彼岸過迄 [青空文庫]

  • 青空文庫 (1999年9月18日発売)
  • 新字新仮名
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青空文庫 ・電子書籍

感想・レビュー・書評

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  • この作品は、夏目漱石が「面白い物を書かなければならない」と言う前書きから始まります。彼は当時大病を煩っており、『彼岸過迄』は休止してから久しぶりの投稿となりました。前々からいくつもの短編を書きあげた末に、短編が重なり合い一つの長編小説として書くことを計画していました。新聞小説をこのような形で書けばとても面白い作品になると思っていた漱石ですが、大病などで機会を得ることが出来ていませんでした。『彼岸過迄』は、漱石が書き上げたくて仕方の無かった作品だといえます。さて、この作品の特徴は先ほど出てきたように一つ一つの短編作品がつながり合う仕掛けが施されています。ですが短編作品なので初めて読んだときは気づくことが出来ませんでした。それくらい一つ一つの短編作品が確立されていました。私がとても意外にかんじたのは、漱石は前置きの段階であまり自信があるように感じなかったからです。むしろこのような作品形態が成功するのかという不安のほうが強く伝わって来ます。ですが、そんな不安は必要ないほどに伏線の張られた物語でした。

  • 劣等感に起因する引っ込み思案な主人公だ。物語の前半は無職と思しき男たちのゲームのような暮らしと、生活感あふれる現実的な女たちを、対照的に観察日記のように描写しており、高等教育を受けたにも関わらず、親の資産があり、役人でもなく会社勤めをするでもなく、まったりと暮らす須永が主人公だ。盛りだくさんな内容であり、短編を集めた形になっている。前半、探偵のように尾行していくときの、主人公(敬太郎)の心情描写を読んでいて、どきどきし、後半では市蔵と千代子の恋愛の話で、なかなかの複雑な事情にどきどきした。全体的に、登場人物の仕草の描写がきめ細やかで、読み応えのある作品であった。夏目漱石の心理描写の緻密さを改めて思い知らされる作品だった。

  • この本は1910年に大病を患った夏目漱石が、復帰後に最初に書いた長編小説であり、後期三部作の一冊と言われています。
    長編小説といっても、この物語は6つの短編から成っています。短編がひとつの話にまとめ上げられ、長編小説になったものなのです。夏目漱石は当時新聞でこの作品を新聞で連載していました。毎日少しずつしか進まない物語を短編として仕上げていきながら、その短編を さらにまとめ上げたときに、長編小説が現れる。夏目漱石がかねてより思い描いていたというこの構想は、なんとも素晴らしく粋で素敵なものに思われるでしょう。

    この物語は、主人公、そして聞き手に田川敬太郎がおかれ、様々な登場人物から話を聞いていきます。オムニバス形式のような形で、田中敬太朗視点で物語は進められながら、しかし様々な立場の登場人物、それぞれが語る短編からひとつの長編の話が出来ています。
    登場人物は多くはありません。しかし、それぞれの関係性が複雑で、さらには語られる時系列もバラバラな為、少し話を整理しにくいように思います。一度読むだけでは所々分からなくなってしまう部分もあるかもしれません。しかし、だからこそ読み応えも十二分にあるでしょう。特に、後半になればなるほど、ややこしかった前半の内容が伏線となっている部分や、こういうことかと得心する箇所が多く出てくると思います。前半でついて行くのが大変だと思っても、後半では気付かぬうちに彼岸過迄の世界に引き込まれて読む手が止まらなくなりました。
    また、前述の通り、主に主人公が聞き手となっています。そのため、物語世界に存在していない私たち読者も、主人公と同じように、語り手となる登場人物の話をダイレクトに肌に感じ、のめり込んで聞くことが出来ます。ゆえに『こころ』のように、語り手となる登場人物の胸に秘めた葛藤や、苦しみが生々しく味わうことが出来るのです。
    しかし、最終章に「敬太朗の冒険は物語に始まって物語に終わった。(中略)彼の役割は絶えず受話器を耳にして、「世間」を聴く一種の探訪に過ぎなかった」という文があります。また、同じく最終章に、松本が「自分自身がひがんでいる理由がわからない」と涙するシーンがあります。
    これらの文は、いずれも現代に生きる我々の胸の内に波紋を呼ぶものではないでしょうか。非現実な物語の中で、誰もが一度は思ったことのある問いに改めて立ち返ることもできる。そんな物語のように思います。
    それらも踏まえ、夏目漱石の世界観を十分に感じられる作品でもあると思いました。

  • 途中から須永が主人公になって「?」ってなる。いやしかし敬太郎は平凡な主人公だな。ホモだけど。敬太郎×森本に人生が流転していくのだろうと腐女子は思いました。

  • 途中色々挟んだので、大分かかったが、漸く「彼岸過迄」を読み終えた。
    それから、といい、門、といい、どれもこれもなんかスッキリしない終わり方ばっかり。
    彼岸過迄は誰が主人公かわかりゃしない。
    須永や松本の話しが後半ほとんどで、敬太郎に話しが戻ったと思ったら、お終い。
    この後、行人、こころを読もうと思っているが、おんなじ感じなんだろうか?

  • sony bookreader を購入。取りあえず無料の作品から読んでみようと、漱石からはいってみた。

  • 20120323読み終わった

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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