吾輩は猫である [青空文庫]

著者 :
  • 青空文庫
  • 新字新仮名
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感想 : 11
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感想・レビュー・書評

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  • 70ページ;
    細君が年に一度の願いだからぜひ叶えてやりたい。いつも叱りつけたり、口をきかなかったり、身上の苦労をさせたり、子供の世話をさせたりするばかりで何一つ掃薪水の労に報いたことはない。

    自分の妻を褒めるのはおかしいようであるが、僕はこの時ほど細君を美しいと思ったことはなかった。諸肌を脱いで石鹸で磨き上げた皮膚がピカついて黒縮緬の羽織と繁栄している。
    その顔が石鹸と摂津大掾を聞こうという希望との二つで、有形無形の両方面から輝いて見える。どうしてもその希望を満足させて出かけてやろうという気になる。

    とぼけた顔をして「君のような親切な夫を持った妻君は実に幸せだな」と独り言のように いう。 障子の蔭でえへんという細君の咳払いが聞える。

    79ページ;
    「鼠どころじゃございませんお雑煮を食べて踊りを踊るんですもの」
    「くしゃみくんなどは道楽はせず、服装にも構わず、地味に世帯向に出来上がった人でさあ」
    「しかしそんなところがくしゃみくんのくしゃみくんたるところでーーとにかく 月並みでない」と切ない褒め方をする。

    130ページ;
    主人は平気で細君の尻の所で頬杖をつき、細君は平気で主人の顔の先へ荘厳なる尻を据えたまでのことで無礼もヘチマもないのである。ご両人は結婚後一ケ年も経たぬ間礼儀作法などと窮屈な境遇を脱却せられた超然的夫婦である。

    超然たる模範細君である。

    209ページ;
    「本当にそうだ。先だってミュッセの脚本を読んだらそのうちの人物がローマの詩人を引用してこんなことを言っていた。ーー羽より軽いものはチリである。チリより軽いものは風である。風より軽いものは女である。女より軽いものは無である。ーーよくうがってるだろう。女なんか仕方がない 」と妙なところで力んでみせる。これを承った際君は承知しない。
    「女の軽いのがいけないとおっしゃるけれども、男の重いんだって良いことはないでしょう」「重いたどんなことだ」「重いと言うな重いことですわ、あなたのようなのです」「俺が何で重い」「重いじゃありませんか」と妙な議論が始まる。迷亭は面白そうに聞いていたが、やがて口を開いて「そう赤くなって互いに弁難攻撃をするところが夫婦の真相というものかな。どうも昔の夫婦なんてものはまるで無意味なものだったに違いない」と冷やかすのだか褒めるのだか曖昧なことを言ったが、
    「昔は亭主に口返答なんかした女は一人もなかったんだって言うが、それならおしを女房にしていると同じことで僕などは一向ありがたくない。やっぱり奥さんのようにあなたは重いじゃなりませんかとかなんとか言われてみたいね。同じ女房を持つぐらいならたまには喧嘩の一つ二つしなくっちゃ退屈でしょうがないからな 」

    441ページ;
    「どうせ夫婦なんてものは闇の中で鉢合わせをするようなものだ。 要するに鉢合わせをしないでも住むところわざわざ鉢合わせるんだから余計なことさ。すでに余計なことなら誰と誰の鉢があったってかまいっこないよ。ただ気の毒なのは鴛鴦歌を作った東風君ぐらいなものさ。
    457ページ;
    「しかし親子兄弟の離れてる今日もう離れるものはないわけだから、最後の法案として夫婦が別れることになる。今の人の考えでは一緒にいるから夫婦だと思っている。それが大きな了見違いさ。一緒に入るためには一緒にいるに十分になるだけ個性が合わなければならないだろう。昔なら文句は無いさ、 異体同心とか言って目には夫婦二人に見えるが、内実は一人前なのだからね。今はそうはいかないやね。夫はあくまでも夫で妻はどうしたって妻はどうしたって妻だからね。その妻が女学校で行灯袴を穿いて 牢乎たる個性を鍛え上げて束髪姿で乗り込んでくるんだからとても夫の思う通りになるわけがない。また夫の思い通りになるような妻なら妻じゃない人形だからね。賢夫人になればなるほど個性はすごいほど発達する。発達すればするほど夫と合わなくなる。会わなければ自然の勢い夫と衝突する。だから賢妻と名のつく以上は朝から晩まで夫と衝突している。誠に結構なことだが、賢妻を迎えれば迎えるほど双方の苦しみの程度が増してくる。水と油のように夫婦の間には截然たる仕切りがあって、それも落ち着いて、仕切りが水平線を保っていればまだしもだが水と油が双方から働きかけるのだから家の中は大地震のように上がったり下がったりする。ここにおいて夫婦雑居はお互いの損だということが次第に人間に分かってくる……。」

