼前にいるにも関わらず、己の復讐心を御することができた実之助の強さには感服の限りだと思った。

  • 「ベアアタック怪奇ラジオ」であらすじを聞いたが 実際に読むとやはり面白い
    名作と誉れ高いことはある
    しかし ラジオのあらすじもよかった
    洞窟の暗闇が 朗読にベストマッチする

  • かつては悪いやつだったけど、改心して聖となる、という、良くあるといえばよくある話。
    ここで凡人が勘違いしがちなのは、悪いことしても謝ったから良いよね?みたいなところで、謝って済めば警察は要らんというやつである。
    そういう意味では、このおっさんくらい人間の限界に挑戦するレベルじゃないと許されんということですよ。厳しい話ですが。
    でもトンネルが繋がるのって、やっぱ男のロマンよね。

  • 読みやすくてストーリーもわかりやすかった。

    内容も、面白く現代小説の感覚でさっくり読めた。

    復讐する息子を無理矢理周囲が説き伏せたら後味悪かったかもだけど、本人が納得して、復讐を遂げなかったことに意味があると思う。

    印象にも残ったし、外の作品も読んでみたい。

  • 刑罰というのは、何のために有るのか?

    被害者の感情を酌む為にあるのか?
    罪に対して、抑止力のための罰か?
    加害者が悔い改めるための業なのか?


    地元だし、秋だし耶馬溪と羅漢寺に久しぶりに行ってみるか。

  • 大誓願という言葉を覚えた作品。

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著者プロフィール

1888年生まれ、1948年没。小説家、劇作家、ジャーナリスト。実業家としても文藝春秋社を興し、芥川賞、直木賞、菊池寛賞の創設に携わる。戯曲『父帰る』が舞台化をきっかけに絶賛され、本作は菊池を代表する作品となった。その後、面白さと平易さを重視した新聞小説『真珠夫人』などが成功をおさめる一方、鋭いジャーナリスト感覚から「文藝春秋」を創刊。文芸家協会会長等を務め、文壇の大御所と呼ばれた。

「2023年 『芥川龍之介・菊池寛共訳 完全版 アリス物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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