  • 今まで読んだことはありませんでしたが、あまりに有名な作品なので一通り読でみることにしました。猫の気持ちが。分かりました。ネタバレになるのであまりいえませんが、とてもおもしろかったです。お勧めの書籍です。

  • あまりにも有名な本作。
    読んでみると漱石さんのうんちくとユーモアとひねくれ加減がよく書けていて面白い。この名前のない猫ちゃん、うちにも来てくれないかなぁ。

    学校の英語教師をしている主人の下で暮らす事になった名前のない猫「吾輩」

    猫の視点からわがままばっかりで胃弱な主人や、他人をからかってたぶらかす事に命を懸ける迷亭さんや、頭に禿のある奥さん、3人の子供。博士号をもらう為に日夜玉を磨く寒月君…。その他色んな人達を面白おかしく、そして思う存分辛辣に描いてくれます。

    ただし、最後まで読んで私は衝撃を受けました。
    最後吾輩はビールを飲んで酔っ払って水瓶に落ちて死んじゃうんですね。なんていうラスト。多分享年二歳。

    途中まで笑いながら読んでいたのであまりのラストに吃驚してしまいました。漱石さん、なにも殺すことはなかったのに。それだけが残念。

  • あまりに有名過ぎて読んだつもりになっていたけど、実は最後まで読んだことがないことに気付いたので、ちゃんと一通り読んだ。書き出しはあまりにも有名だけど、ラストシーンを知っているひとは意外に少ないんじゃないかな。

  • 小学生で坊っちゃんを挫折してから手をつけられなかった作品。まぁ、有名どころだし、読んでみようかな、と。
    結論、読みにくい。何が言いたいのかよくわからない。長い。その点、坊っちゃんの方が読みやすかった。
    と、批判ばかりしても仕方ないので…。
    漱石の考え方が猫の視点をとおして面白おかしく描かれている感じ。変な人物の変な話はかり。でも人間のある部分を誇張したらこうなるのかなと思ったり、馬鹿馬鹿しいようで意外となるぽどと思わせられたり。例えば自殺の話なんて、ちょっとわかる気がしてしまう。
    そして衝撃のラスト。意外。なんていうブラックユーモア。直前の自殺の話と関連しているのがまたなんともいえない。実際、ここを読んだだけでも意味があった気がする。
    さーて、このラストについての論文探してみようかな。

  • 20120323読み終わった
    本の虫だった私を読書から遠ざけた諸悪の根源。12歳の子どもにはあまりにもつまらなかった。それっきり、読書量は目に見えて減った。時を経た今、再読してみて、こんなにクスクス笑える小説だったとは驚きである(結末は衝撃だった…ブラックユーモア)。20年ぶりに和解した漱石さんは、鴎外と時期は違えど同じ明治時代にイギリス留学の経験がある。欧米に対する批判的な論調が見受けられるのは、神経衰弱に陥って帰国したといわれるように留学経験が良い想い出として残らなかったせいもあるんだろう。●10代の認識と好き嫌いが、年を重ねると覆ったり改まったりすることがある、一例となった。どこかで「『猫』がおもしろくなるのは30代」と聞いた。この年齢だからこそ分かるおもしろさもある。いままでとは質の違う楽しみ方を発見するのも、年を重ねる醍醐味なんだろうなと思う。

  • 猫の視点から見た日常風景と描写が、とにかく面白い。しかし、いかんせん長すぎて、全部読む気にはなれなかった。

  • 「吾輩は猫である」を青空文庫からiPad2にて読む。

    夏目漱石作品は、「こころ」「夢十夜」に続き三作目。
    「吾輩は猫である」は有名な冒頭部分しか知らなかったで、
    初めて全篇を読了。
    しかし、随分と冗長で理屈っぽい猫の語り口が、
    読み進めるのに抵抗が出てしまい、
    読み終えるまでに時間がかかってしまった。

    猫目線で見た主人である苦沙弥や迷亭、寒月、東風などなど
    たくさんの愛すべき変人たちをオモシロオカシク描いてる。
    当時の文化などを知るきっかけにもなる。
    並行して猫の日常をも織り交ぜてはいるのだけど、
    決して猫の話ではないなと。
    猫で居ながらにして、猫でないような存在。
    冗長で理屈っぽし。むしろ屁理屈とでもいうべきか。

    突然訪れるラストシーンの猫の悲劇。
    おかしみをたたえたまま描写されてるけれど、
    とても怖いのですが…

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著者プロフィール

1867(慶応3)年生まれ。帝国大学英文科卒。英語教師を経て、イギリスに留学。1905(明治38)年、「吾輩は猫である」を発表し、大評判になる。その後、「坊っちゃん」「草枕」など次々と話題作を発表。1907(明治40)年、新聞社に入社して創作に専念。「三四郎」「こころ」など、近代日本を代表する数々の名作を著した。最後の大作「明暗」執筆中に胃潰瘍が悪化。1915(大正4)年、永眠。

「2023年 『10分でおもしろい夏目漱石』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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